第4話 樹木の脅威

 十個の松笠が壁の上に並べられている。

「生体点検機器を使って、松笠内部を調査します。」

と言って、トーマスは点検機器を松笠に押し当てた。


「胚珠部分は植物性たんぱく質ですが、その構造を包んでいるのは、硝酸アンモニウムイオンを感知できました。」

「俗に言う、化学肥料か。」


「強い火力と、化学変化しますと、爆っ発します。」

「蟲の塩酸がかかると、爆発するのか?

レーザー銃でも、爆発するかな?」

「遠投は、得意です。百メートル位先まで投げられます。」

「よし!クレー射撃大会だ!」

と言って、鹿島は、レーザー銃を肩から降ろした。


「落下曲線後、地上、七から五メートルまでの間に、松笠を射撃する。」

と、鹿島が叫んだ。


 トーマスはソフトボール大の松笠を両手でくるむと、

「ようい!」

と叫んで、大きく胸をそらして松笠を投げた。


 百メートル先で爆発が起きると、

全員は壁の陰に隠れたが、濃塩酸の飛沫は起きなかった。


「す~ごい爆発。まるで、自然界の手榴弾だ。」

と、ホルヘは叫んだ。


「次は、松笠と水の触れ合わせだ。誰か、いい方法があるか?」

「私は、ハンマー投げも得意です。」

と、三階級重量挙げチャンピオンの脳筋ムキムキ娘シーラーが手を挙げた。


「ハンマー投げとは?」

「松笠と水ボールをひもで結んで、二つ同時に投げますと、水ボールが破裂して松笠に水がかかるのではないかと、、。」

「面白い。試してみよう。」


 松笠と水ボール飛行体は、

紐を流しながら別々にあらぬ方向へ飛んでいった原因は、

同時に投げたとしても、スピードはそのまま同じ速度であっても、

進む方向は、形状が違えば空気の抵抗が違うために、

あらぬ方向に飛ぶのは当然であろう。


 シーラーの顔は、

超とは言えないが、他の男たちはどう思うかわからないが、

鹿島の贔屓目では、

上の部類には入るであろうと思う可愛い顔のほっぺを膨らまして、

「え~。ぶ~。」

と叫んだ。


 鹿島は、シーラーの顔を見ながら、

脳筋と呼ばれる原因をも垣間見た。


「松笠と水ボールの根元を固定してから、もう一度、投げてみろ!」

と、鹿島は叫んだ。


 松笠と水ボールの二本の紐は、一本となって流れながら飛んでいくと、松笠と水ボールは互いに絡み合うように落下した。


 基地スペース周りにいた蟲が、

胴体をくねらせながら松笠と水ボールの落下地点に向かいだしたのを確認した鹿島は、


「シーラー!グゥーチョ。」

と親指を立てた。


 松笠と水ボールの落下地点では、

土埃な中で蟲を振り回す無数の蔓と、横に伸びる枝と上に伸びていく。


 若葉芽枝は地表面に注ぐ日差しを遮る程に茂りだした。


 大木となった樹木は、人の歩み程の動きで森に向かっていくが、

力尽きたのか、枯れ木群の墓標前で止まった。


 生い茂っていた葉っぱは、風に吹かれてすべて落葉となった後には、枯れ木群の墓標の一つとなった。


「蟲は何で、木の根っこにかぶりつくのだろう?」

と、ヤンが首を曲げた。寡黙な一角をなすヤンの声に皆が振り向いた。


「蟲は、鉱物が好物なのにどうして、、、?

