第16話 未知からの祝福

 ヤンが席の用意が出来たと、鹿島を呼びに来た。


二つの席にトーマスとヤンが並び、対面に一つの席が置いてあった。


ビリーとポール等二人は、歩哨なので席に背を向けている。


トーマスは黙想している様子であるが、

ヤンは顔を赤くして落ち着きがない。


ポールは鹿島に気づき、少し怯えた様に敬礼をする。


 トーマスとヤンは鹿島に気づき、すぐに立ち上がって、

「ご足労かけて申し訳ありません。」

と、一礼した。


 鹿島は席に回り込み、子たち達の方に目をやると、

子供達二人によるダーホー解体が見えた


男の子は鹿島と目が合うと走り寄って来て、

「肉を焼きたいので、火をつけてほしい。」


 鹿島は傍のビリーに声掛けして、

バーベキューセットを用意するよう言うと、

ビリーは目を白黒させて啞然としている。

「どうした!用意してやれ。」


 突然にビリーは、無言のまま駆け出して行った。


目の前の三人は、口を開けたまま茫然自失している。


「さて、始めようか。」


トーマスは顔を赤らめながら、ゆっくり声で会話を始めた。


「子供達と意思疎通ができて、会話しているように見えるのですが?」

「俺は少し地球星訛りだが、

普通の銀河連合標準語が通じているみたいだね。」


「隊長が子供と話している時、

銀河連合標準語で話してはいないのです。」

「じゃ~、俺は何語で話していると?」

「子供達と、同じ言葉です。」

「君たちは、子供達の言葉が解らないと?」

皆が頷く。


「コーA.I、俺には全く理解できないし、ましてや、説明もできない。何か説明できるか?」


 コーA.Iは、教師のような話声で自信たっぷりげに、

「人間が新たな言語を覚えるのは、学習する必要があります。

学習した言語を使うとき、学習した事を思い出します。

自分の言葉は、生活の中でインプットされています。

コンピューターでしたらプログラムを作成し、

インプットするだけで済みます。

インプットされたら、普通に使います。

使えることに疑問は起きません。

閣下の中に、いつの間にか言語がインプットされたとしか思えません。

子供達との会話が出来る言語は、既に普通として閣下の中にあるので、疑問に思わないで使っていると思います。」


「違う言語を、切り替えようと思わずに自然にできていると?」

「出来ています。」

「原因は?」


「閣下の変化したことを、順に伝えます。

子供を抱えての走りは、約百メートル走って十秒弱です。

戦闘中、一敵から二敵の胸に刃を刺した時、

ロングジャンプした距離は、六メートルありました。

子供と運んだ爬虫類は約百二十キロの重さだと推測しましたが、

一人で引く場面がありました。

そして、子供達との会話。

閣下に原因が思い当たる事が有りましたら、

閣下は、体験と、推測できる範囲を説明すべきです。」


 鹿島は、腕を組んで考え込んだ。

周りの空気が重い、脳筋ムキムキ娘がこの場にいたらジョークがあり、癒されたかもと、鹿島は隊員たちの顔を一人一人見渡すが、

皆は鹿島の言葉を期待するように構えている。


鹿島は重い奴らばかり連れて来てしまったものだと想いながら、

体験と疑問点を略式にだが、順に話しだした。


「高エネルギー塊が俺に衝突した時、

【六常の仁、礼、信、義、智、絆、を持つものよ、世に平和と安泰を成して。

仁、礼、智、信、孝、節、悌(てい)、義、絆、九つの徳を持て、我が伴侶となる愛しい人。】


と、俺は俺に独り言を言いながら、

魂の遊離と言うか俺自身と言うべきかは?わからない。

宙に浮いている状態からみんなの行動を眺めていたが、

気が付いた時には,

トーマスとビリーに引きずられていた。

回復したその後偵察に向かいながら、

一メートルはジャンプ出来ると思う位に体が軽いと感じた。


高エネルギー塊が俺に衝突した時と同じような話声が、

耳からでなく脳内感覚的で、石の中から子供達の会話が何故か、

頭の中で響き渡るように聞けた。


