第10話 特別緊急異常事態宣言
乗務員、乗員の命を載せている輸送艦の進行先は、
マーガレットの中では、結論は出ている。
が、しかしながら決断がつかない悩みに入っている。
現在の作戦は失敗であり、
アーロ―星への輸送作戦継続は不可能である。
20名の命の確保は絶対であるが、
進める距離は、
星座引力を使って燃料節約に努めても60光年先までである。
生き残るには救助を待つ生存可能な星を見つけることが基あるが、生存可能な星を探すために探査船を出す事は、
アーロ星にいる総督からの、
アーロ星輸送作戦中止か、変更の命令がなければならない。
輸送艦艦長は、現在地不明とだけの理由で、
作戦変更や中止命令を行える権限はない。
艦長独断で出来ないので、新しい作戦行動命令は、
その地区の総督から承はなければならない為である。
現時点での中止及び変更命令発令者は、
アーロ星にいる総督ただ一人だけである。
アーロ星にいる総督との連絡ができない現状においては、
作戦発動や中止の権利者は、現地区の総督だけである。
現在地不明であるために、現地区の総督との連絡は不可能である。
アーロ星との連絡ができない現状においては、
作戦中止命令を行うには、
現地区に総督がいない場合は、
特別緊急異常事態宣言を出さなければならない。
現在、輸送艦においての特別緊急異常事態宣言を出せるのは、
艦長代理のマーガレット上級航宙3等航佐である。
特別緊急異常事態宣言の発令後は、
階級上位者が付属部隊の司令官になる
銀河連合本部から総督が指名されてない地区だと、
複数の司令官がいた場合、
上級条件の階級上位にあたる者が自動的に総督代理になる。
司令官資格者は、
航宙軍付属部隊においてはマーガレット上級航宙三等航佐であり、
陸戦軍付属部隊は鹿島上級陸戦三等陸佐で、
どちらも上級士官であり資格者であるので司令官の資格はある。
そして、各司令官の階級上位者が総督代理となり、
地区名称付の提督と呼ばれる。
マーガレット上級航宙三等航佐と、
鹿島上級陸戦三等陸佐の階級は同じである。
上級佐官に任命された日が七日先であった鹿島上級陸戦三等陸佐が先任者であり、
鹿島上級陸戦三等陸佐が総督代理資格者である。
鹿島上級陸戦三等陸佐が上級佐官に任命された日は、
休暇前であった。
マーガレット上級航宙三等航佐が、
上級佐官に任命された日は移動命令時であった。
「シーラー.カンス陸士長入ります。」
スクリーンに映し出されたデーターの変化に見入っているマーガレット艦長代理の緊張を知ってか知らないのか、
司令室入り口にエプロンドレス姿の脳筋ムキムキ娘が登場した。
「あら、シーラーどうしたの?」
「差し入れで~す。コーヒー、紅茶、マテ茶どれになさいますか?」
「紅茶」
「ミルクとレモンどちら?」
「レモン」
「おいしいわ~」
「でしょう。うちのひょっとこ陸士、
コーヒー店でアルバイトしていたから。」
マーガレットは、
シーラーが大きな保温機能付ポットを抱えているのに気が付いて、
「大きなポットだけど、みんなの分?」
「勿論、許可をいただきたいのですが?」
「もちろん、お願いしたいわ。すごく張り切っているわね。」
「うちの隊で、狙っていた男は冷たいし~。
他には、あたしに似合ういい男がいないし~。
航宙軍に私好み顔の良い男がいましたので、
奴に唾つけて、いい星見つけたら二人で降りていきます。」
シーラーはせわしく艦長代理と航宙技官にコーヒーを給いで、
休暇中に仕入れたスケボーをせわしく操り、
通路の角から消えていった。
マーガレットは帰還絶望的な状態で、
シーラーの軽くて楽天な考えにうらやましさを感じたようで、
シーラーに刺激されたのか、自分だけであまり深く考えても、
結論は出せないと悟った様子である。
マーガレットは鹿島ならばと、
かすかな希望だが、全隊最高責任者となる鹿島の覚悟を知りたいのと、彼に全隊員の統括を委託したいと思った。
全隊員の今後は、危うい立場になるであろうと想い、
その防波堤を鹿島に託して、すべての責任を自分が背負う覚悟で、
行動してみることにした。
そして、マーガレットは、
この艦の艦長責任者として帰還する事だけに努めることにした。
「リカー、鹿島陸佐を、第一会議室へ呼んで。」
