第5話 天女

 原隊に帰った鹿島隊は、

三日間の休暇待機をもらったが、訓練は休むことはなかった。


 三日目の休暇待機中に、鹿島は司令部に呼ばれた。


「報告書は、読ませてもらった。よく生きて帰ってだけでなく、

貴重な報告書と資料を提出して頂いて、感謝する。」

と、エンマ師団長は満面の笑みを鹿島に向けた。


「労いの言葉、有難う御座います。

全ては、ヨイ部下たちに恵まれた幸運です。」


「二三質問がある。どういう訳で、森の中に入らなかった。」

と参謀総長は鹿島をにらんだ。


「報告書に書いた通り、

わたくしたちだけの戦力では、無謀と思ったのです。」


「無謀と感じたのは、森の入り口でか?」

「森の入り口では、無謀とは感じませんでしたが、

危険な場所だとは思いました。」


「たまたま、動く樹木の脅威を感じて、森に入らなかったのだな。」

「森の入り口で、蔓の動きと、地面の盛り上がり方を参考に、

動く樹木の脅威を照し合せました所、突入は無謀と感じました。」


「松笠が爆裂弾だと、なぜ気が付いた?」

「トーマス曹長からの助言で、硝酸アンモニウムは、

強い火力か化学変化で、爆発することを知りました。」


「蟲の巣を発見した事と、女王蟲の生殖能力を知ったのは、

偶然と書いていたが、根拠は何かあったのだろう。」


「蟲どもは、移動するときは地中に潜るのですが、

なぜか理由はわかりませんが、樹木の根っこをかじった蟲は、

地面を張って移動していたので、

調査することにしたら、偶然巣を見つけました。」


「降下機を使ってか?」

「蟲のうごめく地表を、歩く勇気が無いので、降下機を使いました。」


「最後に、樹木の根に鉱物があることに、気が付いた時期は?」

「樹木の根を調べるまで、何の根拠もありませんでした。

ただ、何で根に嚙み付くのかの疑問だけでした。」


「これは、世間話だ。降下する前に、

中隊長は、鹿島一等陸尉に対して初年兵と呼んだのか?」

「初年兵だからです。」


「輸送艦の中で、下士官を殴ったのは?」

「下士官ではなくて、無頼漢を殴りました。」


「うわ、は、は、、、。無頼漢か。それなら問題ないな。」

と、エンマ師団長は豪快に笑った。


「作戦会議において、ほかの小隊長と、もめたらしいが?」

「互いの小隊同士の連携を提案しただけでしたが、部下に過酷な虐待は出来ないと、断られました。」


「訓練の名目で、鹿島一等陸尉は、部下を虐待しているのか?」

「生き残れる訓練をしているだけです。」

「わかった!さがれ!」

と、エンマ師団長は怒鳴った。


 訓練中の鹿島小隊全員は、司令部に呼ばれた。


「整列、師団長に敬礼。鹿島小隊全員揃いました。」

と、背筋を伸ばした鹿島は、師団長と居並ぶ高級士官に敬礼をした。


「森の調査において、多大な功績があったので、

鹿島小隊全隊員に勲章と臨時ボーナスを恵賜(けいし)する。」

と言って、エンマ師団長が女性秘書団に手を振ると、

鹿島小隊全員に勲章を付け出した。


「莫大な資源確保の功績に対して、みみっちい~報酬金だが、

何か他に欲しいものはないか?」

「休日をいただけたらと思います。」

と、鹿島は、微笑んだ。


「わかった。アタミ惑星での十日間の休暇を与える。

休暇費用はすべて軍が持つ。」

「有難う御座います。」

と、全員合唱した。


 鹿島は、

アタミ惑星の避暑地街の高級ホテルの温泉湯につかりながら、

人食い惑星こと、

ベスト.バージョン星惑星の特集番組を思い出していた。


 ナレーションの進行は、

蟲駆除作戦司令部はそれまで蟲の巣を発見する事が出来ないでいたが、

蟲の湧き出る地下にある巣の特徴を鹿島隊が報告すると、

ベスト.バージョン星陸戦師団は、

かなりの巣を発見することが出来た。


 各部隊での蟲の駆除作戦は好転した様で、

鹿島小隊も援護を受けて生還したとのことも伝えられて、

生きて帰った英雄部隊と称賛された。


 ベスト.バージョン惑星に生息していた害虫蟲駆除は、

蟲の巣の特徴を紹介して、

すべての蟲を駆除したことで、

ベスト.バージョン惑星の開拓は一挙に進んだようで、

人類生存可能な星となった。


 樹木が鉱物を形成できる特性は、

まったく科学的でないと、科学者を悩ませているらしい。


 ただ、ベスト.バージョン惑星樹木をほかの惑星で育てようとしたが、発芽はしたが、育たなかったと結んだ。


 また、樹木の伐採はしないで、継続資源の確保計画がなされた。


 ナレーションの最後は、

資源豊富で緑豊かなベスト.バージョン惑星の上空飛行映像が続いた。


 鹿島小隊全隊員に二階級特進通知と希望赴任先を聞いたが、

赴任先は内勤をも可能でもあったが、

誰もが移動赴任には希望しないし応じもしなかった。


 鹿島一等陸尉は、

上級陸戦3等陸佐となり、司令官の資格を得ていた。

 

