第9話 追いかける熊はそこにはいない


◆◇


 アイリオスを目指す道中、並び立って歩いてみて初めて気がついたのだけれど、フリュエは私たちの中で一番大きい。ちんまりとしたクロはともかく、160センチ以上ある私が大きいと感じるくらい、フリュエは背が高かった。もしかして180近くあるのではなかろうか。

ㅤそしてローブのせいで気がつかなかったというか、さすがの私でも観察する余裕が無かったというか。その身長の長さに伴って、フリュエの手足はすらりと長く、若干痩せすぎなきらいはあるものの、まるでモデルのようにしなやかで整った身体つきをしている。


「あ、ええと、私、まだまだ未熟な魔術師見習いでして……魔術を志す人間は大概が引きこもりがちなので、痩せてるのはよくある事なんです。そこにうちの家系の背が高い、っていう遺伝が合わさってこんなことに」

「羨ましいけどなあ、背が高いって」


ㅤクロが私の腰を軽く叩いた。


「あんた今あたしの方見て言わなかった?」

「いたた。い、言ってないって!」


ㅤコントを繰り広げる私達の方を見て、フリュエはくすくすと笑っていた。先ほどまでは熊に追われていたためか涙ぐんでいたけれど、もうすっかり調子を取り戻したように見える。


「お二人は仲が良いんですね」

「ストーカーなのよ。トーカは。出会って間もないのに可愛いだかなんだか言って、あたしを助けようと厄介事に首を突っ込むし、かと思えばあたしをこき使うし……」

「ふふ。でもクロさん、全然嫌そうじゃないです。むしろとっても嬉しそう」

「…………」


ㅤおっと。図星だったのか、クロは若干顔を赤らめて黙ってしまった。かわいい。彼女は口が悪い時がほとんどな皮肉屋だけれど、反面素直な時はとことん素直だ。


「そういえば……私、そういう分野に明るくないんだけど、フリュエが使う魔術っていうのは、魔力を使ってなんやかんややるやつ、で合ってる?」

「はい。体の奥底に眠る生命エネルギー、通称、魔力を使って、神秘なる現象を呼び起こす、というのが魔術です」

「神秘なる……」

「えっと……例えば人間というものは、素手だけでは火を起こす事は出来ませんよね。なので、火種のない所に突然火を起こすという神秘を成すためには、外部の手段が必要になります。その手段として考案されたものが、魔術と呼ばれるものなんです」


ㅤ神秘なる現象を呼び起こす。言葉だけ聞けば壮大なものに感じるかもしれないけれど、言うなれば不可能を可能にする、便利な道具のようなものだ。現代人に当て嵌めると、火を起こしたいからマッチを擦る。魔術というものは、それを魔力を用いて実現できる手段。

 なんだかワクワクする話だ。魔法や魔術、という呼び分けについてはよくわからないけれど、それが現実味を帯びていなかった世界で生きてきた人間としては、どうしたって憧れる。魔法使いになってみたい。誰もがきっと、そう思うだろう。


「でも、魔力というものは先程言った通り生命エネルギーなので、あまりに多用すると当然疲れますし、度を超えた行使は命にも関わります」

「便利なものも使いすぎは厳禁ってことだ……」

「しかしそこで、魔術師達が知恵を絞って発明したものがあるんですよ!」


ㅤフリュエの目の色が変わった気がする。彼女は瞳を爛々と輝かせ、先ほど熊を光の彼方へ消し去った物騒な手甲を嵌めた右手を、見せびらかすように掲げた。途端に早口になる。


「これはフリュアステリズムと勝手に名前を付けてかわいがっているものなんですが、正式名称は魔術補助手甲と言いまして、着けているだけで着用者の魔力を蓄積し、既定の動作をする事で任意の魔術発動までの手順を省略可能というすごいものなんですよ!既定の動作といっても簡単で、起動詠唱さえすればあとは準備状態に……」