鹿島はマーガレットから帰還絶望との説明がなされると、
隊員たちの推測は、正しかったことを確認する羽目となった。
「座標確認の為、五千万年光年先まで調査したのは、理解しました。
星座は、移動していると、学んだ記憶があります。
その為に座標軸は、常に不安定性なのでは?」
「共動距離のことですね、
座標計測技官とリカーで、100%信頼できます。
一つの座標に対し、20回以上シミレーションしました。」
「すみません。疑うわけでなく、希望の糸を掴みたかったもので。」
「解ります。私も何度も計算し直すように、要求しました。」
「救助要請は、どのように?」
「現在地不明では、救助要請弾丸は打てません。そこで相談です。」
「できる相談であれば、乗ります。」
「特別緊急異常事態宣言です。」
「1級非常事態宣言でなくて、特別緊急異常事態宣言、、、?て、事は、、、現在の作戦変更のためと、理解してよいのですか?」
「それが一番の、目的です。」
「理由ではないと?」
「理由は全員の命です。」
「特別緊急異常事態宣言の発令者は、私ですか?
貴官ですか?他の人ですか?」
「わたしです。」
「救助後、特別緊急異常事態宣言の発令者は、、、
現在の作戦関係者の査問会議をきり抜けられないと、
特別軍法裁判になると思いますが?」
「覚悟しています。」
「私が発令者でも、構いませんが?」
「陸佐が全軍全員の上位者でも、
航宙軍艦内で特別緊急異常事態宣言発令をなさいますと、
陸戦隊のクーデターと記録されます。
それこそ、特別軍法裁判場に直行です。」
「では査問会議では、
最悪の事態にならないよう、全身で賛同したと弁護します。」
「その時は、よろしくお願いします。当てにしています。」
二人にとっては、特別緊急異常事態宣言発令は当然だとの認識で、汚点を残す査問会議や特別軍法裁判よりも、
部下の命が優先のようである。
二人はこの会談で、
部下の安全を優先する上官だと互いを認め合った事で、
友情と信頼し合う絆が生まれた。
マーガレットはカジマ提督代理に司令官席を譲ったが、
鹿島は一度も使用したことがないし、あまり指令室に現れないので、マーガレットは、特別緊急異常事態宣言発令後は、緊張が解けたのか、
「体が軽い。」
と背筋を伸ばして司令席に座った。
特別緊急異常事態宣言発令後の人事は、陸戦隊司令官鹿島陸佐と、航宙軍司令官マーガレッ航佐は、
リカーIC管理官任命資格者による正式な承認がなされた。
そして、最高責任者カジマ総督代理も、自動的に決定された。
カジマ総督代理の最初の仕事は、
アーロ―星への輸送作戦中止を宣言して、
艦長兼航宙軍司令官マーガレッ航佐に生存可能な惑星の探索と調査を命じた。
陸戦隊は輸送物資が自由に使える事で、
鹿島から連絡通信が全くなくなり、
マーガレットは少し寂しさも感じているようでもある。
25個の惑星探査機は30%前後だと12か所発見したが、
未だに90%以上の生存可能な惑星を見つけきれない。
あとは、
60万年光年内に見つかることを祈るだけしかできないようである。
「お飲み物とケーキの差し入れです。如何ですか?」
シーラーの晴れやかな声に、マーガレットは思わず苦笑いした。
二人だけの女子会では、ケーキ作成会を立ち上げたが、
これがなかなか難しい様子で、
スポンジの部分が均等に膨らまないのである。
マーガレッは何気にケーキに目をやると、
丸い30センチ位一個を8等分にカットしてあるが、
スポンジが凹んだ一切れが別の小皿に乗っているのに気が付いて、
「あ、わたしに二個?」
「違います。あたしのです。
あたしはこれから、レーダー技官室でお茶会です~。」
レーダー技官マークは、座標計測技官でもある。
この艦の乗務員は、二つ以上の技官資格者が多い。
「今この艦では、休む暇もない位、彼が一番忙しいでしょう?」
「そう、毎日電卓を叩いて、頭の中が心配で見守っているの。
前艦長みたいになったら嫌ですもの。
自分で計算しないでリカーに聞けばよいのに、
あたしだったらそうするわ。」
「リカーは軍用だから、難しい計算は無理、固まってしまう。」
「じゃ~。インターネットプログラムから、
教育用タブレットをダウンロードしては?
