第6話 空を見上げる時

 鹿島隊は、ベスト.バージョン惑星での蟲駆除作戦において一等名誉勲章を頂き、

十日間の休暇を貰ったが、七日目に休暇取り消しとなり、

慌ただしくアーロ星への出兵を命じられて、

独立補給艦イW0001に乗り込んでいた。


 一昨日、鹿島と身長二メートルの巨漢曹長は、

珍しく木刀による一本戦式模擬戦で手合わせした。


 二人は、この移動作戦中は、陸戦隊に対する指南役であったが、

二人の立ち合いは、

対敵仮想マシーンの不備による輸送艦であるために、

全力戦闘を行えないストレス発散を兼ねていた。


 トーマスは、大きな図体を生かすために上段に構えると、

角度無く真っ直ぐに、「ジケンリュウ」と叫び、

垂直に大木刀を振おろした。


 大木刀の重圧で避けきれない部位に接触させて破壊するのが、

彼流の肉を切らせて骨を切る一刀両断スタイルである。


 鹿島は、トーマスの身長二メートル巨漢の体重だと、

流石に重い打ち込みだと渋い顔をしながらも、

落下力を横から押し出す力の壁で、

落下方向を何とか変えようと渾身の力を出した。


鹿島は、

全体重を乗せた力でトーマスの木刀進行方向を左斜め下に変えた。


 トーマスの左肩が少し前のめりになったのを見切った鹿島は、

全身全霊の力とスピードで、木刀合わせを素早く抜き返した。


「あ!!!」

トーマスは、垂直に下したはずの木刀が右に流れたのちに、

戦闘訓練室内にトーマスの大きな声が響き渡った。


二人は、訓練中の陸戦隊員十名の目線を感じた。


 二人の打ち合わせからトーマスの首筋で寸止めするまでの時間は、1~2秒間で決着したが、

トーマスは何か起きたのか納得できない様子である。


 鹿島は、素早く退散して勝ち逃げしたい様である。


 鹿島は、

勝ち逃げする為に急ぎ重防護戦闘アーマーとヘルメットを脱ぎながら、


「俺は、此れから副艦長に、今回は、食事の件で相談に行く。」 

と、宣言すると、 

「おおおお、」

と、皆でハモリかえされた。

 