根っこを調べる必要があるかも?」

と、いって鹿島は考え込んだ。


「シーラー。今度は、スペースの反対側に、三組投げてみて。」


「三組同時は、投げる距離の問題があるので、

三回に分けてよいですか?」

「当然のこと。だが、互いの間隔は、遠すぎない方がいいなぁっ。」


「まかせなさい。三組とも、同じ場所に放ります。」

と、既にアーマーを脱いでいた脳筋ムキムキ娘は、

腕の袖をめくりあげて力こぶを披露した。


 一投目、さっきより飛んだなと、鹿島は感心したが、

二投目は、三十メートル程離れた場所に落ちていった。


「あじゃ~。チョットばっかし、フォームが崩れたな~。」

と、はにかんだ。


 三投目は、

一投目の落下地点から、何とか十メートル近くに着地した。


「やればできる子です。」

と、一人で納得すると、ほかの階級下の陸士に拍手を求めた。


 鹿島は枯れ木群手前十メートルまで伸びている床と壁の端に佇んで、

シーラーの投下した三本の樹木に注視していたが、

壁と枯れ木群の間を移動する大量の蟲に気が付いた。


 蟲の移動は、地面ではなくて地下からの移動だと思っていたが、

足元眼下の移動先を見ていたら、大きな岩陰に消えていった


 三本の樹木と蟲の闘いが始まっているが、

二本の樹木は枯れ木群までたどり着けなかったが、

辛うじて一本の樹木は、枯れ木群の中まで入りこめたようである。


 大量の蟲等は、

枯れ木群の中に逃げた樹木を追うのをやめてしまって、

枯れ木群の前で止まっていた。


 鹿島は遠視鏡で枯れ木群の中に逃げた樹木を観察していると、

枝木の蔓で地面を撫でまわしだした。


 枝木の蔓は、どうも?周りに落ちている松笠を、

自分の周りに集めている様子にも感じた。


「そうか!蟲にとっては、松笠は地雷だ!トーマス!」

と言って、鹿島は遠視鏡を覗いたままで、トーマスを呼んだ。


「隊長。何かありましたか?」


 鹿島は、最初に逃げた既に枯れ樹木を眺めながら、

「枯れてしまった樹木の枝に、松笠が実をつけている。

あれは、次の世代の樹木だが、蟲にとっては地雷原だ。」


「意味が解りません。分かるようにお願いします。」

「枯れ木群の中は、資材の安全地帯だ。いや、鉱物材の安全地帯だ。」


「で?」

「逃げた樹木は、森からかなり離れている。

あれの木の根っこを調べよう。」

「構築ロボットで、根を掘り出すと?」

「ピンポーン!作戦会議だ!」


「不要な幹は倒して、それから、ゆっくりと根っこを掘り起こそう。」

「松笠は、地雷だと言っていたが、

構築ロボットのキャタピラーで踏んで、大丈夫でしょうか?」


「松笠を、俺は何気に踏みつけたし、蹴飛ばしたが、何ともなかった。

松笠は、硝酸アンモニウムの塊だが、強い火力か、化学反応しない限り爆発などしない。打踏みつけても大丈夫だ。と、、、思う。」


「大丈夫だよ。」

と、トーマスは断言したが、


「大丈夫だと思う。思う、、、、。でないと、この作戦は実行できない。」

と、珍しく鹿島が弱気になったのは、

学生時代は、

苦手な科目の筆頭が化学であったと思いだしたからである。


 寡黙なビリーは、壁の上に並べられた松笠を土の中から複眼だけを出している蟲の中に投げると、

腰のワルサーP300拳銃を抜いて、投げた松笠を狙いだした。


「ビリー三等陸曹殿は、無口のまま、時々無茶をやるわね。」

と、シーラーがあきれ声をあげたが、

松笠は砕け散っているだけで、何の変化もなかった。


「圧力は、、、大丈夫だな。」

と、鹿島は、呆れた顔をビリーに向けた。


 鹿島隊は、基地スペースの枯れ木群側の壁を取り払うと、

火炎放射器とレーザー銃の援護の中で、

二台の構築ロボットを先頭に枯れ木群の中に向かった。


 樹木幹に向かうトーマスを援護する為に、

鹿島達も後ろから付いて行くと、二十本程の蔓が襲ってきた。


 全ての蔓は鹿島達によってこま切れにされていったので、

トーマスは難無く樹木幹を断ち切り倒した。


 木片と木片をこすり合う音が響いた時に、

森の中から枝葉の風になびく音も響いた。


