第3話 肉、皮、角


◆◇


 私達二人は、クロが先頭を務める形で彼女が来た方角と真逆へ歩き始めた。陽はまだ高く昇っていて、森の中はやたらと明るい。そこら中に生えているガデン樹の葉は切り紙細工の模様のような形状をしていて、陽の光をよく通すので、特に日差しが強いところでは地面に見事な模様が出来ている。

 道中、クロの後をついていきながら、私の能力、機能メニューについて詳しいところを教えておいた。作りたいものがすぐ作れるとはいっても、レシピがしっかりしていないと作れないし、材料が足りなくても作れない。そして、レシピは私の想像力にかかっている。

 その話を聞いて、クロは私にこう言った。


「だったら、とびきり美味しい料理が作れるようにあんたには学んでもらわないと」


 それについては私も思うところで、食材をただ焼いたりするだけではなく、もっと凝った料理に変えるためには、私が学ばないといけない。想像の材料たる調理方法を覚える必要があるというわけだ。そういえば昔何かで、料理は科学と聞いた事がある。料理は化学反応の応用で、調理は実験と等しく、仕組みを頭で理解して、決まった手順を踏めば決まった結果が帰ってくる。

 つまり、肉は焼けば白くなり、イカは焼けば赤くなる、みたいなことかな。そういったどんな食材をどうすればどうなる、という知識を蓄えていけば、出来る料理も増えていくということだ。なんだかワクワクしてきた。

 ちなみにクロに料理について聞いてみたけれど、彼女も普段やらないのか、焼くか生で食べる以外の調理方法を知らなかった。同レベルだね。私達。


「あまりもたもたしていられないわ。とりあえず、テツノジカを見つけましょ」


 クロはずいぶんと身軽で、密集した木々の隙間もすいすいと通り抜けていく。彼女が幾つなのかはわからないけれど、息などひとつもあがっていないところを見るに、アラサーな私とはやはり体力や運動能力にだいぶ差があるように思える。なにせ私ときたら、ゆるい坂道や太い木の根を乗り越えるだけで、息があがりっぱなしだからだ。しかしこれでも歩けているほうだと思う。普段なら、通勤するだけで一日分の運動をした気になっていた。

 歩き続けているうちに、へばっている私の様子を見たクロに笑われてしまった。


「そもそも、歩き方がよくないわ。腰が曲がったまま歩いているから身体に負担がかかって、余計に疲れるのよ」


 確かに彼女の歩き方は自然に馴染んでいるかのようにスムーズで、障害物などものともしない。時折全身を蛇のようにしなやかに動かしては木の上にひょいと登って、辺りの地形を見渡したりしていた。

 何度目かの木登りの後、枝を伝ってするすると降りてきた彼女は、嬉しそうに口を開く。


「見つけたわよ」

「シカ?」

「そう」


ㅤ彼女が指差す方へ、二人で駆けていく。二人ともお腹がぺこぺこだった。見つかってしまったシカには悪いけれど、美味しいお肉にありつけるなら、これ以上のことはない。

ㅤある程度進んだところでクロがピタリと走るのをやめ、声を潜めて奥を指差した。森のややひらけたところに、地面に落ちた木の実を食んでいる鉄のような角を持つ鹿、テツノジカがいる。よく考えれば、あまりにそのままストレートな名前だ。シカの体高は一メートル半くらいあるだろうか。そんなに大きくないように思える。


「あのナイフ、出せる?」

「まだ必要?」

「一本じゃだめね。脆すぎる。あの大きさなら、最低でも三本はあるといいかも」


ㅤ私はここに来るまでの間、そこらに落ちているナイフの材料を拾っておいた。なので材料の在庫は潤沢だ。いくらでも、はちょっと言い過ぎかもしれないけれど、十本くらい作り出すのはわけない。

ㅤ私は手のひらでぱぱっとナイフを四本作り出して、クロに手渡す。クロは感心した様子でこちらを見ていた。


「はぁ……便利ね、その力。本当に材料さえあれば作れちゃうんだ。それに、物を運ぶのだってわけないし……あたしをあんたの中に隠したりはできないの?」

「私が持てるものならなんでもいけるけど、人は……」


ㅤなんというか、理由はわからないけれど、人を収納しようとしてはいけない気がする。なんだかおぞましい。絶対にやってはいけない事だよ、とかみさまがどこからか言っている気すらする。


「ま、無理か。人の中に人が入るなんて、なんか気持ち悪いしね。そんじゃ、そこで見てなさい。すぐ終わるから。あ、変な音は立てないように」

「了解」


ㅤ私は手のひらでぱっと口を覆った。

ㅤクロは一度頷くと、器用にもそれぞれの手にナイフを二本ずつ逆手持ちし、姿勢を低くして音を立てずにシカへ近づいていく。その姿勢の低さったら、胸元が地面についてしまいそうだ。うまく身体を折り曲げて、地面にへばりつくような体勢で歩いている。シカはちょうど向こう側を向いていて、彼女が近づくのに気づいていない。