子供達の会話の中に、

俺たちは『ガイア様に愛された人』と、言葉が出たが、

それも理解できない。

高エネルギー塊はガイア様と呼ばれているようだが、

はっきりしない。」

と鹿島は鹿島なりに話した。


総司令官から、

「答えは、子供達が知っているかも?」


鹿島は頷いて、みんなの顔を見回すが、

皆は鹿島のことを心配している眼をしているが、

状況を理解できないのか、誰も声をかける者がいないので、

鹿島は仕方なしに子供達を呼びに行く事にした。


「ヤン、子供達に何か飲み物を、用意しておいてくれ。」

と言った鹿島は肩を落として、子供達を迎えに行った。


 子供達はビリーから渡されたのかホークを使い、

皿の上の焼いた肉を頬張っている最中であったが、

鹿島は子供達に話を聞きたいので、

椅子に座って食べようと誘い、皆のところへ向かった。


 席の場所には、折りたたみ式の小さなテーブルがあり、

オレンジジュースとぶどうジュースが置いてある場所に、

鹿島は子供たちに座るようニコニコの顔で伝えた。


「私は、鹿島と言います。君たちは?」

「僕はアーマート、妹がマクリー」


「私達は遠い国から来たので、何もわからない。

君たちの知っている事を教えてほしい」

「いいよ。おじさん(ガイア様に愛された人)?」


「ガイア様に愛された人とは?」

「おじさんの中にガイア様が入ったでしょう。僕たち見ていたよ。」


「赤く輝いていたのは、ガイア様なの。」

「おばあちゃんに聞いたとおりの、赤く輝きながら燃えている人。」


「おばあちゃんは、ガイア様に会ったことがあるの。」

「昔からある言い伝えだよ、いい子にして、正しいことをしていれば、ガイア様に会えると。」


「ガイア様に愛された人になると、どうなるの?」

「いっぱい力を授かるらしいよ。」


「どんな力?」

「解らない。」


「どうして君たちは、岩の中へ居られるの。」

「見られてしまったね。内緒にしてくれる。猫亜人なら出来るよ。」


「会話も聞こえたよ。」

「え!テレパシーは兄妹同士だけだよ。

やっぱり叔父さんガイア様に愛された人だよねー。」

どうも子供達の話は曖昧である。


 鹿島は、【我が伴侶となる愛しい人。】と、(ガイア様に愛された人)の言葉は同じ意味かな?と思いながらも、

燃える髪の毛の少女の言った【我が伴侶】の言葉は、

軽い言葉ではないだろうとも感じていた。


 猫亜人の子供達の話から、鹿島が推測できたことは、

高エネルギー体は、

赤く輝く燃える人でガイア様と呼ばれるらしいが、

ガイア様と呼ばれる未知の物に、身体に入られた人は、

ガイア様に愛された人になるらしい。


ガイア様に愛された人になると、未知の力が貰えるらしい。

未知の力とは、この惑星の言語を理解して話すことができて、

超人的なスピードと、

跳躍力が突然に開花したことであろうと推測した。


 鹿島は猫亜人種の能力を加えて、

全ての知り得た事を輸送艦に報告したが、自分の理解出来ない能力は、ガイア様に力を授かったのではとの思いが込みあがってきて、

ガイア様を受け入れることにしたが、

その想いはコーA.Iとの会話では秘密にした。


 鹿島は偵察隊全員を集合させると、

子供達の名前と分かった事全てを話してから、

みんなからの質問に対しては、推測を交えながらの説明となった。


 脳筋部類の鹿島では、

推測をしながらの説明は神の奇跡としか感じないので、

「俺の頭では説明できないのだ。結論はコーA.Iの解明を待とう。」


 鹿島の故郷地球日本地区では八百万の神々がいるので、

新しい一柱が増えたと思い、ガイア様とやらを敬うことにした事は、この場でも口に出さなかった。

このことでも、絶対一神教を崇拝する者には理解されないだろう。


 日は高いけど、鹿島は早めの睡眠を取りたくなり、

六時間後歩哨を交替することをトーマスに伝えると、

目覚ましを六時間後に合わせ終えてポットのベッドへ倒れ込んだ。

  