「これは、純度99,99%の純鉄です!」

と、トーマスは点検機器の画面を見ながら、驚きの声を上げた。


 トーマスが調べたのは、

二十センチ太さの根の中心部にあった針金を調べ終えたときの声である。


「鉄にしては、硬さがないな?」

「純鉄だからです。」


「鉄は、純度が高くなればなるほど、

柔らかいと聞いた覚えがあります。」

と、寡黙なビリーは発言した。


「こっちの根には、金糸か金色髪の毛みたいなものがあります。」

「こっちの根にも、糸状のものが入っています。」

と言って、シーラーとホルヘは、

根から取り出した物をトーマスに差し出した。


「こっちは、純金で、これは、、、アルミニュウムだ。」

「え~。凄い資源だ。」


「金糸は、私が見つけたので、返して!」

と、シーラーは叫んで、トーマスの横から金糸を取り上げた。


「それ、本部へ届けるので、ダメだろう~。」

と、鹿島は困り顔で、シーラーに向かって手を差し出した


「鉱物は、超熱と超圧力の中で生み出されると授業で聞いたが、よくわからん。」

と言って、シーラーから取り上げた金糸をトーマスに渡した。


「トーマス。根から出た物を、集めてくれ。」


「何処かへ、行かれるのですか?」

「蟲達が向かっている所へ、調査に向かう。」

と言って、二百メートル先の岩を指さした。


「え~。無茶でしょう。」

「降下機の燃料を集めて、空中から観察する。」


「磁場嵐が終わってから、ドローン空撮でよいかと思いますが?」

「磁場嵐は、いつ終わるかわからない。救助が来るまでに、調べきれるだけ調べたい。」

と言って、資材の置かれている中央に向かった。


 鹿島とヤンは、全ての降下機から集めた燃料は二台分残っていたので、二人で蟲の向かう岩を目指した。


 岩に向かっていた蟲は、岩の下にある穴へと入って行っていた。


「穴を調査する。援護を頼む。」

「気を付けてください。」


 鹿島は、穴の角度を調べると、空中から当眼鏡で覗き込んだが、

「暗くてわからん。周りを調査しよう。」

と言って、岩の周りを飛行した。


「隊長!この穴は、深そうです。」

とビリーが叫んだ。


「しまった。照明弾を持ってくるんだった。」

「持ってきました。穴に投げ込みます。」

と言って、二個の照明弾を穴に落とした。


「身体がぶれるので、降りる。援護を頼む。」

と言って、直ぐに鹿島は二メートル幅の縦穴横に降り立った。


 鹿島は、

明るくなった三十メートル下の光景に驚きの声を発しながら、

遠眼鏡を外すことなく観察している。


 穴の真下は蟲の巣のようで、

蟲達よりも一回り大きな蟻のようにくびれた胴体の蟲は、

大きな下半身から卵を産みだしている。


 卵の中には、繭のようなものに包まれた蟲の幼体が十個ほど入っている。


 その卵を女王蟲らしきもの蟻型生物は、一秒間隔で産んでいた。


 女王蟲は卵を産み続けながら、

蟲の尻から出てくる何かをかじり続けてもいる。


 尻から何かを出す蟲は、何かを出し終えると、

次々と交代して女王蟲に尻を向けていた。


「よし!帰ろう!」

と言って、鹿島は、降下機をジェット噴射した。


 鹿島は、基地スペースの中央辺りで、

座り込んで携帯食料を齧りながら、


「トーマス。爆裂弾はどのくらいある。」

「二個だけは、避難出来ました。」


「それで、蟲の巣を女王蟲ごと吹き飛ばそう。」

「本部は女王蟲の情報を知ると、

これからの作戦は、楽になるだろうな~。」


「勲章ものだろうか?」

と、シーラーは喜び騒ぎ立てた。


「食事が終わったら、枯れ木群の中に置いてある、

ロボットにもう一度働いてもらおう。」


 磁器岩を足場に、

穴から噴き出す爆炎と酸の飛散がかからないように、

ロボットによる磁器岩路は、蟲が出入りする穴近くまで続いた。


「避難場所は、こんなもんかな?これなら、

酸が噴き出しても大丈夫だな。」

と、鹿島は、

十二名がやっと避難出来るスペースを見ながら微笑んでいる。


 鹿島隊全員も調査の最終を感じているようで、

明るい顔でうなずいている。


