第3話十六角館建設・其の2

「おいしい! こんなおいしいもの初めて食べました!」

「戦時中にひもじい思いをし続けてどうなる事かと思っていたけれど、こんな幸せにありつけるなんて!」

「この服もステキ!」

「行水が安心してできるなんて感動です」


 過去にタイムスリップしてふわふわした存在になっているかい子が出現させた衣食住のセットに女の子たちが感激している。男をひどい目にあわせて女の子はハーレム要因にする。今どきの読者が喜びそうな展開だ。


「ところで、きみたち、大工仕事をする気はないかな」


 俺の質問に女の子たちが口をそろえて答える。


「もちろんやらせていただきます。男が特攻でいなくなってしまったからたいていのことはできるようになりましたから」


「そうか。ではお願いしようかな。かい子、設計図と大工道具と建築材料一式を出してくれ」


「了解です、アラタ様」


 俺の命令でかい子がどこからともなく設計図と大工道具と建築材料一式を出現させる。


「なんという奇跡!」

「現人神はあなた様だったんですね」

「食料だけでなく仕事も与えてくれるなんて!」

「なんと感謝していいのやら」


 俺を称賛する女の子たちにこれから建設する館の説明をする。  


「まず外観が底面が正十六角形の角柱がコンセプトだ。で……」


 そんなふうに俺は綾辻行人先生の十角館の十六角形バージョンの説明をする。十六角形の外壁に沿って十六個の部屋を配置するのだ。ただし、元ネタと違って館の真ん中に円柱を三等分した部屋を配置する。☮マークの真ん中の下半分を取っ払ったかたちだ。ベンツのエンブレムと言ってもいい。


「外側の十六個の部屋には簡単なカギをつけてもらう。だれか錠前作りが得意な子はいるかな?」


「はい。あたしができます。ぜひやらせてください。名前はるいと申します。よろしくお願いします」


 都合よく錠前づくりができる女の子がいたのでその子に鍵を作らせることにして、ほかの女の子たちには館を建てる場所の整地をさせる。


「じゃあ、ほかの子たちは地面をならしてくれ。別に奴隷みたいに働かなくていいからね。適度に休憩を取ってくれ」


 俺の命令にるい以外の女の子が仕事にかかる。そして俺はるいにかぎの説明を始める。


「ええと、外側の部屋を0号室から15号室まで時計回りに番号付けする」


「0号室からですか? 1号室からじゃなくて?」


「そう。で、0号室には鍵を作らなくていい。ここは玄関に部屋にするから。そして、かぎはシリンダー錠を作ってもらう。と言っても、複雑なものじゃなくていい。出っ張った部分とへこんだ部分を4か所作ってくれれば十分だ」


「そんなものじゃあ簡単に合いかぎが作られるんじゃあないですか?」


「別にいいんだ。これはあくまでおかざりだから」


「はあ……」


 この1号室から15号室のカギはトリックの肝ではない。あくまで雰囲気づくりの一つとしてのカギなのだから。


「それで、でっぱた部分を1、へこんだ部分を0として、1号室から15号室のかぎを0001、0010、0011、0100、0101、0110、0111、1000、1001、1010、1011、1100、1101、1110、1111として作ってくれ」


 そう言って俺はるいに1号室から15号室のカギのデザイン図を見せる。


「わ、すごい。4か所のでっぱった部分とへこんだ部分のカギで15個のカギが作れるんですね。たとえば、1001のカギはこんな感じでいいんですか。左側が1001の部分で右側が持つ部分なんですが」


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 るいはそう言うと地面にカギのデザインを指で書いて見せる。


「そういうことだ。良く描けてるね。正確には15種類じゃなくて0号室もあるが……この方式で0号室のカギを作ろうとするとただの棒になってしまうからな」


「なるほどお。となると、15号室のカギは棒に板が1枚くっついたかたちになるわけでですね。こんな感じに」


 そう言いながらるいはもう一つカギの絵を描く。


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「そういうことだ」


 0号室から15号室のカギの説明を終えたところで、俺は真ん中の三部屋の鍵の説明に入る。


「3つの部屋は、5桁の暗証番号をセットしたら開錠される仕組みにしてくれるか。外れると……そうだな扉から刃物が飛び出してそこにいる人間を串刺しにするようなペナルティが与えられる仕掛けをつくってほしい。できるか?」


「難しいけれど……やってみせます」


「そうか、暗証番号は、57005、51966、00031だ。0から9までの10個の数字を5桁設定するダイヤル式の南京錠みたいなものを作ってくれればいい。数字をセットしてスイッチを押す。数字があっていたら扉が開いて、間違っていたらペナルティという仕掛けをよろしく頼む」


「わかりました!」


「そして、扉にはのぞき窓もつけてもらう。暗証番号を解読しなくても部屋の中が見れるように。そして、扉にはこんな記号を描いてね」


 そう言いながら、俺はるいに扉に描くメッセージを地面に描きながら説明する。これでいい。怪しげな形をした洋館。暗号式の鍵。これこそ本格ミステリーだ。


「いい感じに進んでますね、アラタ様」


 心なしかかい子も嬉しそうだ。ここで今作られている十六角館を舞台に、現代で俺が恨みぬいているサッカー部の三人組が殺されてサッカー部顧問の教師に罪をなすり付けられると思うと考えただけでぞくぞくしてくる。


        

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