ㅤそこまでまくし立てて、フリュエは突如我に帰ったかのようにハッとする。いや、いいと思うよ。好きなものにそれだけ熱くなるなんて、なかなか出来ない。望んでいない熱意をあてられると、それを疎ましく思う人間もいるけれど、あらゆる事が長続きしなかった挙げ句、これといった趣味を持てなかった人間からすれば羨ましい事この上ない。人に迷惑をかけない限り、何かに対する情熱を抱き続けるのは人生において大事な事だと思う。人が生きるための原動力になるのは情熱であり、それを失ってしまった場合、あとに残るのは惰性の日々だけだ。

 ぐう。

 唐突に、誰かのお腹が空腹の合図を鳴らす。確かに頭は使ったけれど、私じゃない。フリュエでもない。ということは、クロだ。彼女はお腹をさすりながら、こっちを見た。


「……トーカ、喉が乾いたわ。もう何か残ってない?」

「あ、それならさっき拾っといた果実から作ったジュースが」


 こんな事もあろうかと、先程崖上で辺りの石や木片をかき集めていた際に、腐ってなさそうな果実もぱぱっと集めておいたのが功を奏した。私は所持枠インベントリにある果実を頭でイメージすると、瞬間作成インスタントクラフトでジュースを作り、取り出して彼女に渡す。

 あ、そういえばこの能力について、フリュエに説明していなかったな。案の定彼女は目を丸くして、たった今巻き起こった神秘にただただ驚いて口をぱくぱくさせている。


「そ、そそ、それは何ですか!?それは魔術じゃないんですか?!」


 考えてみれば、例えば詠唱なり気持ちを集中させるなりの手順を踏む必要があるであろう魔術に対して、機能メニューの力はインチキと言われても仕方がない。なにせ、手に持てるものならなんでも収納できるし、料理や道具の作成も寝転がりながらだってぱぱっと出来る。心血を注いで魔術の研究をしてきたであろうあらゆる魔術師達を侮辱していてもおかしくないものかもしれない。

 そんな能力を持っておいて魔術に明るくないなんて抜かしやがって、とフリュエにビンタされても文句は言えないな。

 勝手に冷や汗をたらりとかく私を放っておいて、クロはジュースをズズズと啜り呑気な顔をしていた。


「何って、インチキ能力よ。荷が重すぎるもの以外は保管できて、材料とレシピさえあればなんでも作れる便利な力。あんたも喉が乾いてるなら、もらうといいわ。ジュース」

「そうでなくって!」


 少し先を歩いていたはずのフリュエが、まるで瞬間移動したように距離を詰めてくる。なんて恐ろしいスピードだ。まったく見えなかったどころか、残像さえ発生していた気がする。どうもこの子は魔術やそれに付随する技術に対する関心が強く、好奇心を燃料にとてつもないポテンシャルを発揮するらしい。目だって、爛々と輝きっぱなしだ。小宇宙が広がっている。


「す、す、素晴らしい能力をお持ちじゃないですか!星導魔術専攻に通っていた私が魔術全般について語るのはあまりにおこがましいですが、それほどまでの機能性と洗練された接続構造は、大変興味をそそられます……!」


 視線でクロに助けを求める。


「……何言ってるか、わかる?」

「わかんない」


 その時だった。


 ドオオン。


 今度はどこからか聞こえてきた爆音が耳をつんざき、突き飛ばすような突風が辺りをかき乱して、一目散に駆け抜けていく。無意識にそうしたんだろう、クロが私の背を押して屈ませ、前に立って守るようにして音がした方角を睨んでいる。やだ、かっこいい。フリュエは身を縮こませ、その場にうずくまっていた。

 地面が小刻みに揺れている。先程の爆音は予兆か何かで、地震が起こったのかと思ったけれどそうではなく、揺れは即座に収まり、慌てた鳥たちがこんな所にいられるか、と飛び立っていく音が聞こえた。それから間を置かずして、今度は続けざまに二発。何かが爆発するような音だ。素っ頓狂な誰かが火薬を炸裂させたにしては、あまりにも音が大きすぎる。雷が近くに落ちた時よりも、さらに大きく、うるさい音。私は思わず目を瞑り、耳を塞ぐ。

