第2話 鹿島陸戦小隊
五千名からなる旅団は、
マゼラン星雲敵惑星掃討作戦に半年を掛けて制圧したが、
優勢装備ながらも戦う事に常に3%の犠牲者が出た。
犠牲者のほとんどが新兵か経験不足兵士であったが、
鹿島隊からは一人の怪我人も犠牲者も出なかった。
過酷な訓練と休みの日には、
シーラー陸士長にけつを蹴られながらも、
六人の陸士も休日訓練に参加しだしたのが原因であったようだ。
鹿島隊の二つ名は、ブラック小隊と呼ばれていて、
鹿島隊の陸士達は、過酷な訓練を見ていた者達から、
同情と揶揄を集めていた。
鹿島陸尉(りくい)小隊長は休離喰虫(きゅうりくいむし)と呼ばれ、
トーマスは鬼軍曹と陰口を叩かれていた。
「シーラー女神様のいる鹿島隊は、
生き残れる加護を持ち、幸運だな~。」
とシーラーは、食堂で酒を飲んでいたほかの兵隊からの、
何時もの通りの声を掛けられると、今までは微笑んで聞き流していた。
何故か今は戦場から帰ったばかりが原因なのか、
能天気野郎どもがとの思いで怒りを感じた。
「戦場に、幸運などない!あるのは、死神の鎌刃だけだ!」
とシーラーは怒鳴った。
何故か、食堂で怒鳴った後で、
シーラー陸士長もシーラー女神様から脳筋ムキムキ娘との二つ名で呼ばれていた。
鹿島小隊の属する中隊に、千六百光年先にある資源豊富な惑星、
人食い惑星への移動命令が来た。
鹿島小隊は、輸送艦での十回のワープ航宇宙路の合間には、
人食い惑星のデーターを基に過酷な訓練は続いた。
輸送艦での移動は二千名規模の連隊移動であったが、
訓練場には、
鹿島隊が現れるまでいつも人一人っ子居ない開店休業状態である。
訓練用仮想敵マシーンは常に鹿島小隊の専用であった。
鹿島小隊は、
各個人向けにデーターを変更しても何の苦情もない事で、
満足のいく訓練をも行えた。
移動作戦中にエピソードがあった。
脳筋娘シーラーが他の隊三人の上官に誘い、
いや?絡まれているときに、鹿島が近づいてきて、
「おい。酔っ払い。俺が相手だ!」
と言って、
有無も言わせず顔中をたんこぶだらけになるよう容赦なくボコった。
その事件のお陰なのか、
それ以降、
ブラックとの揶揄の対象であった鹿島小隊員に絡むものは居なくなった。
人食い惑星の敵は、蟲と呼ばれている太さは四十センチもある、
細い毒針に覆われた三メートルもの大型ミミズである。
しかも口からは、胃酸である濃塩酸を吐き飛ばし出してくる。
仮想大型ミミズ蟲と相対した脳筋ムキムキ娘シーラーは、
気持ち悪いと騒ぎだすと、全身にアレルギー性発疹に見舞われた。
脳筋ムキムキ娘は、
ワープ航宇宙路の合間は、
輸送艦医務室と訓練場を往復する羽目となった。
脳筋ムキムキ娘は気持ち悪いと言いながらも、
五度目のワープ航宇宙路後は、
アレルギー性発疹発病はしなくなっていた。
十度目のワープ航宇宙路を無事に終えて、
ようやっと緑豊かな人食い惑星へ着いた。
小隊長以上を集めた作戦会で、
人食い惑星制圧部隊、桜師団長からの挨拶訓示を終えた鹿島達は、
人食い惑星の蟲と緑豊かな森林の関係を聞かされた。
人食い惑星地中岩は、二十%以上が有効資源であり、
蟲はその有効資源を餌としているとの事である。
人食い惑星と呼ばれている原因は、
緑豊かな森林の根は生き物のごとく動き、
絡みつ付いて動物性たんぱく質を強アルカリ性硫酸液で溶かして餌としているらしい。
蟲は塩酸で岩を溶かし、
緑豊かな森林の強アルカリとは互いに敵対し合っているようだ。
おまけに、蟲と緑豊かな森林が出会うと、
有毒ガスが発生してしまうかもしれないと伝えられたが、
その裏付け現象発生証拠は示され無かった。
蟲共は細々と小さなテアトリーで生活していたが、
そのバランスを崩したのが人類であった。
資源豊富な惑星を見つけた人類は、
緑豊かな森林を広範囲に焼き払ってしまった。
焼き払われた跡地では、
天敵のいなくなった蟲が大量発生事態となった。
人類が採掘場所にする予定地調査では、
すでに大量の蟲によって全ての資源は食いつくされていた。
人食い惑星に採掘業者が入る前は、
惑星の地表の98%は森林であったが、
蟲の大量発生により今では80%を切っていた。
いずれは、蟲によってすべての有効資源は、
食い尽くされてしまうであろうと予測された。
銀河連合軍は、森林破壊は出来るが、
蟲の出す酸性液の有毒ガス汚染による危険性と、
資材や採掘機械へ取り付いて溶かしてしまう、
増える一方の蟲への対応が出来ないでいた。
鹿島は人食い惑星の情報を共有するために、小隊全員を集めた。
「これまでの、人食い惑星で判明している事は、以上だ。
質問を受ける。」
「蟲を、どの様な方法で倒すのですか?」
「体液も、強塩酸系なので、体液が飛散しないように、蒸し焼きか、焼き払うだけしかできない。」
「核爆発で、一掃出来ないのですか?」
「資源が放射能汚染されてしまうと、意味が無い。」
「戦術作戦を知りたい。」
「地表面は、全て危険地帯だ。
森林の中では、樹木からの地中の根と枝からの毒針蔓攻撃があり、
岩場の地中からは、蟲の吐き出す酸攻撃がある。」
「地中からの攻撃は、防ぎようがない。」
「皆。足元を見てみろ。全て酸に強いガラス質の床は、
全て磁器出来ている。これが蟲による地中からの攻撃を防いでいる。」
「歩きにくい滑る床だと思っていたが、
蟲からの攻撃を防いでいたのか。」
「中隊規模で、この磁器を前線に運んで、基地を確保する。」
「中隊の人数は?」
「百人規模らしい。」
大型エアークラフトに乗り込んだ中隊は、目的地へと向かった。
鹿島は、
エアークラフトの窓から色とりどりの十二個のパラシュートを眺めていると、
一機の降下輸送ポットの四つのパラシュートだけが、
二機のパラシュート群から遠ざかりだしていた。
「何で!三機の降下輸送ポットは、あらぬ方向に着陸しているのだ!」
と、中隊長が叫んだ。
「第一から第五小隊は、A降下輸送ポットへ向かえ!
