惑星併合

第14話 燃える髪の女神

 住居用個室脱出ポットの中は広い、

直径約三メートル位の円筒形式になっている。


 鹿島達偵察隊五個の住居用個室脱出ポットは、

輸送艦から噴出されたのち、暫く間降下中は無重力感であったが、

体が回転した様子を感じたのちにジェット音がすると、

ポットが上下逆になった様子なのでショックに備えて身構えると、

ガツンとシートに押さえつけられた。


 鹿島の脱出ポットのパラシュートは、無事に開いたようだ。

鹿島隊長は直ぐに座席の脇の窓から外を見ると、

色鮮やかな八つのパラシュートが確認出来たので、

四人とも無事らしいのに安心したようである。


鹿島は自分の乗っていたポットが最初に着地したであろうと思い、ゆっくりとシートベルトを外した。


 アナウンスから、

五メートル間隔で円形状に順次着陸したことを知らせてきた。


鹿島はシートベルトを外し終えると、

防護アーマーは着用したままであったので、

座席脇のチェーンソー内蔵刃を腰に差してレーザーガン片手にポットの外に出てみると、

確かに五メートル間隔で円形状に着陸しているのを確認できた。


 鹿島は奇跡を見た感覚になったのか、

「こんな事、あり得るのか? 」


 ベスト.バージョン惑星では、重さや大きなはかなり違うが、

降下ポットの落下地点はキロ単位で分散した。


 脱出ポットにしても、

百メートル以上離れての降下着地が普通の感覚である。


 着地点は三方が壮大な草原であり、

一方向は森まで七百メートル位である。


 鹿島は未知の赤色エネルギーが五十~六十メート間隔に浮いているので、近くの未知赤色を口で吹いてみると、

逃げるように遠くまで飛んで行った。


 総司令官からの通信が入り、

「無事に着地確認しました。

コーA.Iのコントロールはいかがでしたか?」


「コーA.Iがパラシュートとジェット噴射をコントロールしたと?」

「そうみたいです。十センチ内の誤差を初めて見ました。」


「いいえ、一センチ未満です。」

「今の言葉、コーA.Iですか?」


「はい、快適な旅でしたか?」

「コンピューターが口をはさむ?問いかける?」

鹿島は変な気持ちになり、コーA.Iの問いかけを無視した。


 偵察隊は、着地した順に鹿島の周りへ集まり始めた。


 今回の偵察は着地点から三百メート前後を目安にして、

ポールとヤンを歩哨に指定すると、残りの者は鹿島を囲むように、

地図を見ながら偵察範囲を確認している。 


 鹿島とビリーが前衛で、後衛はトーマスが託された。


 草原は所処に一メートル位の低木があり、

偵察隊は三十センチ位の草をかき分けながら進んだ。


着陸地点から二百メート位進んだ頃、

「六十メートル位先、

草原の中に一メートル前後の二つの生命体確認。」


 無線から声が届いたので、偵察隊は立ち止まると、

突然、前方に赤く輝きながら燃えているような長い髪の人型が現れた。


 人型は未知の集合体みたいで、揺らめきながら、

周りの赤い浮遊物を吸い込んでいる。


 総司令官から無線が入った。

「前方十五メート先に、未知の高エネルギー塊出現。

注意してください。六十メート先の二つの生命体とは別です。」


 突然現れたのは未知の高エネルギー塊のようで、

目の前の燃えているような人型のことのようである。


 三人は三方向から周りを警戒しつつ、

注意深く高エネルギー塊に近づいた。


「隊長、あれは何でしょうか?」

「わからん!輸送艦からは、高エネルギー塊と連絡が入った。」


「撃ちますか?」

「まさか、敵なら撃つ、味方なら助ける、どちらつかずなら説得する。基本だろう。」


「どうしますか?」

「どちらつかずなら、説得する。トーマス、細胞調査感知器を俺に。」

「え~何をするつもりですか?」


 鹿島はレーザーガンをトーマスに預けて、

細胞調査感知器を手に持ち、

感知ノズルを目一杯伸ばしてゆっくりと高エネルギー塊に近かずいたが、

燃えているような感じなのに、熱は感じてないようである。


 高エネルギー塊はただ揺らめいているだけで、特別な動きはない。


 十メートル、五メートル、高エネルギー塊に変化がない様子なので、鹿島は感知ノズルを目一杯伸ばした。


高エネルギー塊にノズルヘッドが届いた瞬間、

高エネルギー塊は鹿島の身体に向かってくると、


【六常の仁、礼、信、義、智、絆、を持つものよ世に平和と安泰を成して。

仁、礼、智、信、孝、節、悌(てい)、義、絆、九つの徳を持て、

我が伴侶となる愛しい人。】

 

