第4話十六角館建設・其の3

 さて、島の女の子たちにしごとを発注して一息ついていたら二人の幼女が目に付いた。二人ともそっくりな外見をしている。双子かな?


「「おじちゃん。ごはんありがとうございました」」


 お礼を言われてしまった。おじちゃんか。子供部屋おじさんと呼ばれなくてよかった。


「うちの名前はれい」


「うちの名前はいち」


「「うちたち双子なの」」


 やはり双子か。ちょうどいい。この幼女の双子に歌と踊りを仕込むとしよう。これが俺がもといた現代に伝わると、この島の伝統の怪しげな風習となる。これも本格ミステリに欠かせないエッセンスだ。


「そうかい。れいちゃん、いちちゃん、おじちゃんと楽しい遊びをしないかい」


「「うん、するする」」


「それじゃあ、れいちゃんが右側に、いちちゃんが左側に、横並びになってね」


「「わかった」」


「で、れーい、いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、なーな、00って零から十五まで数を数えるんだ」」


「「数えるだけー。つまんなーい」」


「数えるだけじゃなくてね、いっしょに踊りも踊るんだ。れいちゃんは右手をれーいでは下げてていーちで挙げる。同じ風ににーで下げてさーんで挙げる。これをじゅうごーまで繰り返すんだ。左手はれーい、いーちでは下げたまま。にー、さーんで挙げる。しー、ごーで下げてろーく、なーなで挙げる。左手は右手の二倍の間隔になるんだ」


「「……」」


 むむ、幼女の双子が沈黙してる。難しいかな。


「いちちゃんは右手をれーい、いーち、にー、さーんでは下げてて、しー、ごー、ろーく、なーなでは挙げる。はーち、きゅーう、じゅーう、じゅういーち、で下げて、じゅうにー、じゅうさーん、じゅうよーん、じゅうごー、で挙げる」


「「……」」


「で、左手はれーい、いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、なーなでは下げたまま。はーち、きゅーう、じゅーう、じゅういーち、じゅうにー、じゅうさーん、じゅうよーん、じゅうごーで挙げるんだ」


「「なんだかよくわかんなーい」」


 やっぱりか。幼女の双子にはゼロといちの二進数は早かったか。しょうがない。


「じゃあ、いいかい、おじちゃんが地面に描く絵を見てくれるかな」


「「はーい」」


 俺はそのへんにあった木の枝を手にすると地面に絵を描く。幼女の双子はそれを見つめる。俺はまず0と1を描く。


「いいかい。この丸いのがが手を下げていて、縦の棒が手を挙げているのね」


「「丸が手を下げるで、縦棒が手を挙げる。わかった」」


 ふう。とりあえず0と1を記号として認識してもらった。さて……


「で、例えば0110の一番右側がれいちゃんの右手。その左がれいちゃんの左手。さらにその左がいちちゃんの右手。最後に一番左がいちちゃんの左手。だから……」


「「こうすればいいのー」」


 れいが左手、いちが右手をあげている。理解の早い生徒達だ。


「で、 れーい、 いーち、    にー、    さーん、では」

    0000、 0001、  0010、  0011

「   しー、   ごー、    ろーく、   なーな、では」

    0100、 0101、  0110、  0111

「   はーち、  きゅーう、  じゅーう、  じゅういーち、では」

    1000、 1001、  1010、  1011

「   じゅうにー、じゅうさーん、じゅうよーん、じゅうごー、では」

    1100、 1101、  1110、  1111

 

「だよ。この丸と縦棒の通りにれいちゃんといちちゃんは右手と左手を挙げ下げしてね」


 そう俺は数を数えて説明しながら地面に0と1を描いていく。


「「こうすればいいのー。なんだかおもしろーい」」


 幼女の双子は俺が地面の描いた16通りすなわち2の4乗つまり4ビットの数を数えながら、それに対応した二進数表記を左右の手の挙手で表現している。


「そうそう。またれーいからじゅうごーまで数えてくれるかな」


「「はーい」」


 俺は幼女の双子の後ろに回って、二人の二進数表現があっているか確認する。自分視点で考えた二進数体操だから向かい合ってみても鏡に映った反転画像を見てるようでぴんとこない。二人の後ろで、二人の視点で確認しなくてはならない。


 よし、あってる。


「じゃあ、こんどはちょっと難しいよ。歌をゼーロ、ワーン、ツー、スリー、フォー、ファーイブ、シーックス、セブーン、エイ―ト、ナイーン、テーン、イレブーン、トゥエールブ、サーティーン、フォーティーン、フィフティーンにするんだ」


「「もう一回歌ってー、おじちゃーん」」


「いいとも」


 太平洋戦争中の幼女ともなれば、敵性言語の英語なんて知るはずもないだろう。根気よく1から覚えさせなければならない。さらには中国語のリン、イー、アル、サン、スー、ウー、リュー、チー、パー、クー、シー、シーイー、シーアル、シーサン、シース―、シーウー。


 それにドイツ語のヌル、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フンヌフ、ゼクス、ジーベン、アハト、ノイン、ツェーン、エルフ、ツヴェルフ、ドライツェーン、フィーアツェーン、フンヌフツェーン


 そしてイタリア語のゼーロ、ウーノ、ドゥーエ、トレ、クワトロ、チンクエ、セーイ、 セッテ、オット、ノーヴェ、ディエーチ 、ウンディーチ、ドゥディーチ、

トレディーチ、クワトロディーチ、クインディーチなんてのも覚えさせよう。


 英語はともかく、中国語やドイツ語、イタリア語の数え方を解する人間なんて少ない。特にサッカー部の低学歴なんてそうに決まってるから不気味さも増すだろう。


 さらには手の挙げ下げだけでなく、四人集めて立ったり座ったりで表現したりもできるからバリエーションも増える。これは実におどろおどろしくなる。まさに本格ミステリーの世界だ。  


 歌の曲調は逃げ恥ダンスや恋するフォーチュンクッキー、あるいはパプリカを拝借しよう。16は4の倍数だから4拍子の曲にならなんでも数を数える歌詞を乗っけられる。

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