 そうして謎の爆音に身構え、静かにしている事約一分。騒々しさに見舞われた街道は再び静寂を取り戻したのだろうか、私はクロに肩を叩かれて目を見開くと、鼻息を荒くして立ち上がる。

 フリュエはまだ怯え、屈んだままでいるけれど、しかし両目はしっかりと開かれていた。

 私はまだ少し耳に残る残響にくらくらしながら、勇ましい顔つきで警戒しているクロに声をかける。


「今の爆音は何?何かが爆発したような」

「さあね……わからないけれど、そういえばフリュエ、あんたさっき、変調域?がどうのって、言ったわよね」


 フリュエはぷるぷると身体を震わせている。


「はいぃ……い、言いました、けどお」

「糖分を摂取したら頭が冴えて、少しだけど思い出したわ。変調域っていうのは、この世界における気象やその地域で起こりうる現象から区分される、一年を通して変わりゆく時節の名称、その内の一つ。そしてそれらを纏めた総称として、四辺域と呼ばれる……」


 時節、つまりは季節の事だ。天候や日照時間によって区分される、春夏秋冬。雪が溶け、暖かくなってくれば春が来たと言い、陽が長くなり平均気温が高くなると夏が来たと言う。それをこの世界では例えば、変調域、と変わった呼び方をするんだろうか。

 そういえばフリュエは出会ったばかりの時、健常域の内に通りたかったが変調域に入ってしまった、という言い方をしていた。その口ぶりから察するに、健常域という季節の時は旅がしやすく、変調域になってしまうと困難になる、という事だろう。これは推測だけれど、彼女が熊に襲われていたのが、変調域というものに入ってしまった影響だったのだとすれば。


「し、四辺域は、その地域の環境の変化を言い表し、わかりやすくするためのものです。人に生命エネルギーが宿っているように、大地にもまた膨大な生命エネルギーが満ちていて、それがうまく循環する事で、森や川、海や火山等の自然環境と、そこに生きる生物たちの命が潤う。ですが、その循環の中に微量ながらズレが存在し、一年を通して溜まっていくと、次第にそこにいるべきでない生物や、起こるべきでない現象をも活性化させてしまう……四辺域は順を追って、覚醒域、健常域、変調域、そして絶息域と呼ばれます」


 ちょっと待って欲しい。頭が混乱する。整理しないと。ええと、四辺域というのは、つまり四つの季節ということだ。そしてその四つの域は、覚醒域、健常域、変調域、絶息域、と春夏秋冬のように段階を経ていく。いるべきでなく起こるべきでないものを活性化させてしまう、という情報の詳細はこの際ともかくとして、先程言葉として挙げられたのは変調域。つまり、今私達がいるこの場は、段階として三つめの域にある。あれ、それってだいぶ進んでるよね、段階。

 私の頬を、汗が一滴、伝っていった。これは緊張の汗。気づきたくない事にうっかり気づいてしまった時に掻いてしまうような。私は一度ごくりと生唾を飲んで、クロとフリュエを順に見た。


「ええと、難しい事はよくわかんないけど……つまりさっきの爆発音は、その起こるべきでない現象……とか、いるべきでない生物……とかが引き起こしたものかもしれないって事……?」

「……さすが、察しはいいわね」


 私達の頭上に、突然巨大な傘でも開いたろうか。不意に何かが大きな影を落とし、辺りが突然暗くなる。私は身体を動かさず、目玉だけ動かして見える限りに頭上を仰ぎ見た。

 何かがいる。大きな、大きな大きな何かが。全高は街道沿いに植えてある木々より遥かに高く、それが何なのかはまったくわからない。よく見えないからだ。しかしとてつもなく大きい事はわかる。身体を動かすとその大きな何かに気づかれて、丸呑みにされてしまうのではないかと想像してしまい、迂闊に動けない。というかさっきまではなかったじゃないか。突然地面から大岩でも生えたっていうのか。私達はアイリオスという見たことのない町を目指して呑気に会話しながら歩いていただけだっていうのに。