と、独り言にも思える声に、鹿島は自分が自分に話しかけてきた様子にも思えたと同時に、足の方に重力感がないので、

周りを見渡すと身は天上に浮いていた。


 鹿島は眼下を覗くと、トーマスとビリーが固まっている様な体制で、鹿島の地上に居る体の方を向いている。


 鹿島は眼下に固まった自分の体と、

浮いている自分の状態を不思議とは思わずに、

下の光景に信頼と安心感で、仲間を見守っている気持ちになった。


トーマスとビリーが慌てて自分の体を支えるのを見て、

天上の鹿島に笑みがこぼれた。


 突然に、マーガレットと陸戦隊全隊員からの、

頭の中で響くような絶望的な不安の心が聞こえた。


 鹿島は二人に両腕を抱え込まれ、

上向きにされて、足を引きずらされながらの体制で目を覚ました。


「待て、待て、止まれ!」

目一杯の声を上げるが、二人は止まらない。


トーマスは走りながら、着地点の歩哨に向かって怒鳴った。

「救急医療機器と毛布!」


 鹿島は防護アーマーを脱がされて、

透視スキャナーするやつ、血圧を測るやつ、顔を拭くやつ、

あちらこちらの関節を動かすやつと大忙しである。


 透視スキャナーしていたトーマスが、

「異常なし。」と、宣言した。

「お~お」



うやく、みんなが落ち着いたのを確認した鹿島は、

「俺を通り抜けた、高エネルギー塊はどうした。」 

と言って起き上がった。



リーが目頭を赤くして、

「だいじょうぶですか?」

「何ともない。」


「高エネルギー塊は通り抜けたのではなく、

隊長にぶつかった後、――消えました。」

「消えた?通り抜けたのではなく。じゃ~、俺の中に入った?」

「透視スキャナーしましたが、

高エネルギーは感知できませんでした。」


「じゃ~俺の体に、何かを残して逃げたのか?」

「そういう事があるのですか?」

 

鹿島は何かに怯え多様にか細い声で、

「コーA.I、高エネルギー塊と遭遇したとき、

モニタリングしていましたか?」

「はい、監視していました。」

「どの様に解釈する?」


「上空からですので、閣下の全体はわかりませんが、

赤外線カメラから判断すると、閣下の体が閣下の温度高騰後に、

頭とつま先の冷却速度が違いました。

高エネルギー塊は閣下に接触後感知できなくなったが、

閣下の体温はつま先が0,07秒遅れて正常になりましたので、

エネルギーは地中へ流れたとしか、判断できません。」


「俺の中には残っていないと?」

「残っているとは?」

「独り言を言ったような、考えたような?」

「話がかみ合ってないようです。高エネルギー塊が残っていると感じるのは、どうしてですか?」


「未知の生命体が体に何かを残す。色んな噂があるからです。」


 自分の中に誰かが入り込み、鹿島に話しかけたのだと思った鹿島は、コーA.Iとの話を合わせきれないと判断したため、

話を続けるのをあきらめた。


 再度偵察に向かうために防護アーマーを着用していると、

トーマスが近づいて、

「歩哨に回られては如何ですか?」

「ありがとう、大丈夫だ!

ヤン!この周りの地形はハークできているか?」


「地図は確認しています。大丈夫です!」

「火炎放射器を背負え!」

「理由をお聞かせ、――願えませんか?」


「背負えの返答は!」

「隊長の考えている事は解ります。」

「理由は!俺に何かがあれば、――俺ごと炭にするためだ。」


「その命令には、承服できません。」

「トーマス、背負え。」

「誰もが背負えません。」

皆、直立姿勢で鹿島を注視している。


 鹿島は皆を見回して、自分が折れざるを得ないと判断した。


 隊を預かり、初めての不承服に、複雑な心境のようである。


「命令を取り消す。」

「どの様な懲罰でも受ける覚悟です。」

トーマスとヤンは、敬礼した。

「私事の命令であった。済まない。」


 鹿島はトーマスとの後日談で、この話が出た時、

俺なら部下でもやると言ったら、トーマスも同意したが、

トーマスはただしを付けての話であり、察するでしょうと話を切った。


「ビリー、ポール歩哨、残りは偵察。」

再び、偵察に出た。


 前衛は鹿島とヤンで後衛トーマスとなり、

体を引きずられた跡をたどり、

高エネルギー塊の出現した所をめざした。


 鹿島は歩いていると妙に体が軽く感じて、

ジャンプすると一メートル位出来そうだと思えて、


「この惑星の気圧は八十%と言っていたが、六十位ではないか?

どうも体が軽い。」


 鹿島のおどけた声で、トーマスはふざけ気味に、

「先の光るものに、余肉を取られたのではないですか?」

「かもしれない!」


 ヤンは不審そうに鹿島の方を向き、頭からつま先まで点検している。


 鹿島は余計なことを言ってしまったと、

反省していると通信が送られてきた。


「七十七メート先、二つの生命体確認。

先ほどの場所から二ツ岩の影に移動しました。」


 三人は立ち止まって、

単眼鏡で岩の方を見るが、生命体らしきものは確認できない。


鹿島は生命体らしきものを交互に確認するよう伝え、

周りの警戒に気を配った。


 トーマスは突然に、

「隊長、先から気になっていること、話していいですか?」

「いいよ。」


「微粒子のような赤い浮遊物は、

ヤンにぶつからないよう避けているのに、

隊長には、くっついてはまた離れていくのですが?」

「今度は入らずに、離れていくのか。

浮遊物に何か調べられているのかな。」


 三人は高エネルギーのいたあたりを、

鉱物調査器、熱感センサー、放射能検査器、細胞及び土壌調査感知器、持ち込んだすべての調査器で調べてみたが何の痕跡もなく、

何もわからなかった。

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