第7話 和解の兆し
「 亜空間ワープを、
陸戦隊は何故かジャンプと呼ぶが、理由は誰も知らないらしい。
あと三日後がジャンプ予定日で決まり、
今は六回目ジャンプ後であるが、小ホール食堂のスクリーンから、
ひまわり銀河の映像がたれ流れていた。
鹿島の故郷地球から2670万光年らしいが、
しかしながら、相変わらず観客は無人である。
次のジャンプで最終地ソンブレロ銀河だが、
地球から3千万光年らしい。
しかし、次のジャンプでは、
脳筋ムキムキ娘こと、シーラー.カンス陸士長の、
ジャンプ前の胃炎は起さないでほしいと、鹿島は願っていた。
前回のジャンプ直前は、五人掛かりで医療室から運びだして、
身体をシートベルトで座席に固定した後に、
吸引器付きホースの先を口の周りに固定した。
「次のジャンプでは、睡眠剤を、、、使わせていただきたいと思います。」
と鹿島は脳筋ムキムキ娘から懇願されたが、
睡眠剤等は、ジャンプ前に摂取すると危険らしいので、
鹿島は絶対に許可しないと強く拒否した。
鹿島小隊では、どんな作戦中であろうと、
互いを注視し合い、絶対に一人も死なせないとの訓示がある。
六回目の亜空間ワープは大事もなく済み、
マーガレットは輸送先のアーロ星の気象情報を調べたいのだが、
リカーICには、
軍用データーしかなくて軍駐留以前の気象記録などはない。
鹿島との十回目の会談後に、
図書室の本か歴史ICで調べ物ができないかと図書室に入ると、
搭乗手続き前に見たモーレツ娘が机にうつぶせ寝しているのに気付いて、
「あら、どうしたの?」
マーガレットは、
このモーレツ娘シーラーに興味があったので声をかけてみたようである。
脳筋ムキムキ娘シーラーは、
突然副艦長からの声掛けにビックリしたようで、
「副艦長殿、見苦しいとこお見せして、申し訳ありません。」
と言って起き上がると、上級者向け敬礼をした。
「いいのよ、ここは娯楽施設だから、気楽にしましょう。」
「ありがとうございます!」
「なんで?こんな所で寝ていたの?」
「ジャンプです。以前は、なんともなかったのですが、
苦手になったのです。
何か良い方法がないかと調べたが、
何も見つからないので、ふて寝してしまいました。」
「ごめんね、亜空間ワープは、普通長くても5時間ぐらいなのに、
10時間だものね~。
帰りの燃料が補給地までギリギリなので、
燃料節約のために亜空間ワープを長くする必要があるの。」
と言ったのは、
航宙軍の不手際で出航遅れの理由をマーガレットは隠した。
「それは気にしていません!
ただ、輸送艦での移動が、私達の訓練場なので、
この艦は、われらに向いてなかったのです。
そのストレスだと思います。」
「訓練が好きなの?」
「生き残るには必要です。それと、、、隊長をケガさせたくありません。」
「隊長、好きですか?」
「好きです。候補者の筆頭にしてもいいかなとは思っています。口が滑りました!
でなくて、男女間のことでなく仲間としてです!
隊長は、戦闘中、全隊員の状態を常に見ています!
私は、何度も助けられています!
みんなもそうです。だからみんな強くなりたいのです!」
と、
シーラーは顔を真っ赤にして、後半の言葉を強調した。
マーガレットは、モーレツ娘を正直な子で、
好感の持てる人だと感じた。
「訓練とは、体力造りと思うのですが?」
「航宙軍と陸戦軍とでは、敵との距離が違います。
私達は、一メートルに敵がいます。ミスると名誉の戦死です。」
「私に理解できるように、説明してくれる?」
マーガレットは、
鬱陶(うっとう)しい要求の陳情に現れる鹿島を思い出した。
「戦闘後、隊長に危うかった場面を指摘されますが、
私と経験少ないものには、
言葉だけでは、修復できないのです。
対敵仮想マシーンでは死にませんので、
対敵仮想マシーンで納得できるまで訓練できればと、
いつも思っています。
特に隊長殿のプログラムは、各自に合わせてもらえます。」
「貴女の部屋へ、時々お邪魔します。いいですか?」
マーガレットは、航宙軍の不手際に気づいた様子である。
「副艦長殿でしたら、
ドアにカギはついていませんが、何時でもドアを開けれます。」
と、
能天気に明るいシーラー陸士長は、再度上級者向け敬礼をした。
「友達になりたいので、
以後、二人だけの時には、敬礼も敬語もなしです。」
「有難う御座います。よろしくお願いします。」
「だから、敬語無しで。」
トカゲモドキは、二本の長い刃爪を振り回して襲い掛かるが、
それを払いのけ、交わしながらの肉弾戦で倒す。
払いのけきれないと、倒すのは無理である。
払いのけても前は安全だが、後ろから刃爪が襲い掛かるので、
仮敵訓練は、生き残り訓練であり、
陸戦士には、移動中の訓練は義務付けられている。
その訓練義務は、上官からの強制訓練ではなく戦士の要求だった。
マーガレットは、他の陸戦隊と他の輸送艦で同舟時、
陸戦隊員達は、移動作戦中なのに命の洗濯と酔っぱらっていたが、
しかしながらシーラー陸士長との会話で、
この鹿島隊の隊員たちからは、
アルコールの匂いを感じたことがないと気が付いた。
マーガレットは、乗船中の陸戦隊からの要求は重要な事だと、
シーラーから気付かされて、
おぼろげながら彼らにとっての訓練は、
生き延びる為に必要なことなのだったと理解しだした。