 のんびり旅ができないかもしれないにしたって、突飛すぎるだろう。かみさまめ。


「え、ええと……先程の問いに答えるとするならば……」

「するならば……?」

「正解です」


 頭上をしっかりと見上げていたクロの瞳と、私達に影を落とした何かの表面に浮き上がった、眼球らしい何かの視線が、合った。

 クロは私達の方へと即座に振り向いて。


「走って!早く!」


 急ぎ、私達に全速力で街道を走り抜けるよう声を荒げた。



◇◆


ㅤ私達は出来るだけ早く手足を動かして、脱兎のごとく逃げ出した。これは明日、筋肉痛になること間違いない。既に手足が痛い。あれ、私達休みたいんじゃなかったっけ。なんで走っているんだろう。

ㅤそして結局巨大な何かが何なのか、一瞬見上げただけでは分からなかった。しかし眼球があったということは、生き物という可能性はある。生き物ならその存在感をちゃんと発揮してください。どうしたって、さっきまで街道にその姿は見えなかったはずなのに。

ㅤ背後を振り返る余裕はないけれど、何かが地面を踏み荒らしているような、ズシン、ズシンという音が絶えず聞こえてくるので、私たちが追われているのは間違いない。

 フリュエが器用にも走りながら話し始めた。舌を噛まないようにね。


「ここ、これは魔術師にとっての通説なん、ですが、この世界は私たちが住む層と、ああいった、この世のものとは思えないものが生きる層の二層構造になっていると言われている、んですね」


ㅤこの世とあの世の関係みたいな。生きている人間と、死んでいる人間では存在する層、つまりレイヤーが違う。いや、それが本当かなんて事は、霊感のない私にはどう足掻こうがわかるわけがないけれど、理解するためのイメージとしてはそんな感じだと思う。

ㅤということはもしかして。四辺域は段階が進むに連れ、二つの層が次第に寄っていって、別々のものだったのが、一つになってしまう。そういう事だろうか。


「合ってます!いや、というか、魔術師達の間ではそう言われているだけですけどね!めが、女神信奉している啓蒙な信者達は、それを女神や、天使の与えたもうた試練だって、言いますが」

「宗教、かあ……」


ㅤ正直人が何を信じようが自由であるし、解明できない事を何かに当てはめて理解しようとするのも分かる。しかしそういった多解釈の話があるということは、四辺域が何であるかなんて、この世界の人たちでも解明できていないんだろう。


「仮に、あれが変調域、に入って現れた化け物だとして、じゃあ後は、どうなるの?!」


ㅤフリュエは顔をひきつらせる。


「いち、一年の最後に来る絶息域……ほんの一ヶ月くらい、ですけれど、それを乗り越えれば、一年の締めくくりとして、かく、各地で忘年祭と新年祭が執り行われ、ます。それを行うと、なぜか変調域から出没し始める者達は……消えていくんです。そうして、新しい一年の始まりとしての、覚醒域がやってきます」

「消えていく、ね……」


ㅤクロが感慨深げに呟いた。あれ、私もフリュエも息が上がりっぱなしなのに、クロだけなんてことはなく、かなり走っているけれど顔色ひとつ変わっていない。


「でも、ぜっ、絶息域が来ない、地域もあります!そういうとこ、ところはぁ!変調域止まりで、で、暦通りに忘年祭をぉ、行います。あ、この辺りは絶息域、ないみたいぃ、ですよおぉ……あ、私、もうだめかもです……」

「頑張って!フリュエ!」


ㅤ先導するように前を走っていたクロが、不意に前方を指差した。


「アレ!」


ㅤ地面を平坦にならした街道の先、道の向こうに、黒い何かが見えてくる。


「もしかして、あれが……アイリオス!?」

「はぇっ?ああ、そ、そうでうす!」


ㅤフリュエはもうかなりふにゃふにゃだ。

ㅤ私達の向かう先。この街道の終わりに、地面を横断するように重く立ち塞がる鉄塊のような建物が置いてある。なるほど、鎧籠とは言い得て妙で、何重にも張り巡らされた鉄柵と、複雑に積み重ねられた鉄板の防壁は、そう呼ぶに相応しい、あらゆる外敵に屈しないという強い意志と、強剛さを感じる。

