第2話十六角館建設・其の1
『耐えがたきを耐え、しのびがたきをしのび……』
「なんてことだ。わが大日本帝国が敗北するとは……」
かい子の言う通りに、どこかの島にタイムスリップしてみたらなにやら打ちひしがれている軍人さんが嘆いている。ラヂオからどこかで聞いたことがある音声が聞こえてくる。これは玉音放送だな。今まさに敗戦が決定したのか。
「ひ! なんだお前は。そんな0敵性国家の服装なんかして」
軍人さんが俺の服装を見て驚いている。何十年も引きこもり続けた俺の服装は無地の白いTシャツにジーンズ。戦時中ならば間違いなくスパイとして特高警察にしょっぴかれる服装だ。しかし日本の敗戦が決定した今となっては軍人さんにとって俺の姿はさぞや恐ろしく見えることだろう。
「いや、敵性国家なんてとんでもありませんでした。どうかあわれな負け犬であるわたくしめをお許しください。そうだ、この島には女がたくさんおります。好きな相手をお選びください。それでここはひとつ……わたくしめ以外の男は全員特攻させましたが女は大勢残っております」
なるほど。軍人と言うことで戦時中は威張り散らして『お国のために』なんて言い放って男を死地に追いやった様子が目に浮かぶ。それが日本が負けたとなったらこの有り様。世が世なら教師として生徒に威張り散らしていたこと間違いなしだな。
「好きな相手を選んでいいのか。じゃああんた」
そう言って俺は軍人さんを指さした。軍人さんはわけがわからないと言った表情で後ろを振り向く。後ろには誰もいませんよ。俺が指さしたのは軍人さん、あんたです。
「アラタ様って男派なんですか?」
かい子が不思議そうな表情で質問してくるが断じて違う。俺にそのけはない。だが……
「かい子ってさ、ミステリーの女神なんだろ。だったらBLの女神とか知り合いにいない?」
「そりゃあいますよ、アラタ様」
「じゃあ、そのBLの女神は軍人と言う立場を利用してほかの男を特攻させただけでなく、自分が生き残るためには女を犠牲にするような卑劣な日本軍人がマッチョな白人兵士に犯されるなんてシチュエーションはお好みかな」
「大好物だと思います、アラタ様」
「じゃあ、ひとつそのBLの女神にこの軍人さんを差し出してよ」
この軍人さんは初対面だが、さんざん軍人と言う立場を利用して威張り散らしてきた人間が男のなぐさみものにされると言うのは悪くない。
「わかりました、アラタ様」
かい子はそう言うと、どこかのだれかとテレパシーか何かで話し出した。すると怪しげなゲートが出現して、そこからかい子とは別の女神が目を血走らせて出現した。
「どこなの? 自国を負かされたかつての敵国の人間に女を差し出して自分だけ助かろうとした男のくずは?」
そう質問されて、俺とかい子は同時に軍人を指さす。
「こいつが女を食い物にする女の敵ね。そんな男は自分が侵されてしまえばいいんだわ」
そう言うとBLの女神は軍人さんを怪しげなゲートの向こうに連れていこうとする。
「そんな……なにとぞお助けを」
許しを願う軍人さんに俺はアドバイスをしてやることにした。
「その、軍人さん。いくらなんでも言葉もわからない鬼畜米英に犯されるのはあんまりだろうからさ。同じ日本人のよしみとしてコミュニケーションの仕方ぐらいは教えてあげるよ。とりあえず『キスマイアズ』って言っておけばなんとかなるだろうからさ」
「『キスマイアズ』と言えばいいんですね」
軍人さんはそんな悲痛な言葉を残してゲートの向こうにBLの女神といっしょに消えていった。
「アラタ様。『キスマイアズ』って……」
「直訳すると『俺のケツをなめな』ってことになるかな。ニュアンス的には『このおかま野郎』って感じかなあ」
「アラタ様。マッチョなアメリカ軍人がそんなことを言われたら……」
「『ファッキンジャップ』と激怒すること間違いなしだな」
かい子が気の毒そうな顔をするが、俺は言ってやる。
「しかしそうならない可能性もあるかもしれない」
「アラタ様、と言いますと」
「あの軍人さんがガチホモの相手をすることになったら、『キスマイアズ』は『僕ちゃんといいことをしましょう』と解釈される可能性がある」
「はあ……」
まあ、どちらにしてもあの軍人さんのお尻の穴がたいへんなことになるのは明らかだろうが。
「それはそうとアラタ様。あちらの女性陣に館建設をさせようと思うのですが……」
かい子に言われてみると、いきなり現れた変な格好をした男に我が身を差し出さなければならないとおびえている女の子の集団がいる。同じ日本人だろうから言葉は通じるだろうが……下手なことを言って隠し持った手りゅう弾で『生きて虜囚の辱めを受けず』なんて自決されてもかなわない。
「かい子、約束通り衣食住を頼む」
「了解しました、アラタ様」
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