 鹿島は、陸戦隊にはかなり期待されているようであるが、

本人は、副艦長に何度も会える嬉しさはあるのだが、

副艦長からの蔑まれた様な軽蔑の眼差しには、

会うたびに心が折れている様子でもある。


 トーマスもすでにヘルメットを脱いでいて、

「副艦長殿とは、何とか!良い方向へ!交渉して頂きたいです。

そして今日の手合い! ありがとうございました。」

と、トーマスは、鹿島隊長を激励した。


 鹿島隊長から受けた敗北にトーマスの心は折れかかったであろうが、直ぐに立ち治ったようであった。


「隊長。副艦長殿との対戦成績は、9戦9敗です。

10戦は、勝ってください!」

と、お調し者の一等陸士から、

からかわれるのにも鹿島は慣れてきていた。


「丸めこまれないように!」

又、全員からハモられた。


 訓練設備がないうえに、更にアーロ星からの連絡がないことで、

トーマスも隊員たちも艦内でのアーロ星予備訓練に不安と不満を感じていた。


 一昨日の、トーマスとの訓練立ち合い後に向かった先では、

みんなの大きな期待を背負った鹿島は、

副艦長と十回目の会合挑んだが、

鹿島の要求に副艦長はウンザリしている為なのか、

口は動いているが目を合わせていない。


「要件は?」

「訓練設備工事期間がなかったのは、理解しています。ですが、せめて既存の設備を使えるように、して頂けませんか?」


「例えば?」

「大ホール室の、自動調理機の稼働です。」


「大ホール室は、今、輸送品倉庫です。

固定磁場されています。

自動調理機の移動は、何とかなる可能が有っても、残念ながら、調理管理資格者は乗務いたしてないので、

責任者不在では、規則上稼働できません!」


 鹿島は、

副艦長の冷たい対応に、毎度の事ながら苦慮してしまい、

抵抗する事は無駄な様子であると思ったのか、

今回こそと決心して挑んだ心算であったが、

再度引き下がるようである。


「無知でした。貴重な時間を消耗させてしまい、申し訳ございません。」

と、少し皮肉げに言った。


「私の時間を、貴官は、多くの時間を無駄にしています。

そのことも、考慮すべきです。」

と、マーガレットは怒り顔を向けて踵を返して背中に怒りのオーロラと、

今後の面会を拒絶する事を漂わせながら、

鹿島を置いて部屋から出ていった。


 結果として、鹿島は十敗目であった。


「副艦長と俺は、同じ階級でも、七日先ほどだが、俺が先任だ!」 

と、鹿島は、

周りに誰もいないのを確認して言葉に出さずにうめき声だけを出して体中で叫んだのは、

昨日と一昨日のことでもある。

 

 鹿島は、副艦長に陸戦隊の要求を理解してもらえない不満と、

自分の器量を上げることのできない性格を呪いながら、

今日の訓練に出る気力がないまま、

深々とした元展望室のソファーでくつろいだ。


 宇宙空間に散らばる、多種多様な色星と星座の耀きは、

果てしない無限宇宙空間先までも続いている。


 多種多様な色星と星座の耀きを見たことで、

鹿島は、これまで経験したことの寂しさと、

ぽっかりとあいた虚脱感に襲われていた。


 鹿島は、宇宙の無限先には、

彼岸と呼ばれる場所があるのかとの想いが駆け巡った。


 鹿島の想いと違う詩人や和歌人であるならば、

無限に散らばっている宝石を見て、

表現可能な限りの感動を表現できたでろう。


 今では既に鹿島は、上級陸戦3等陸佐であるが、

士官教育実習大学当時は、

脳筋と揶揄されながらも何とか卒業だけは出来た。


 初めて戦闘区域に向かうために、

軍属輸送艦に乗りこんでトカゲモドキの待つ宇宙空間に旅立った時は、窓のない輸送艦であった。


 スクリーンに映る銀河星団や星雲団を見て、

故郷地球の夜の街ネオンにも感動であったが、

宝石を散りばめたなどと表現されるに相応しい、

感動の宇宙映像に舞い上がっていた感情と、

似て非なると思いながらも、

完全否定ができないマーガレットとの初対面の感情を思い出していた。


 三方向に開けた元展望台の迎賓席から、

宇宙空間に鹿島の顔と目は向いてはいるが、

今はもう銀河や星雲に感動することもなく、

散らばる星と星座に感動する心は、いつの間にか消えていた。


 トカゲモドキや蟲との戦闘でその感動を何処かで落としてしまったか、

生死の境で心がすさんだ為に、

今は、無機物に感動しなくなったのかも知れないとの思いと、

マーガレットの踵を返した背中を思い出していた感情は、

心の空洞感も似て非なると感じながら、

すさんだ心をさらに落ち込ませる闇の空間を寂しげに見つめている。


 鹿島は、多種多様な色星と星座の耀きを観ながら、


「星座の耀きに感動しなくなったのは、いつ頃からだろうか。」

と、過ぎ去った日々を懐かしんでいる原因は、

他の者達から見ると、心折れた失恋者の恋の病だと気づくはずだが、本人はそれに気づいてはいない様子である。


 同じ階級のマーガレット3等航宙士官との最初の交渉において、

天女に会った感動で見惚れてしまっていた。


 交渉は最初の意気込みはどっかに飛んでいき、

要求は成果ないままいつの間にか終わっていたが、

その後の度々の交渉事でも、取り付く間もない冷淡さに、

折られた心には、

特別展望台での景色は感動などない闇の空間としか感じていない様子である。


 地味なベージュ色の陸戦隊制服に身を包んだ鹿島は、

後ろ姿からは英雄戦士としての闘争姿を微塵も感じさせない。


「宝石など見たことない」

と言葉通りなのか、手に入れきれない事をなげいたのか、

今はただぼやくだけの鹿島3等陸佐である。


 鹿島は、トカゲモドキや蟲等との戦闘は、毎回怖いと思いながらも、ベスト.バージョン惑星での蟲駆除作戦では、

湧き出てくる蟲の対応に陸戦大隊は最後には押されかけられる寸前状態であった。

 