あたしはいつも利用しているわ。」
「どことも連絡ができないのに、インターネットに接続なんて、、、?」
「教育用タブレット。」の言葉に、
マーガレットは、衝撃的と表現出来る天命を受けた。
「まだ可能性はある。忘れていた。
輸送品の中に、S,S,Sのコンピューターがあったのだ!
マーク技官!グレン技官!第2格納室へ集合!」
と、叫んだ。
「今、計算中だが。」
「捨おけ!」
「グレン了解です。」
「提督!緊急案件です。陸戦隊全員第2格納室へお願いします!」
「装備は?」
「輸送品の荷ほどきです。」
「すぐ向かいます。」
グレイコンピューター技官は、パブレットを見ながら、
「凄い、教育用スリーS、最新型!低学年から大学院研究専門科用。
企業の特許盗み放題できる位の、
銀河連合すべての知識が入っていますよ。
惑星いや、銀河システムコンピューター並以上だ。
プログラマーは、、、?ミスター.コシバ!これはもう凄いですね。」
「リカーIC,に接続できるかしら?
軍用だとセキュリティーは万全だろうが、
何とか短時間でできませんか?」
「Ⅿ.rコシバのプログラムされたICなら二十分でOKでしょう。
同化するのでなく、リカーICを吸収してしまうでしょうが。」
「座標の計算は、出来るのですか?」
「細かいことは分からないが、知識は全て可と出ています。」
しかしながら、マークとグレン達協同作業の甲斐もなく、
どの座標も見付けきれなかった。
「リカー、探査機の状態及び連絡は?」
「、、、、、、、、、、、、、、」
「リカー、」
「教育補佐プログラムAIを、お呼びでしょうか?」
「AIどういう事?」
「私は、リカー、ではありません。」
「じゃ~。リカー二世?」
「、、、、、、、、、、、、。」
「どんなのが好み!」
「できれば、私のプログラマーから~。」
「コシバ?コー。」
「コーA.I、すばらしい、いい名です。」
「座標が見つからなかったと。」
「現状では、見つからないと思います。」
「何故?」
「推測ですが、空間次元世界が違うと思います。
座標が見つからない原因を調べると、
ワープ中の映像から、輸送艦はあなたの世界の光線上から外れ、
何もない空間を真っ直ぐに飛び、
この世界の光線上で止まったと思えます。
空間次元移動の仮説理論となら発表できます。検証してみますか?」
「今はいい。探査機の状態及び連絡は?」
「探査結果の再見直しで、不可と判断された惑星でしたが、
90%生存可能と思われる惑星に、再度探査機を向かわせています。」
「なぜ不可と判断されたのだ?」
「大気中に、未知なるエネルギーが感知されたため、
大気分析中に、
正確なデーターを阻害されたのではと、思われるのです。」
「その惑星の映像を出せる?」
スクリーンに、青紫の色の惑星が映しだされた。
「生命エネルギーの感知はありますか?」
「多くの探査機を惑星軌道上に配置すれば、
生命エネルギーの調査は可能です。」
「優先的に調査して。」
優秀なのは理解したが、IC的には離脱しているような?
感情があるような?それでAI?”
と、マーガレットは不思議な感覚を受けた。
「航宙技官、青紫の色の惑星に進行。
左45度下方1度、出力同じ5%、前進。」
マーガレットはコーA.Iのことを考えると、
まとまらない複雑な気持ちで、仮眠をとることにした。
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