ㅤというか私は気づいてしまったのだけれど、今の私がいるこの位置は、とんでもないアングルだ。自然と同化し身をかがめて進んで行くクロの後ろ姿は、なんというか、大変色々よろしくない。ハイレグの服を着た少女がしゃがんでいるのを後ろから見たときどのような光景が広がっているか、各人の想像力にお任せしたいと思う。

ㅤうっかり鼻血を出しそうになっている私はともかく、真剣な面持ちでシカに近づいていくクロは、いよいよ数歩のところまでたどり着いていた。シカはまだ気づいていない。不意打ちするなら今だろう。

ㅤクロは手にしたナイフのうち一本ずつを地面に静かに突き立てると、残る二本をそれぞれ両手に構え、ふっと息を吐いた。


「よいしょ」


ㅤ一瞬だった。クロはまるで蛇のように身をしならせてしなやかに鹿の背に絡みつくと、手にしたナイフを突き立て、引き上げるようにして喉元を切り裂いた。

ㅤあとはまあ、あんまり詳細に述べると気分が悪くなるので、少し省略。

ㅤすぐに動かなくなった鹿を地面に横たえ、壊れたナイフを地面に放り投げる。ナイフは地面に当たるどころか、見事な空中分解を見せた。


「動いていいわよ」


ㅤ血濡れの手をしたクロが、こちらは鼻血で手を汚していた私に呼びかける。


「ナイフ一本で狩れたのはよかったわ。もっと脆いかと思ってたし。これなら、捌くのにあとのを使える……って、あんた大丈夫?」


ㅤ彼女はそう言って、鹿の身体を調べていく。肉を食べるためには、色々やらなければいけないことがある。仕留めた獲物がそもそも食べるに適した状態かどうか、そして血抜きや洗浄、解体も行わなければいけない。毛ほども知識はないけれど、なんというか多分そういうものだ。

ㅤ現実を目の当たりにして、こういった部分はゲームのようではないと気付く。そりゃそうなのだけれど、できればもっと楽な方が良かったというのが正直なところだ。倒した獲物は勝手に素材になるとか、そういう力があればいいのに。

ㅤ私はため息をついて、地面に横たわるシカの死体を恐る恐る指でつついてみた。ほら、何も起こらない。

ㅤと思った次の瞬間、私が触れたシカの一部分が四角形にえぐれ、素材が所持枠インベントリに入った。


——テツノジカの肉、テツノジカの肉、テツノジカの皮。


ㅤ私の脳裏に、そんな文字が浮かんで消えた。


「え?」

「は?」


ㅤクロが何が起こったか理解できないといった面持ちでこちらを見つめている。いや、私だってわからない。思わず見つめ合ってしまう。私の頬だけぽっと紅潮した。

ㅤ私は念のためもう一度、シカの別の部位をつついてみる。またもシカの身体が四角にえぐれて、所持枠インベントリの中身が増えた。


——テツノジカの肉、★テツノジカのモモ肉、テツノジカの皮。


ㅤいや、なんか記号付いてるんですけど。


「あんた今、何したの?」

「いや、自分でもよくわかんなくって……たしかに私の持てるものならなんでも収納できるって触れ込みだったけど」


ㅤ正直なところ、いきなり能力を与えられ、森に放って置かれただけだ。所持枠インベントリ瞬間作成インスタントクラフトもまったく全容を把握できていない。心の成長スピリットラーニングについては、欠片も。

機能メニューが非常に便利で、規格外の能力なのはわかる。世界を俯瞰できる力だとかなんとか。でも、説明くらいはしてくれないと。


「ま、すごい便利だし、いいんじゃない?解体する手間も省けたしね」


ㅤま、いいかあ。


「さっさとシカを分解?して、もっと落ち着ける場所に行きましょ。さっきここから少し離れた位置に、小屋みたいなのが見えたわ。あんたも疲れたでしょ」

「ほんと?助かる」


ㅤ確かに分からないことばかりだけれど、便利なのは違いない。便利なのはいいことだ。それに、分からないことは解き明かし、知らないことは学んでいけばいい。異世界に来て、私はかなりポジティブになっていると思う。

ㅤ私はシカの残る部位を所持枠インベントリに収納し、クロが見たという小屋で休むべく出発した。



◇◆


ㅤいったいなぜこんな森の奥まったところに、小屋があるのだろうか。しかし誰かがここで生活していたのだろう、玄関脇には埃を被った薪が無造作に積まれ、薪割り台になっていたらしき切り株に斧が立てかけられたままになっている。

ㅤふと空を見上げると、あれだけ晴れていたというのに雲行きが怪しく、陽の光が弱まり、辺りはどんどん暗くなっていた。


「思ったより暗くなるのが早い……少し不安だけど、しょうがないわ。この辺りで夜にうろつくのは危険だから、今夜はここで暖をとりましょ」


ㅤクロの提案で、この使われていない小屋で一泊していくことにする。美少女との初宿泊だ。ほんとはもっとくつろげるきちんとした宿屋で、うっかりダブルベッドの部屋をとってしまったりなんかしたかったけれど、仕方ない。