 鹿島は、幾多の戦場でも死に物狂いであったが、

自分が未だ闇の空間に吸い込まれていないのは、

仲間たちに恵まれているためで、

今日まで生きてこられたのだとの思いが浮かんでいる様子である。


「奴らのおかげだ。」

と、鹿島は、

寂しさだけが残った心の中にできた空洞を埋めるように、

「俺には仲間の絆がある」と、

残っている感動を埋めるかのように呟いている。


 鹿島は、初めて親元から離れるときに言われた、

母親の忠告を忘れていた。


「寂しくなった時や、苦しくなった時は、

夜の空を見ないで、昼間の太陽を見なさい。

夜の空は、楽しい時と悲しい時だけ見なさい。

その行為は、どちらも、より深く、より広く心に残るでしょう。」

と、母親の忠告を忘れていた。


 寂しくなった時の夜の空は、言われた通りだったと後悔していた。


 鹿島は、絶望という奈落の崖上に立っている心境の中で、

感動しなくなってしまった宇宙空間を眺めていると、

近づいてきたのは,身長二メートルの巨漢のトーマスであった。   


「隊長。探しましたよ。たそがれてる所、申し訳ございません。

到着予定地アーロ星に、いえ、アーロ星作戦参謀技官殿に再度、

作戦計画と種目武器装備等を、打診して頂けませんか?」

と、トーマスが上申して来たことにより現実世界に引き戻された事で、本来の鹿島上級陸戦3等陸佐に戻ることができた。


「解った。曹長一緒に、艦司令室に行こう。」

と言って、鹿島は不安定になりかけた心を吹っ切るように、

言葉に力を込めて応えた。


 鹿島は何かを吹っ切るように、

深々と座っていたソファーから勢い込めてたちあがった。


 アーロ星作戦参謀技官殿からの定時連絡は、

出航後から途絶えているので、

アーロ星での陸戦隊の作戦内容が未だ不明である


 鹿島は、トーマスを伴い司令室に向かいながら、

マーガレット副艦長に対しては常に劣等感と苦手意識を感じているので、

司令室に副艦長が居ないことを願いながら先行き不安の様子である。


 副艦長の少ない行動範囲内の出来れば図書室で料理のレシピ本でも、読んでいて下さいと願いながら、

今回も重たい足取りで司令室に向かった。


 鹿島は、以前図書室で副艦長を見かけた時を思い出しながら、

図書室での赤色本を棚に戻して出ていった後、

彼女の後ろ姿が見えなくなるのを確認すると、

興味気に赤色の本を手に取り題名に目をやると、

思いもよらない料理のレシピと書いてあった。


 艦橋司令室と自室だけの往復しかしないとの噂がある仕事中毒副艦長と、

料理本の組み合わせは、鹿島には違和感があった。


 料理と副艦長の組み合わせに、

男勝りで顔だけ美人女性の家庭向き女性的な行動としては無理があると、口に出せない複雑で理解不能な思いは、

副艦長が調理場での料理姿を、鹿島には想像できないだけであった。


 鹿島は、無理する思いで副艦長の調理場での姿を思い浮かべるが、やはり副艦長の料理姿を想像できない様子である。


「俺は、ストーカーか!」

と、鹿島は思わず叫んでしまった。


「隊長!大丈夫ですか?ストー、ス、六回ジャンプしたストレスですか?」

「すまん!!自分の恥ずかしい~、過去を思い出してしまった。」


「スーと、何か叫んだようですが、良く聞き取れませんでした。」

と、応えるトーマスは出来る男だ。


 鹿島は、トーマスの気づかいに、

気恥ずかしさを隠すかのように足早に艦指令室に向かった。

 

 艦司令室は通路からオープンなので通路の角を曲がると、

遠目ながらも老年に近い艦長と副艦長はスクリーンを観ながら、

データーを調べているようである。


「鹿島上級陸戦3等陸佐、ワシントン上級陸戦曹長、入ります。」

と、勢い良くあいさつすると、

スクリーンを見ていた二人は、

回れ後の作動仕草姿で突然の侵入者二人に渋い顔を向けた。

 

