第7話登場人物紹介・其の1
「ささ、アラタ様。こっちこっち。もとサッカー部のご一団がやってきますよ」
俺をいじめぬいたサッカー部三人組への恨み言をしたため終えると、かい子がやってきて俺をもとの時代の令和〇年に戻した。場所は……どこかの船着き場か?
俺がうろたえていると、かい子の言う通り俺をいじめていたサッカー部三人組を含めたサッカー部員12人にサッカー部の顧問を含めた総勢13人がやってくる。何十年もたっているが、俺にはあいつらがサッカー部のメンバーだと確信できる。
「おい、かい子。どんな魔法を使ったんだ?」
「あの人たちの話を聞いていればわかりますよ」
かい子に言われて俺はもとサッカー部が話している内容に耳を澄ます。ちなみに、今現在も中学生の時の俺を見物していた時と同様に、俺もかい子もふわふわした存在になっているから、元サッカー部のやつらには存在を認識されない。
「しかしまったく、アラタのやつのいじめ体験談がいまになってネットで人気になるなんてな」
そう言ったのは、サッカー部のレフトウイングだ。あいつら、自分たちが人気のサッカー部の部員だったから俺にポジションの名前で自分たちを呼ぶように強制しやがった。その癖がいまだに抜けない。じつにいまいましい。しかし、俺のいじめ体験談? どういうことだ。
「いろいろ具体的な固有名詞はぼかしているけど、読む人間が読めばあれがアラタの体験談だってことは簡単にわかるよな。魔法瓶入りのかばんを振り落とされたところなんか読んでてぞくぞくしちゃったよ。実際にカバンを振り落とした本人が言うのもなんだけど」
そんなことを、中学生の俺殺害の実行犯のセンターフォワードが言う。まったくその通りだ。あれは俺の実体験だ。それにしても俺の想像通り、武勇伝のように話してやがる。人間を一人殺しておいてなんだその態度は。
「けど、あれって本当にアラタが書いたものなのかな。アラタが死ぬ前に書いた文章が今になってネットに出回ったのかも……」
そうライトウイングが不思議がる。なるほど、俺が書いたいじめ体験談がネットに出回っているのか。となると、かい子の仕業だな。しかしなんでそんなことをわざわざ。
「べつにそんなことどうだっていいじゃん。どうせうちらのやったことだってばれてもとっくの昔に時効だし。そもそもうちらあの時は未成年だったじゃん。なんの問題もないっしょ」
レフトサイドバックの言う通りだ。かい子のやつ、なんで事件当時から数十年たった今になってそんなことを
「いやいや。個人的にはこの中のだれかがあの時の中学生のアラタになり切って書いた文章だとにらんでるんだ。なにせ、あの文章がネットでバズったからその書いた誰かさんはいくらかの臨時ボーナスを手にしたはずなんだ。そのボーナスでサッカー部メンバーの同窓会を開くことにしたんだろう。なかなか気が利いているじゃないか」
ほう、トップ下さんはそう考えるのか。もとサッカー部の誰かが俺になり切っていじめ体験談をネットに投稿。それで手にした収入でサッカー部メンバーを招待したと。
「となると、この招待状はそのアラタになり切った誰かさんが送り付けたものなのかな。『拝啓もとサッカー部の皆様。1万日前に僕を殺した思い出話に花を咲かせませんか。アラタより』なんてメッセージを呼んだときはドキッとしたけど」
へえ、ライトサイドバックさん。そんな招待状がよこされたんですか。よく見ると、もとサッカー部12人ともとサッカー部の顧問全員が招待状らしきものを持っている。かい子をちらりと見ると得意げな顔をしている。なるほど、お前が招待状を送りつけてみんなをこの場所に集めたってわけか。
1万日……1年を365日としてだいたい30年にちょっと足りないくらいか。1万日前に死ぬ俺……なるほど、はやりそうなフレーズだ。気にいったぞ、かい子。
「となると、その誰かさんはこの中で内心ほくそえんでるのか。こっそりそんなサプライズを仕掛けて素知らぬ顔をしてるんだな」
半分正解で半分不正解だ、ボランチさん。たしかに招待状を送りつけたであろうかい子は内心ほくそえんでるかもしれないが、すぐそこでにやにやしているぞ。
「しかし、クルージングツアーにご招待とはその誰かさんも豪勢なことをしてくれるな」
ほうほう、クルージングですか、レフトストッパーさん。読めたぞ、かい子。そのクルージングの船を俺たちが十六角館を建てたあの島に漂流させるんだな。
「しかしだね、アラタの遺族はアラタのことを金もうけの材料にして何か言ってこないかねえ」
なかなか良識的なことを言うじゃないか、フルバックさん。お前は殺さないでやる。もともと殺すのはセンターフォワードにトップ下、それに補欠の三人だったしな。
「それなら大丈夫だよ。アラタが死んだときに学校側があれは事故だってことにしたじゃないか。いまさらどうにもなりはしないよ。そもそもあの文章は固有名詞はぼかしてあったし、平気平気」
それが平気じゃないんだなあ、ライトストッパーさん。法律がどうだろうと関係ないんだ。いまから俺が執行するのは俺ルールのリンチなんだからな。
「まあ、あの文章を書いたのが誰かなんてどうだっていいじゃないか。ひさしぶりの再会なんだし」
そう、ゴールキーパーさん。今回は招待状を送ったのが誰かを当てるミステリーじゃないんだ。あくまでこの中から冤罪の殺人犯を仕立て上げるストーリーなんだから。
「そうそう、なにせクルージングツアーなんだから楽しもうぜ」
くそ、はしゃぎやがって、補欠の癖に。自分一人が補欠なものだからそのうっぷんを運動音痴の俺で晴らした恨みは忘れてないからな。お前はターゲットの一人なんだから覚悟しておくんだ。
「そういうことだ。あれは不幸な事故だったんだ。お前たちが気に病む必要は全くないんだ」
そして、サッカー部顧問。死体の俺を自分の車で運んでいるときどんな気持ちだったんだ。お前にはしっかり殺人犯になってもらうからな。
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