 トーマストーマス陸曹長は何故か昇進を断り、

トーマス名誉軍曹長となって、すべての曹長の頂点になった。


ビリー.ホワイト三等陸曹は、一等陸曹となり。

ヤン.リン一陸士長は、   二等陸曹で、

ポール.ジャイアント陸士補は、三等陸曹で、

シーラー.カンス一等陸士は、 陸士長になり、

ハバロフスク.キキロ二等陸士は、陸士補に、

ヤス. タゴール二等陸士も、   陸士補で、

ダウン.カイラ二等陸士も,    陸士補で、

タゴール.ジョージ二等陸士も、  陸士補で、

初年兵ながらも、ホルヘ.ゴンザレス三等陸士と、

ススイ.リステリ三等陸士も、一等陸士となった。


 かなり異例の人事であったのは、

アーロ―惑星の開拓は、

十年以上の歳月が必要だろうとの予想だったが、

予想を裏切って、豊富な資源確保が出来た大きな功績のためである。


 休暇七日目、鹿島隊に出頭命令が来た。

「何で!まだ三日もあるのに~。」

と、シーラーは酒の匂いをさせながら、怒り出した。


「報酬金は、たったの三十万クレジットだったが、

まだ使い終わってない。」


「たったの三十万クレジットと言うが、お前の二月分の給料だろう。」

「そうだけど、資源の価値は、

数百兆クレジットの価値があったのだろう。」

「俺達は、山師ではないぞ。兵隊だ。報酬金が出ただけでも、特別だ。」

と、トーマスはみんなを慰めていた。


 皆は、休暇取り消しとなったことで、街へ買い出しに散らばった。


 鹿島は、

持てるだけのチョコレートと甘味のものを買い込んでいたが、やはりみんなも、

甘味のものを買い込んだ様子である。


 鹿島隊は翌朝早くに、宙港ゲート125に向かった。


 マーガレット.パラベシーノ上級航宙3等航佐は、

アンドロメダ銀河の星座連合都テンプレー星に生まれた。


 父は評議会副議長、元軍人で小隊を率いたのち、

次は中隊を率い、最後は大隊を率いて25の星を開拓した。


 開拓の英雄と二つ名持ちである。

母親は、小隊を率いていた当時の父の部下であった。


 除隊後の今でも父を愛して尊敬している。


 ただ、昆虫を見付けると、「蟲だ。」と、踏みつける癖がある。


「ママ。それは昆虫。」

と叫ぶと、父は

「ママが正しい、それは、蟲だ。見つけたらお前も踏みつぶせ!」

と叱られるが、

しかし絶対に昆虫だと言い張り、

野菜を害する虫を駆除してくれる益虫だと叫ぶ娘であった。


 マーガレット航佐は、ハ5454護衛艦隊から独立補給艦イW0001に転属命令が届き、

補給艦イW0001の副艦長兼任上級航宙技官を任命された。


「”イW”頭二つ名は聞いたことがない。」

