第12話 宇宙の捕食者

「緊急発令!緊急発令!未確認飛行物体発見。」


 マーガレットはコーA.Iからの緊急発令で、

緩んでいた気持ちが緊張した。


「前方三十万キロメートル先に、所属不明の水性飛行物体発見。

本艦航路線上に向かって来ています。三十分後に遭遇予定です。」

「なぜ突然現れた。」

「ワープ空間からか、感知不能状態であったのか、突然出現しました。」

「大きさは?」

「本艦の四分の一です。」

「映像は可能か?」

「可能です。」


 スクリーンに映し出されたのは、

真っ暗な空間に星座や星々の光を遮る正体不明の、

うごめく真っ黒い水性飛行物体であった。


「見たことがない物体だ。」

と、マーガレットは呟いた。


「生命体の反応は?」

「多数の生命体の集合物体です。」

「広がると、どのくらいだ。」

「本艦の表面積の半分です。」

「危険度は?」

「未定です。」

「成分は?」

「タンパク質性ゼラチンです。」

「食べられるのか?」

「、、、、未定です。」


「艦停止!一級非常事態宣言!

提督閣下!司令室へお越しください!」


 鹿島は一級非常事態宣言と司令室を受けると、傍にいたトーマスに、

「宇宙区間戦闘準備、全員密封アーマー着用と伝えろ。」

と言って鹿島は駆け出した。


「真っ暗な空間だけのようですが?」

と鹿島はスクリーンに映し出された星座や星々の光だけを見ていた。


 マーガレットはペン型弱小レーザー光線で、

スクリーンに輪を書き込んだ。

「これが、タンパク質性ゼラチンで、多数の生命集合物体です。」

「危険なの?」

「危険か友好かは不明ですが、

宇宙区間では、ほかの生命体すべてを敵と仮定します。」

「なぜ敵と?」

「初遭遇は、意思疎通が難しいからです。」


 密封アーマーを着用したトーマスは、

鹿島用の密封アーマーを抱えて司令室へ現れた。


「司令官殿、宇宙区間用アーマーをお持ちしました。」

と、にこやかに笑っている。


「あ、ありがとう。」

「では、陸戦隊は、小ホールで待機しています。」

「頼む。」


 鹿島がゼット噴射燃料を確認して、密封アーマーを着用しだすと、

「鹿島隊では、互いの会話は、砕けた雰囲気の言い方をしますのね。」

「普通でしょう。」


 マーガレットは、軍隊の中では普通ではないとの思いか、

ニコリとしながら片肩を落とした。


「タンパク質性ゼラチンは、やはり本艦に向かってきます。」

「タンパク質性ゼラチンに向けて、

全レーザー砲、最弱フラッシュで点射!」


「停止しません。さらに加速しました。」

「全レーザー砲、最大エネルギーで点射!」


「点射に対して飛散。再び集合体に戻りました。集合体さらに加速。」


「陸戦隊、無酸素、火炎放射器装備。」

と、鹿島は駆け出すと小ホールへ向かった。


「間もなく接触。」

「衝撃に備えろ!」

と、マーガレットは叫んだ。


 が、輸送艦に集合体が光速に近い速さで追突したはずだが、

輸送艦には全く衝撃がなかった。


「コーA.I。現状報告。」

「本艦の船体に付着しています。範囲は徐々に広がりながら、

濃塩酸を出しています。」


「陸戦隊!外部の生命体駆除!」

と、艦長代理のマーガレットは輸送艦最高指揮官として、

一級非常事態中である権限で陸戦隊に命令した。


「全員、落ち着いて、敵の濃塩酸に気を付けろ。

では焼き払い作戦実行、出発!」

と鹿島は真っ先に非常口から飛び出した。


 輸送艦の船外では、陸戦隊による黒いスライムの駆除が行われた。


 陸戦隊は、黒いスライムを焼いては蹴飛ばしながら三時間が過ぎた。


「番号順に、ジェット噴射燃料の補給!急げ!」


 更に、三時間が経過すると、

「緊急事態!艦尾第四貨物室空気漏れ。艦尾A地区封鎖。」

と、コーA.Iのアナウンスが響いた。


 すぐ次のアナウンスがなされた。

「艦底H地区、艦首L地区N地区、艦側O地区、F地区、封鎖」


「ジェット噴射燃料が切れた順に交代。

燃料ギリギリまでにすべてのスライムを駆除しろ!急げ!」


 燃料缶を持った四人の艦乗務員が現れた。


「ジェット噴射燃料が切れた者は、命綱を目一杯伸ばして、

艦から遠くで補給しろ!」

と鹿島は命じた。


 陸戦隊ホルヘは燃料缶を持って船外を浮遊すると、

燃料缶を開いて給油の準備を始めると、

燃料缶内部の圧力で大量の念用が噴き出た。


「あほかあいつは!」

とシーラーが叫ぶが、大量燃料は宇宙区間に漂った。


 輸送艦にへばり付いていたスライムは、一斉にホルヘを目指した。


大量のスライムが自分に向かって来るのに気が付いたホルヘは、

燃料缶を放り投げて、命綱を巻き戻し始めた。


 小さな燃料缶を取り合うように、

燃料缶を核にして、スライムの集合体ができた。


「残りの燃料缶を口を開いて投下しろ。全員すぐに退避!」

と鹿島は叫んだ。


「燃料圧力百%。全速力で発進!

船外活動者の着艦確認後ワープする。」

とマーガレットは叫んだ。


 せわしないワープ準備である。


「ホルヘ、お前は時々変なドジをやって、いつも結果オーライだな?」

「何かを持っているのか?」

と、ワープ座席に座りながら、みんながみんなホルヘに注目した。


「ジャンプの秒読みが始まるぞ、安全確認をしろ。」

と鹿島は叫んだが、その顔は満足気であった。

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