 腕時計の軽い目覚まし振動で目を覚ました鹿島は、

赤らめ薄明かりを不思議に思い、周りを見回すと、

身体中に赤色微粒子がくっついているのに驚き、急ぎ身体を起こすと、赤色微粒子は身体から離れてポットの壁に全て消えていった。


ポットの中は、本来のベージュ色の薄明かりに戻っている。


 鹿島は改めて昼間の出来事は、

夢でないことを確認させられたので、この出来事を、

新しい神様の祝福と思うことにした。


 もう何があっても驚かないことに仕様と思う、

鹿島は自分に苦笑いした。         


 鹿島は軍靴を探すためにベッドの足元に目をやると、

床に子供達が寝ているのに気づいたが、

二人とも熟睡しているのを不思議に思い、

何で帰らなかったのかと聞くには、

かわいそうだと思って子供達を順にベッドへ寝かした。


 帰れなくなった理由は、陽が落ちでしまい危険となったことで、

誰かが鹿島のポットに案内したのだろうと思った。


ボックスから毛布を出して子供達に掛けて、

緩んでいる防護服のベルトを締め直すとポットの外へ出た。


 ポットの外は月と星明りで満遍なく明るいようだが、

影の部分は不気味な暗さを醸し出している。


初めて降り立った惑星で感じるのは不気味な闇であり、

そこから発せられている、監視されている感覚を感じるからであろう。


 鹿島は星空を見上げると、故郷地球よりも一回り大きめの月は、

到来者達を監視しているようにも思えた。


 草原は月明かりでも足元は暗いので、

鹿島は腕のライトを照らして担当歩哨を探していたら、

片目に赤外線機能付暗視鏡を付けたトーマスが現れた。


「隊長、ご苦労様です、私はこのままで二時間後にポールと交代です。子供達は隊長がポットに入ったあと、居なくなりました。」

「子供達は俺のポットで寝ているよ。」

「いつの間に?」


 鹿島がポットに入った後、歩哨番でない者は子供達がいなくなる前から、鹿島のポットの前でくつろぐようにしていたとの事で、

トーマスは不思議だと言い出した。


「奇跡が起きても、不思議が起きても、もう驚かない。

子供達はきっと壁から入ったのだろう。」

「隊長。また神の話しですか、まだ少しお疲れでは?」


「身体も頭も、すっきりしている。

リラックスクラブを体験した後みたいだ。」


「隊長はいつも、奇跡も不思議も無い、それは敵の戦術だ。何かが変だと思わなければならないと、いつも言っていましたのでは?」

「確かに、しかし、俺の身体の変化は非現実的だが、

現実と受け止めざるを得ない。」

「現実です。」


「では、俺のことの解明は、総司令官とコーA.Iに任せよう。アーマートとマクリーのことは目を覚ましたら聞いてみる。」


 二人は話を打ち切り、円陣に並んだポットの周りをまわると、

偵察に専従する為に左右に分かれた。


 鹿島はゆっくりと歩き、立ち止まっては暗視鏡から周りを見回りながら、周りの状況の確認をしだした。


 もう少し歩いたらトーマスと会える頃だと思いながら周りを警戒している最中に、輸送艦から通信が入った。


「四足歩行生命体の熱感地反応あり、

西より十七頭確認、距離四百メート位。」


 円陣に並んだポットの中広場に鹿島が入ると、

直ぐにトーマスも入ってきた。


トーマスは、

「遠視暗視鏡は私が運びます。」

と言って、機器類置き場へ向かった。


 鹿島は西側隙間から外に出て、

暗視鏡を目一杯遠視に絞り込み注視した。


 動物体特有の白く光目が上下しながら、

森の方からダーホーの骸に向かっているのが確認できた。


 森の中から現れた、新たなる危険な動物との顔合わせの様子である。


「体型はコヨーテ、鼻だけが豚似です。」


 トーマスの声に、鹿島は犬の豚顔を想像したら、

ブルドックの顔が出て来てにやけ顔になった。


 鹿島はブルドックの顔を想像しながらにやけている。


 遠視用暗視鏡を覗いているトーマスから代わってもらい覗くと、

口の上部分は盛り上がり豚鼻であるが、

残念ながらブルドックでは無かった様子である。


「アーマーの話だと、石を取らないと魔物が来ると言っていたが、

あれは魔物では無いのか?」


「次から骸は焼却しないと、いけませんね。」

「うん、次からは焼却しよう。」

その後コヨーテ似は満腹したのか、

残りの骸を森の中に引きずり込んで行った。


 トーマスとポールが歩哨番を入れ替わった。

ポールは口数少ない陸曹の中で、端に位置する位の寡黙な男であるが、鹿島は現状心理を聞き出したいので話しかけた。


 ポールには故郷に恋人が居たらしいが、

しかしながら陸戦隊の帰還率は三割以下である旨を指摘されて、

帰ってこられるのか、帰ってこないのか心配したくないので、

もう連絡しないよう言われたと寂しく下を向いた。


「でも、隊長と一緒なら、

どんな過酷な状態でも死なないと思っています。

みんなと一緒なのですから、この星で希望を持ちます。」


「すまない、これからもよろしく、協力してくれ!」


 ポールも鹿島の笑顔に安心したのか、満面の笑顔を鹿島に返したが、本心は鹿島の変化をかなり心配している様子である。

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