不審な思いで宙港に着き、ゲート125の窓から外を覗くが、

それらしき艦は見当たらない。


「んんん、場所間違えたか?」

不安になったが、横を通り過ぎる陸戦隊のホルヘとススイが、


「うお~。今度の移動は、輸送艦でなく、客船か?」

と、ハモっている。


 突然、小柄な兵シーラーが飛び出すと、

勢いのままホルヘの尻に蹴りを入れた。


 勢いそのままの連続流体勢で正面のススイの股に大蹴りを入れた。


 大蹴りの受け手側は、軍靴を掌で受け止めると、

勢いそのまま後ろに飛びのいた。


 二人共上級格闘者だろうとマーガレットは感心した。

「今は作戦移動中だ、気を抜くな!」

と、小柄な兵シーラーが叫ぶと、女性だと気が付いたマーガレットは、母も陸戦隊だったが、母からはこんな気迫を感じたことは無かった。


 鹿島達は、

後ろの騒ぎに無関心であるかのように後ろの三人を無視して受付をすますと、

ゲートの奥へ入っていった。


 騒いでいる三人は、受付をすました鹿島達に気づき、

慌て多様に駆け足でゲートをかけぬけた。


 慌ただしくかけていく三人を眺めながら、

マーガレット航佐もイW0001輸送艦と書かれた受付に行くと、

艦司令室へ至急来るようにとの伝言を伝えられた。


 ただしく受付を済ましたあとに、輸送艦らしくない艦姿の舷側(げんそく)を確認すると、

イW0001と書かれていたので勤務予定の輸送艦だと納得していた。


「星座連合軍、マーガレット.パラベシーノ上級航宙3等航佐、

イW0001乗務任命を受け、まいりました。」


「着任ご苦労!貴官は凄いですね、戦略室経験者で副艦長任務可能資格者であり、、、航宙技官でもあるようだね。

本官が、これらの二名の補充を申請したら、

上層部からお叱りの言葉貰い、

軍には、今人員の余裕はないので全て一名でこなせるものを送るとのことであった。

二人分の働きをする貴官をよこすから、

後は、こちら側で何とかしろ!とのことだ。

出港準備は、先程完了しているので、さっそくだが時間が惜しいので、この後、丸、丸、三、丸、後出航だ。」


 慌ただしい出航である原因は、到着予定時間に余裕がなく、

人員不足で出航できなくて困っていたらしい。


 マーガレットは、毎日が艦及びコースのデーターと、

輸送物の確認をしなければならず、睡眠不足に陥っていた。


 輸送物の確認中に一部の命令書に驚いたのは、

輸送物の紛失や粉砕等の傷がないようにと記されていた。


「輸送艦は、運送屋か?」

と、愚痴ってしまうほど疲れ気味のようであるが、

確かに輸送艦は、防衛力を持った運送業者でもあると、

思い直した様子である。

 