 鹿島と目が合った艦長は、忘れていた事を思い出したように、

「陸佐か、今連絡しようとしていたところだ。

アーロ星作戦参謀技官殿から、伝令が届いた。

リカーICから、受け取ってくれ。」

と、艦長は一度目を合わせたが、

すぐさま副艦長と話しながら、

鹿島達を無視した目は再びスクリーンに移っていた。


 リカーICから、鹿島専用の連絡であったが、

「オーケイ、リカー、陸戦隊全員に伝令を伝えてくれ。」


 アーロ星からの通信内容は、

敵対する害虫も蟲も粗方駆除された後なので、

陸地の偵察と残りの害虫や蟲の駆除であるらしい。


 極秘にするようなことではないと鹿島は判断して、

陸戦隊全員と情報の共有を図った。


 鹿島は、ICに命令後、再度艦長に向き直して、

「伝令受け取りました。訪問いたしました理由は、

只今クリアーしました。失礼します。」


「いや待て!亜空間ワープ4回目と5回目の後、

アーロ星作戦参謀技官殿は、

亜空間通信にて何度か伝令を送ったとのことであったらしいが、

届かなかった原因を知りたいのであれば、

公表出来る範囲でなら、副艦長より伝えることが出来るが?」。


 鹿島は副艦長の顔を見ると、

本当に、顔だけはきれいだと思いながら、

宇宙空間の無機質の輝きと違い、一生毎日眺めていても、

鹿島は、

あきなどしない自信が有ると言いたげに目じりを又もや下げていた。 

 

 副艦長の経歴は、隊の雀たちによると、

秀才ぞろいの航大学での成績は、入学時より卒業までSとAだけで4年間首席だったらしい。


 だけど、今は、ドヤ顔で鹿島を横目でチラリと見るだけである。


 また、鹿島の何度目かの自尊心が折れたようである


 鹿島がトーマスに目を向けると、

トーマスからの返事は、首を傾げられただけであった。


「その必要はありません。原因が何であれ、我々の作戦は完璧です。」

と、鹿島は答えて副艦長を目線だけでチラリと見ると、

何か勝ち誇った顔のような表情で、

原因を教えても理解できないだろうと、

言いたげな澄ました顔と眼を向けられた。


 鹿島は、

彼女の心内に常に何か気に入られない事があるように感じていたが、俺の器量では、まあそうだろうと、

今はもう鹿島は、一人で自分に納得出来る様にはなっていた。


「さすが、ベスト.バージョン惑星の英雄隊。ご苦労、下がってよし。」


 艦長のねぎらいを受け、二人は艦橋司令室を退室した


「隊長。軍は良くこんな豪華客船を摂取出来たですね。」

「うう~ん。前所有の旅行会社は、大きな負債で倒産し、

納税額残高がかなりあったらしく、

法的に、=連合軍優先=と、取り上げたらしい。」


「輸送艦不足なんて、戦略ミスでしょう!」

「ドッグ側としては、

輸送艦より戦艦がリベート面でいいだけだろう。」


「世も末だ!」

「軍の宣伝の為に、俺が一年で陸佐だぞ、それが最もおかしいだろう。」


「隊長には、その素質があります。

上級幹部全員が鹿島上級陸戦陸佐であるならば、

犠牲者の数は半分以下になるでしょう、、、。と、

師団部に呼ばれたときに、

師団長閣下も、その様な感想を述べていました。」


「ところで曹長、何故、昇進断ったのだ?」

「隊長のせいです。」


「はあ~何。」

「隊長は、戦術も最高ですが、よく、後ろを預かると言いますが、

私の三百六十度はいつも、隊長に守られていると感じています。

昇進した後に、別の隊に行くのは、真っ平ごめんです。

隊長と定年まで一緒の隊でいられるならば、

定年まで生きていられる自信があります。

それに上官との交渉、自信ありません。

特に副艦長殿との交渉は、私には絶対無理です。」


「あ~俺だって、一昨日まで10戦10敗だ。

次の副艦長との交渉、曹長に命令を出そうかと。」


「いや!お断りします。命令されたら辞表書きます。

辞職理由は、上官による虐待と書きます。

ですが、今回の10戦目は、まだ、結論は出ていないと思います。

ここだけの話として、脳筋ムキムキ娘、昨日から時々、

副艦長殿の料理を、、、試食しているみたいです。」


「え!副艦長と料理の組み合わせ、想像出来ない。」


 鹿島は、しまい込んでいた本音を出してしまった。

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