第5話十六角館建設・其の4
「で、アラタ様。その歌と踊りはどうやって伝承させるんですか」
二人で楽しそうに二進数ダンスを踊っているれいといちをよそにかい子がそんな質問をしてきた。それもそうか。この島のれいやいちを含めた女の子たちが令和〇年まで生き残っているとも思えないし……
「そうか。女の子たちだけじゃ子孫を残せないし……」
「その通りですね、アラタ様」
そう言うと、かい子は俺のほうをちらっと見てくる。いちおう俺は振り向くが後ろには誰もいない。このパターンはさっきもあったな。となると……
「おやおや、男性が一人いましたね、アラタ様。なあに、時間はたっぷりあります。医療衛生問題もこの女神様がなんとかしようじゃありませんか」
で……
死ぬかと思った。日本が戦後復興や高度経済成長にバブル経済と時代を進めていく中、俺はひとり孤島で種馬の役割をさせられ続けた。島の女性陣は約100人。その全員と明るい家庭計画をするはめになった。
何十年も引きこもり続けて、俺の家系もこれで絶えるのかと思っていたが……こんな形で子孫を残すことができるとは。それも何百人も。
島で最年少のれいにいちが年頃になって出産となってやれやれやっとお役御免かと思ったら、アラタチルドレンのファーストジェネレーションが年頃になりやがった。
かい子のやつが『お子さんが適齢期になりましたね。さあ、もうひと頑張りですよ』なんて言ってきやがる。人を近親婚を繰り返すサラブレッドか王侯貴族か何かと思いやがって。
かい子め、『今回のお子さんは父親と母方の祖父が一致しますから1×2(注1)ですね』だと。そんな超絶インブリードはゲームのダービースタリオンだけでたくさんだ。
とりあえず、島の100人ほどの女の子たち全員に子供を何人か産ませた。うまいこと男女比が半々になっているからあとはその子供たちや、もともといる女の子たちでなんとか生態系を維持してもらおう。
「ああ、アラタ様。この島は果物の樹も豊富ですし、真水もわきます。海には魚介類も豊富ですから自給自足していくには十分でしょう。せっかくですから漁に使う道具。それにちょっとした田んぼで稲作でできる程度の置き土産もしておきましょう。漁や稲作の仕方はあたしがこっそり聞いたところによると彼女たちだけで可能なそうですよ」
それはどうも。さて、これで……設計書通りに作られた十六角館には完成したら聖域としてけして誰にも立ち入りをしないようにさせること。そして、これから数十年して自分たちと同じ言語を使う集団がやってきたら手厚くもてなして十六角館に宿泊させること。俺がれいといちに教えた二進数ダンスを伝統文化とさせること。
これらを島の女の子たちに言い含めておけば本格館モノ孤島ミステリーの舞台の出来上がりだ。
それでは、お次に俺の中学時代にタイムスリップするとするか。俺がサッカー部の三人組に負わされたケガは、現場を目撃したサッカー部顧問があわてて俺を自家用車に押し込めて病院にかつぎ込む程度のものだった。
今にして思えばそれは救急車を呼ばずに事件をもみ消すことを第一に考えたサッカー部顧問の保身の願いの結果だろう。自分も俺へのいじめに率先して加わっていたサッカー部顧問が俺のケガの心配なんかするはずないからな。
それを事故では済まさずにかい子の不思議な力で殺人と発展させるとしよう。今から学校側と生徒側がどう責任をおしつけあうかが楽しみだ。
「さあ、かい子。ひとつ俺の中学時代にタイムスリップしてくれ」
「「おじちゃん、どこかにいっちゃうの?」」
島の女の子たちにはないしょでこっそり出ていこうと思っていたが、れいといちが何かを察してやってきた。
「ごめんね、おじちゃんにはやらなくちゃいけないことがあるからこれでばいばいなんだ。おじちゃんの言ったことをきちんと守ってね」
「「うん、わかった」」
素直に了承してくれたれいといちを置いて、俺はかい子とともにタイムスリップする。そのさいこんな言葉が聞こえた気がした。
「「おじちゃん、また会えるよね」」
(注1)競走馬の血統において父方の先祖と母方の先祖に同じ馬がいた場合このような表記をする。例えばサザエさんにおいてタラちゃんとワカメちゃんとで子供を作った場合、その子供の父親であるタラちゃんの母親はサザエさんでありその両親は波平とフネである。
また、その子供の母親であるワカメちゃんの両親も波平とフネである。つまり、この場合3×2と表記される。この表記においては父方と母方を区別するために3×2と2×3がイコールでないことに注意されたい。
このケースでも十分インモラルだから、1×2がどれほどやばいかは明らかである。アラタ君は道徳的ですね。
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