 二回目の亜空間ワープ後に要約トランクから私物をだして、

やっと荷物の整理ができた程で、

これまでの超過勤務時間は戦闘期間中並みであった。


 そんな激務中、 

「鹿島上級陸戦3等陸佐より、面会希望です。」

と、リカーから通信が入った。


「了解した。10分後小ホール室にて、会いましょう。」

マーガレットは、急ぎデーターをまとめ集めるが、

報告のまとめは後回しにせざるを得なくなった。


 マーガレットが小ホールのドアを開けて中に入ると、

噂の英雄殿は既に待っていたかとの思いで、

深々とあいさつしたが、

鹿島は部屋中央あたりの席に座ったままの体制で、

ほんの少しだけ会釈しただけで、

ロー人形のような固まった顔を向けるだけで、

自分を品定めでもしているのかとの思いを受けた。


 鹿島陸戦隊員は、

今回の移動作戦では余りにも航宙軍輸送艦の不手際が多いので、

陸戦隊員の不満は最高点に達していた。


 特に移動作戦中の訓練は、

対トカゲモドキとの仮想戦闘が主であるはずが、

輸送艦に訓練設備がないのである。


 鹿島陸戦隊員は、決断力のある鹿島の交渉力に期待して、

送り出したのであったが、、、。


 挨拶そこそこの鹿島は、天女が現れたとの思いで、

初対面のマーガレットの顔を見つめて固まってしまった。


「どの様なご用件でしょうか?」

と、マーガレットは、

表情を変えない無礼な奴とだと感じて鹿島をにらんだ。


 天女の声を聴いた鹿島は、現実に引き戻された感覚を覚えた。


「お願いに上がりました。

この艦には、娯楽設備は多々有りますが、訓練用設備がありません。積み荷の中にある、対敵仮想マシーンをお借りできませんか?」


「確かに、積み荷の中に、対敵仮想マシーンは有りますが、

あれは、輸送品ですので、間違い事が起きる可能性があるので、

荷解きは出来ません。

許可された使用可能設備以外の物は、

この輸送艦においては使用不可能です。」


「副艦長殿が、気がかりしているような、

壊す事は、決してないと思いますが。」


「壊さない。傷付けない。システムの変更をしないと、提案されても、間違いが起きる可能性は絶対ないと言っても、

絶対という言葉は、誰もが信用できない言葉でしょう。

結果、間違いが起きなかったとしても、

それは、現時点では、推測できても、確信できないでしょう。」


 鹿島は、短い時間でのやり取りで、

天女の言葉を押し切る自信がなくなってきた。


「何度も繰り返し言いますが、荷をほどくことはできません。

訓練でしたら、この艦は大きいです。

廊下は長いです。工夫してくださいますよう。他には?」


「多々有りますが、、、、工夫してみます。」


 取り付く暇もないようなマーガレットの剣幕に、

鹿島はひるんでしまった。


 マーガレットは、

鹿島は父と同じく英雄と呼ばれているが、

鹿島の返す言葉と頼りない態度に、

礼、智、覇気が鹿島からは感じられないと思っている。


 マーガレットの知り合った男性皆、礼、智は持ち合わせていたが、鹿島は、只の戦闘狂だけの、

野蛮な陸戦兵にしか感じていないようである。


「では工夫してくださいますよう、お願い申し上げます。」

との言葉を、

鹿島は、遠い彼方からのささやきにしか感じなくなっていた。


 鹿島は、父親から耳にタコが出来る程に、

女性には逆らうなと言われていたので、

女性である容姿端麗なマーガレットから、

物はあるのに使えない理由を言われると、

強く反論できないようである。


 鹿島の父親は、反抗期に母親に食って掛かる鹿島を見て、

「母親は、お前専用の神様だ。

そして、偉大な女性でもあるので尊敬しろ。」

と父親の真意は、

母親だけを指摘したのだが、

鹿島は、幼い頃からすべての女性にも反抗出来なくなっていた。


 マーガレットにすれば、

この艦の通路は他の輸送艦の通路より倍以上に広く、

直線距離も長いので、

自身の経験で、体力維持には有効であるはずだと認識していた。


 陸戦隊の訓練場として提供している部屋は元カジノ室で、

スロットもルーレットもないが、

高低差は、工夫次第で充分利用できるはずであると思っている。


 使用させる事が出来ない輸送品の提供を求める鹿島に対しては、

マーガレットは、無能者レッテルを初対面の鹿島に張ってしまった。


 マーガレットは艦司令室に戻り、報告のまとめもそこそこに、

機関部に遅れていた連絡を通達した。


「艦司令室です。機関長いますか?」

「はい、機関部機関長モードです。」


「燃料補助タンク五千ガード分、エンジン通穴パイプライン閉鎖、

終わりましたか?」

「連絡遅れてもうし分けありません。

エンジン通穴パイプライン閉鎖済みです。」

「了解です。」


 燃料コックは、軍艦らしくない舷側近くなので、

万が一不備な事態が起きたとき、

艦中央にある補助タンクだけでも守るためである。


 マーガレットは、

たった九人だけでこの大型艦を運営していることは、

奇跡としか思えないし、

誰もが帰港まで持つだろうかとの思いが込み上げている様子である。


「本当に人手が欲しい。」

と、マーガレットはこぶしを握り締めた。


 特別緊急事態でなければ、退屈毛な陸戦隊の手は借りられない。


 ”忌々しい”と、誰かにでもないが、

マーガレットは、何かに八つ当たりを欲していた。

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