十六角館の殺人
@rakugohanakosan
第1話プロローグ
『古臭い。展開がわざとらしい』
『今どき無名の新人作家が書いた本格ミステリーを誰が読むと言うのか』
『平成はおろか昭和にタイムスリップしたほうがいいんじゃないか』
『トリックがいいかげん。あらを見つけないほうが無理なレベル』
『話の展開としてスマホを使えなくするのはいいが、その理由が強引すぎる』
『文章が稚拙。本格を自称するのなら少しは勉強してはどうか』
くそ。どいつもこいつも好き放題書きやがって。人がせっかく投稿サイトにアップしたミステリーを。だいたい俺は怪しげな豪邸で繰り広げられる昔ながらのミステリーが好きなんだ。
それなのに、最近はスマホやらなんやらの現代ガジェットを使ったミステリーばかり。そんなものに飽き飽きして小説を自作したらこのありさまだ。もう本格ミステリーなんて時代じゃないのか。
「本当ですよねえ。わたしは吹雪の雪山のペンションとか、嵐に襲われた無人島の別荘とかって言った外界から閉ざされた中で一人また一人と殺されてゆくのが好きなのに。スマホなんてものがあっちゃあ台無しですよ」
うんうん、そうだとも……
「誰だ、おまえ。人の部屋に勝手に入り込んで」
「わたしは本格ミステリーの女神です。最近のミステリーの事情を嘆いていたところ、あなたの作品をお見掛けしてこうして参上したわけです」
女神ねえ。言われてみれば、空中を浮遊してたりしてる。普通の人間ではなさそうだ。
「あなたの作中に最新テクノロジーをまったく取り入れようとしない作品に興味を持ちまして。なるほど、なるほど。見たところ20年……いや、へたすると30年は引きこもってそうですね。これなら作風が流行から取り残されているのも納得ですね」
「黙れ。人の傷口をえぐらないでもらいたい。それで、その本格ミステリーの女神様は俺に何をしてくれるんだ。俺の作品をステマしてベストセラーにでもしてくれるというのか」
「そんなミステリーを冒涜するようなことしませんよ。あつかましいこと言わないでもらえますか」
くそ、だったら何をしに来たんだ。この女神様とやらは。
「まずはですね、太平洋戦争の末に日本の敗戦濃厚となって島の人間全員が自決した島にタイムスリップしてそこの人間を生存させてもらいます。ああ、ご心配なく。衣食住はすべてわたしが面倒見ます。そしてその島にミステリーの舞台となるトリックのための仕掛けがされた館を島民に作ってもらいます」
「そんなことをしたらタイムパラドックスが……」
本来なら過去に死ぬ人間を生存させたら、現在にどんな影響が及ぶかわからない。だからこそ創作で過去へのタイムスリップものが廃れて異世界ものが流行したのに何を言っているんだこの女神様は。
「問題ありませんよ。どうせ生き残った島の人間全員にずっと島にいてもらいますから。国境問題とか自然保護や原住民の文化の尊重と言った理由で外界から隔離され続けることになる島を見つけておきました」
死んでいたはずの人間たちが一切外部とかかわりを持たずに生存する。それなら、タイムパラドックスはおこらない……のか?
「で、それだけ引きこもっているからにはとにかく恨みつらみを重ねている人間の一人や二人はいるんでしょう? 引きこもっている間に憎しみをエスカレートさせてる相手が」
「そりゃあいるよ。中学2年生の頃に『お前のせいで今日の体育ののサッカー負けたんだぞ。ヘディングの特訓だ』なんて言ってカバンを俺の頭にぶつけて来たサッカー部の三人組が。そのカバンに魔法瓶が入っていたから俺は大けがしたんだ」
「そんなことされたんですか。そりゃあその三人組を殺したいですよねえ」
当然だ。思い出しただけでむかむかしてくる。
「それだけじゃない。当然その時に騒ぎになったが『おまえがとろいからいけないんだ』なんていって事件をもみ消したサッカー部に顧問も憎たらしい。殺すだけでも飽き足らないくらいだ」
「それではそのサッカー部顧問を犯人に仕立て上げましょうか。あなたを大けがさせた三人組を被害者にして。館のそこでなら犯行を行えるという部屋にサッカー部顧問を泊まらせて、あなたがこっそり三人組を順番に殺す。そしてサッカー部顧問に冤罪を着せると」
「俺が三人組を殺すのか?」
「いやですか?」
いやではないけれども……
「できるかなあ。だいたい、実行犯が俺になると言うのなら、どこぞの名探偵に俺が犯人としてして糾弾されかねないじゃないか」
「それなら大丈夫ですよ。ヘディングの練習の時の大けがを、あなたが死亡する事件にしちゃえばいいんです」
「物騒なことを言うなあ、女神様。中学2年生の時に俺が殺されると言うのなら、誰が現在三人組を殺すんだ」
「もちろんあなたですよ」
???
「中2の時にあなたが死ぬ。そしてこのあたしみたいなふわふわした存在になって現在の島の館で三人組を殺すんです。それなら犯人にされる心配もないでしょう。どうせずっと引きこもってたんですから、中2の時点であなたが死んでもタイムパラドックスも起こらないでしょうし」
なるほど。くやしいが一理ある。俺が中2の時点で死んでいたとしたら……なにも変わらないだろうな。中学は公立だったから死亡事故が起こっても教師はほかの学校に移動になっておしまいだろうし。三人組は『ちょっと小突いただけで死んじまってよ』なんて武勇伝のように話すだけだろう。
結局、新聞にちょっとした記事が載っておしまいだな。公務員教師に未成年のペアとなれば実名報道もされないだろうし。
「ちなみにそのトリックのための仕掛けってのはどんなものなの、女神様?」
「三人分必要ですね。となると……どんなものが思いつきますか?」
「こんなのはどうかな」
「ほほう。いいじゃないですか。引きこもってゲームばっかりやってた人間ならではのものですね」
「舞台は館をタイムスリップして作る。被害者も犯人も用意できた。で、探偵役はどうするんだ女神様。俺は事件発生時にはあんたみたいなふわふわした存在になっているんだろう」
「それはわたしがやりますよ」
お、ふわふわしていた女神さまが実体化した。これなら探偵役もつとまるか。
「そうですね……この姿でのわたしの名前は
「
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