ㅤこれがアイリオスという町、なのだとすると、どこから入るんだろう。後ろからは絶えず足音がする。当然私達には体力というものがあり、永遠に走り続ける事はできないので、なんとかしてこの町に入るしか無事に生き残る方法はない。

ㅤ入口がどこにあるのか掴みあぐねていると、アイリオスの外壁の一部がぱかりと開いて、頭に赤いバンダナを巻いた、茶髪の青年が声をかけてきた。


「お前ら、そのまままっすぐ走れ!」


ㅤまっすぐ走っていいらしい。有難い話だ。これで反対側に周れとか、大きくジャンプしろと言われでもしたら、そこでがむしゃらに走る私の足が絶望に動きを止めてもおかしくない。

ㅤ青年の指示に呼応するように、私達から向かって正面にあたる部分の柵と鉄板が重苦しい音を立てて横にずれて、外壁にトンネルのような入口が現れた。中から灰色の鎧を着込み、槍やら銃のようなもので武装した人達が数人姿を現し、手招く。


「頑張れ!」

「もう少しよ!」

「この時期に何をそんな格好でうろついてるんだ!アホ!」

「早くして!」


ㅤん?

ㅤ罵倒されたような気がしたのはともかくとして、私達三人は全速力でその入口めがけ駆けていく。しかしそこでフリュエが躓いて、盛大に前のめりに転がった。


「フリュエ!」

「ぐぇ……ごめ、ごめんなさい、もう、足が……熊に追われていたので……」


ㅤまずい。このままだとフリュエだけ置いていってしまう。それはよくない。クロが私の腕を掴んだ。


「あいつの背中の荷物、収納しなさい!」

「え?でも」

「でもじゃない!早く!出来る限りでいいから!」


ㅤ私は所持枠インベントリの残りの容量を確認する。今収納されているのは、先程拾い集めた石とか、そういうものばかりだ。しかしフリュエが背負っているリュックは結構ぱんぱんなので、うまく収まらない可能性がある。中身に何が詰まっているか、プライバシーの問題だってあるだろうし。

ㅤしかし今は迷っている時間なんかない。私はフリュエのリュックに手を添える。すると意外な事に、リュックがまるまる一個、私の所持枠インベントリに収まってしまった。


【フリュエのリュック】

ㅤ中に何やらいっぱい詰まったリュック。ぱんぱんなので重そうに見えるけれど、軽量化した魔導具や、大量の冊子と衣類くらいなので、実はあんまり重くない。


ㅤびっくりした。あんまり重くないのか、このリュック。


「オーケー、トーカは自分の足であそこまで走って!」

「わた、わたしは……」


ㅤ泣きべそをかくフリュエの背中を、クロがむんずと両手で掴む。そして一度にっこり微笑み怒った。


「歯、食いしばって」

「え?」


ㅤそうしてフリュエを持ち上げ、振りかぶると、アイリオスの入り口めがけぶん投げる。


「えっ、ちょっ、ちょっと待ってくださぁぁぁあああああい!!!」


ㅤ驚くアイリオスの人たち。そりゃそうだ。小柄な少女が物理法則などなんのその、軽々しく長身の女性を放り投げる。信じられないだろう。無論、私も信じられません。

ㅤまず私がアイリオスの入り口に飛び込む形で通過、続いて戸惑うアイリオスの人たちにぶつかる形で受け止められたフリュエが通過、最後に風のように駆け抜けてきたクロが通過した。


「よし!牽制の照明弾!」


ㅤ頭上から聞こえる青年の声に従い、武装した一人が銃のような、小型の箱に長筒を取り付けたような武器を片膝をついて外へ向かって構え、内側に取り付けられている引き金を引く。

ㅤ軽い発砲音が響き、筒から丸い弾丸が飛び出して、激しい閃光が辺りを包み込んだ。



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