第六から第十小隊は、一キロ先のB降下輸送ポットへ向かえ!
四キロ先のC降下輸送ポットは放棄する。」
と更に中隊長は叫んだ。
「C降下輸送ポットには、第三小隊を行かせてください!」
と、鹿島は叫んだ。
「鉱山惑星の生き残り初年兵か!
わかった!第三小隊は独立小隊と認める!独自で生き残れ!」
と中隊長は、鹿島を毛嫌いな物を見るような目つきで、
鹿島隊への援護はできないとの暗黙の独立小隊と認めたのは、
他の小隊との連携は、難しいとの思いもあったようである。
鹿島が中隊長から毛嫌いされている原因は、
輸送船の中において、
酒の匂いをさせながら良からぬ風紀乱れをしている他の隊の兵士をボコってしまった事や、
中隊会合時、訓練場に現れない他の小隊長と常に衝突する問題児であったが為だろう。
鹿島隊が降下中、
「降下輸送ポット着陸担当官は、着陸調整の計算ができないのか?」
と、トーマスの愚痴声がアーマーヘルメットに響いた。
「全員を横一列となり、肩を組め!
偶数の者は、簡易ジェット降下器を止めろ!
奇数班は、効率な燃料で全員をC降下輸送ポットまで運べ!」
と、鹿島は叫んだ。
横一列十二名の鹿島小隊が、
C降下輸送ポット横に着陸体制に入る寸前に、
「偶数班!ジェット噴射!上から着陸したものを守れ!
奇数班は降下して、磁器タイルを最優先で降ろし、
その上に資材を乗せろ!」
と、鹿島は叫んだ。
地中から這い出た蟲は、
降下輸送ポットに取り付いて、
口から胃酸を出しながら降下輸送ポットのあちらこちらに穴をあけている。
「地面二!敵八!」
と、攻撃班ヤン陸士長は叫んだ。
攻撃班は、降下輸送ポット横の地面の確保を第一次攻撃場と決めた。
攻撃班各自は、訓練通り的確に蟲の体液を飛散させないように、
急所である頭だけをレーザー銃で射抜いて降下場所を確保した。
降下した班は構築ロボットと共に、
蟲によって降下輸送ポットが分解されるのが先か、
輸送機材の退避が先かを争うっている。
「退避材優先順位を、間違えるな!」
と、降下輸送ポット内側から、トーマスの声が響いている。
山と積まれた一辺二メートルと一メート長方形の磁器岩上には、
最優先に待機させた水が満タンに入ったタンクが載せられていた。
鹿島とトーマスは、
無残な姿になってしまった輸送ポットを眺めながら、
「隊長。何で我々だけで、C降下輸送ポットに来たのですか?」
「安全スペースと、これだ!」
と言って、タンクを叩いた。
「あ~。なるほどですね~。
構築ロボットでは、これだけの資材を降ろし終わるまでは、
ロボットといえども、持ちこたえられないと、判断したのですね。」
「蟲の酸をすべて防ぐことは、不可能だ。」
「下手な攻撃をすると、
構築ロボットに強塩酸内液の被害が出るだろうし。」
「こいつら蟲は、強塩酸の塊だからな~。」
「訓練の甲斐があったようで、
強塩酸内液の染み出しは、防いでいますね。」
「そろそろ、最低限の必要資材と、俺たちだけの安全スペースは、
確保できたようなので、
蟲の好物『鉱物』の鉄塊で出来ている構築ロボット一台だけは、
安全な磁器岩の上に避難させておこう。」
「好物、鉱物、ね~。ハ、ハ、ハ。」
と言って、トーマスは笑い焦げながら洒落言葉を口にした。
トーマスは笑い焦げながらも、
「しかしながら、
中隊長が、隊長の事を、初年兵呼ばわりした時は、驚きました。」
「卒業した後、まだ一年未満だから、間違いなく初年兵だろう。」
と、鹿島は気にするそぶりなく笑い飛ばした。
安全スペースは四十メートル四方の磁器岩を二重に重ねた床と、
二メートル高さの壁ができたが、
一台の構築ロボットを磁器岩上に避難させた。
残りの二台はそのまま一キロ先の森の方へ伸びるように、
延長増築させるために、
陸戦隊の警護の中で壁の外での増構築を継続させた。
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