 トーマスとヤンの二人が爆薬筒を背負って縦穴に向かうと、

全員が二人を守るように警戒態勢となった。


「避難!」

と言って、トーマスとヤンが駆け出した。


 鹿島隊全員が避難場所に駆け込んだ。

「確認番号。」

「1,2、、、、10、11。」

「確認完了」

と鹿島が叫ぶのと、地響きを伴う爆発音が響いた。


「負傷者は、いないか?」

と鹿島は、避難所から出ると、全員の顔を見渡した。


「大丈夫です。」

と、トーマスが敬礼すると、ほかの全員も背を伸ばして敬礼した。


「作戦成功!」

と言って、鹿島が腕を挙げると、

「やったぜ!」

と、全員は思いっ切りの力で腕を上げた。


 いや、一人、松笠をなぜ回しているシーラーに全員の顔が向いた。

「これはあたしの。」

と言って、松笠を手のひらに隠した。


「育てて、金塊を確保したいのです!」

皆は、シーラーに向いて首を傾げた。


「それ危険だろう。

栄養分豊富になったであろう、縦穴に放り込んでやれや。」

と、トーマスがシーラーに声がけすると、全員が頷いた。


 シーラーはしぶしぶ顔で、縦穴に向かって歩き出して行き、

白い煙の吹き出しに松笠を投げ入れた。


「本部と連絡が付きました。すぐに迎えが来ます。」

とビリーが叫んだ。


「ほう。磁気嵐も収まったか?中隊との連絡も頼む!」

と鹿島が叫ぶと同時に、


「全く、連絡が取れません!」

と悲壮感の声がした。


「まさか、全滅ではないだろうに。」

と、トーマスが首を横にして鹿島の方に向いた。


「まさかとは思うが、いや、俺も最初は、森に入ろうと思っていた。彼等は、入ったかもしれない。」

「でも、全員で突撃などしまい。」

「、、、、、、」

鹿島は、次の言葉を飲み込んでしまった。


「うわ~。なんだ、あれは~!」

と、ホルヘの叫びが、鹿島とトーマスの間の静寂を切り破った。


 地響きと共に、

横穴からは、一メートルはある太いとげのある木の根っこがはい出してきていて、縦穴からは無数の長い蔓が伸びていた。


 さらに地響きと共に、縦穴を押し広げて大木が現れた。


 大木は枝木を伸ばしながら、森とも思える大きさに成長しだすと、鹿島達の居る避難スペースをも覆い被さってきた。


「枝木の外へ避難!」

と鹿島は叫んだ。


 先頭を走っているホルヘを確認した鹿島は、

「ホルヘを目指して固まって避難しろ!」

と叫びながら、伸びてくる蔓に注目していた。


 鹿島は、自分に向かってくる蔓を切り落とすと、

固まって駆けている皆に向かう三本の蔓を叩き切った。


 ほかの蔓は、全員の速さについてこられないようであるが、

それでも縦穴跡からは、三百メートルは伸ばしていた。


 大木の枝葉は、縦穴跡を中心に二百メートルまで伸びていた。


 安全スペースから離れてしまった鹿島隊は、一塊になった。


 鹿島隊の装備は、レーザー銃と腰の剣だけであったが、

ホルヘに至っては、腰の剣だけであった。


「偶数隊は、剣を抜いて、地面下を防御。

奇数隊は、向かってくる敵を射て。」

と言って、円陣を組んだ。


 地面が見えなくぐらいの数で襲って来る蟲どもを恐れているのか、冷や汗なのか、絶対絶命と感じているのか、

全員の眉間から汗が流れだしている。


 微動だしない状態の中で、

微かにエアークラフトのジェット噴射音が聞こえてきた。


 全員は、一瞬、目はジェット噴射音の方に向けたが、

身体は微動だしない。


 ジェット噴射音が近付く程に、眉間から大量の汗が噴き出ている。


 円陣の輪の中で、三ヶ所の土が盛り上がると、

三本のチェーンソー剣が突き刺さったと当時に、

エアークラフトから十二本のロープが垂れてきた。


「ロープをつかめ!」

と鹿島は怒鳴って、蟲の眉間に刺したチェーンソー剣を引き抜くと、ロープをつかんだ。


 鹿島は不安定に片手でロープをつかんでいるが、

垂れたロープにしがみついて引き上げられていく人数を数え終わると、

ゆっくりとチェーンソー剣を鞘に納めた。

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