輸送艦には、全訓練用の設備を導入する義務条文がある。
この輸送艦責任者は、
マーガレットを含め陸戦隊の訓練を重要とは思い至らなかった上に、訓練設備設置工事不手際のままの無理な出航は、
航宙軍と当艦にあるとマーガレットは気が付いた。
「隊長。失礼します。」
と、
脳筋ムキムキ娘は、鹿島用個室なのだが、
軍属艦であるために鍵などついていないドアだが、
ノック無しで許可なしに開けて入りやがった。
「何の用だ!」
鹿島は、周りの部屋に聞こえるように大声を出した。
「ビッグニュースです。天と地が、ひっくり返る、ニュースです。」
満面の笑顔だ。
いつの笑顔!誰もが憎めないとのことだが、
鹿島も何でも許してしまえると感じてしまった。
あっ、また俺危ない!と鹿島は思ったようで、
「どんな!」
と、怒り顔で怒鳴った。
「副艦長殿の手料理です。一,七、三、丸、小ホール食堂です。」
「全員か?」
「乗客乗員、全員です。」
「乗客乗員?俺達は、乗客か?」
「副艦長殿は、そう思っているみたいです。」
「わかった。リカーを通さず、
陸士長自ら、全隊員に礼服着用を通達せよ!」
「了解です。」
とドアを締るまで、
脳筋ムキムキ娘はステップしながら退室していった。
「あいつ、今度のジャンプ、大丈夫みたいだな~。
しかし今回食事会する副艦長は、何のために?」
と、意図は理解不能だが、手料理食事会には感動していた。
鹿島は、副艦長の料理大丈夫かな~、
皆毎日携帯食ばかりだから口が肥えた者はいないだろうが、
皆に料理を披露できるって事は、
やっぱり秀才は、努力するから秀才なのかな~と想いながらも、
だがどうしても鹿島には、
副艦長と料理の組み合わせが思い描けないようでもある。
鹿島は、陸戦隊礼服に腕を通して時間を確認すると、
食事会まではまだ十二分前だが、
ステップしながらホール食堂へ向かった。
鹿島がホール食堂前に着くと、ホール食堂の中は静かである。
「カジマが一番!」
と、思い切り自動ドアを開く部分に飛びこんだ。
「隊長。ビリー」
と、ホール食堂中から皆にハモラレタ。
小ホール内は、十八人の男たちばかりである。
女性達二人共に調理室かなと思って、鹿島は自分の席を探した。
「隊長。こちらです。」
雛壇の前方から、トーマスの大きな手が上がった。
鹿島は、トーマスの手先方向に艦長殿の姿が見えたので、
目を合わせて軽い挨拶を送り、
トーマスの頭方向へ向かうと、雛壇近くに二つの空席状況を確認した。
鹿島は、
席に着く前に艦長殿に向かい故郷地球の挨拶で腰を四十五度に曲げた。
「本日は、ご招待ありがとうございます。」
「いや~。私も乗務員も航佐と陸士長に招待されたのです。
艦は今無人ですが、ま、リカーで大丈夫でしょう。」
挨拶返しの言葉は、皆に無人航行の不安を与えぬ為の配慮だろう。
鹿島がトーマスの横椅子を引き出すと、
「そこは、脳筋ムキムキ娘の席です。」
「しかし、向こうは。」
「わかっています。苦手なのでしょう。今日和解してください。
副艦長殿は、隊長のことを誤解していたようです。
脳筋ムキムキ娘の努力を、無駄にしないで、隊長も努力してください。」
「う~ん、努力する。」
鹿島は、何を努力しなければならないのだろうかと思ったが、
雛壇近くの席に着き周りを見渡すと、
艦長殿をはじめ航宙軍士官全員が礼服着用している。
「礼服着用しなかったら、危なかった~。
全員が今回の食事会に感謝しているようだね。」
と、トーマスに話し掛けたが、
鹿島は、自分の判断を評価していた。
これで、此れからは副艦長を敵に回すと、
俺は死ぬな~とも実感した。
エプロンドレスの脳筋ムキムキ娘が、
「お待たせ~~。これ!私より下位陸士。配膳を手伝え!」
脳筋ムキムキ娘は、艦長の前にポテトチップを置くと、
鹿島の後ろに向かいながら隊員に声がけした。
「了解しました。」
又、陸士六人ともハモってる。
「鹿島陸佐。君の隊、仲が良いな~。
今まで、私はいろんな輸送艦で、いろんな隊を送り迎えしたが、
こんなに連携の取れた隊は初めてだ。」
「ありがとうございます。私もそう思います。
良い隊員達に恵まれましたので、
未だ生き残っている私は、果報者です。」
「隊長有り、この隊有りだな。
隊長は本当に果報者だ。
なんの和解か知らないのだが、うちの航佐と和解してほしい。」
鹿島は、体に何かが当たったと思ったようで、
同時に過去の副艦長との交渉が當間(とうま)のごとく思い出している。
艦長殿の言葉は、皮肉が盛り込みなのか、
それとも自分の勘違いかと、意識なく思わず立ち上がっていた。
「原因は、自分にあると思います。
昔からよく、ガサツ者と言われていました。」
「かしこまらなくてよいと思う、
この会は、マーガレット嬢の私事らしい。」
陸戦隊移動作戦中に、
航宙軍からの接待等など聞いたことがないので、
少し不用心に浮かれ過ぎていたかも知れないと、
鹿島は反省した顔で身構えた。
「でも、なんで?」
と、
今更ながら思い直したが、
何でこんな展開になったのか分からないまま、
乗客と思われているのなら、
成り行き任せに流されてみようと腹をくくった様子である。
副艦長の意図など気にしないで、鹿島は開き直って席に座った。
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