ㅤ後について小屋の中に入ると、使われていないにしてはやけに小綺麗な室内に、白木のテーブルと椅子が置かれ、煤の詰まった暖炉の脇には、所謂ファンタジーに出てくる魔法使いが持っていそうな長杖が放りっぱなしになっている。うわ、なんか振るだけで火球とか飛ばせそう。下手に触らないほうが良さそうだ。

ㅤ私が室内を物色していると、何か考え込んでいるんだろうか、クロが立ち尽くしているのに気がついた。


「どうかした?」

「……ん?ああ、いや。なんでもない。さ、ほら、お腹空いたわ。早くステーキでもなんでも作ってちょうだい」


ㅤ私は頷いて、頭の中で採れたての鹿肉を熱々の鉄板の上に乗せる想像をする。すると訪れる、被写体に対してカメラのピントが合った時のような感覚。スコップなどを作った時にはあんまり感じなかったけれど、これがレシピを会得した証なのかもしれない。

ㅤ私は所持枠インベントリから鹿肉——スーパーで売られているような一枚肉が出てきて驚いた——をイメージの中に取り出すと、ステーキを作った。


ㅤ【テツノジカのステーキ】使用回数:1

ㅤテツノジカの肉をこんがりと焼いた熱々な厚いステーキ。味に少し癖があるが、森の近くで生きる人々には定番の品。香辛料や添え物があればもっと豪華になるかも?


ㅤ添え物。添え物ね。確かにポテトとか、ほしいかも。

ㅤ生の鹿肉はいつのまにか皿に盛られたステーキに早変わり。クロは突然目の前に現れた肉料理に目を丸くして、よだれを垂らし、鼻をヒクヒクさせた。かわいい。


「うわっ……!変な声出た…………見たところ、焼き加減も申し分なさそう。というかこの皿、どっから?」

「さあ……でも、食べ終えると消えるらしいよ」

「ちょっと、本当に便利すぎない?」


ㅤ私が手にしたステーキの皿をクロに渡すと、彼女は素手で勢いよくステーキにかぶりついた。よほどお腹が減っていたのかな。しかし美味しそうに食べるけれど、少食気味な私にはちょっとボリューミーだ。鹿肉がどういった味なのか馴染みがないので、恐る恐る齧ってみる。確かに少し癖はあるようだけれど、空腹のせいもあってか、とても美味しい。

ㅤ二人してステーキにがっつき、あっという間に平らげてしまう。やはり皿は食べ終えると消えてしまった。

ㅤ部屋の床に大の字で寝転がって、クロは満足したように息を吐いた。


「はぁ、美味しかった。やっと満足だわ。これで明日も逃げられる」


ㅤ私はクロの真似をしてとなりに寝転がり、彼女をまじまじと見つめる。やっぱり彼女、なにかを巻いている。横になると余計にわかる。胸のあたりに感じる確かな存在感。

ㅤ私が彼女をすけべな目で見ているのを知ってか知らずか、クロは目を瞑り、呟いた。


「なんか巻き込んじゃったけど、皮も手に入ったし、あんたも満足でしょ?これ以上付き合ってもらう必要ないわ。あたしは明日の朝はやくに此処を出るから、あとはどこへなりとも……そうね、確かこの森を抜けて少し行った所に、旅人が決まって立ち寄る宿場町があったはず。まずはそこへ行って、鹿肉を売るなりして身支度を整えるといいと思う」

ㅤなんだか急に他人行儀だ。いや、他人なのだけれど、彼女から別れ話を切り出されたみたいでしんみりしてしまった。出会ったばかりなのに。


「……あのさ、クロ、一つ、聞いてもいい?」


ㅤクロが身動き一つとらずに答える。


「なに?」

「何に、なんで追われてるかってのは、聞いちゃダメかな」


ㅤクロは少し黙っていた。

ㅤ陽はすでに沈んでいて、辺りはすっかり暗くなっている。私たちは小屋の中にあった古びたランタンに誇りをかぶったマッチ棒のような道具でなんとか小さな火をつけて、明かりが外に漏れないよう、ドアや窓に室内にあった布を貼り付けた。

ㅤランタンの明かりが、すぐ隣に横たわっているクロの横顔を照らし出す。くっきりとした輪郭に浮かんだ唇が艶やかで、思わず息を呑む。


「あたしは……普通の人じゃないの」

「え?」

「うーん、説明するのが難しい、というか……詳しく説明……すると、きっとあんたを、巻き込んでしまう。だから言えない。そもそも人に何かを説明するの、苦手だしね」


ㅤなんだか歯切れが悪い。だから、私もあまり深くは追求しなかった。けれど、大事なことを聞かずにはいられない。


「答えたくなかったら答えなくていいんだけれど、その、追われてるっていうのは、命に関わることなの?」


ㅤクロはしばらく考えていた。そしてようやく言葉を絞り出す。


「……関わる」

「なるほどぉ」


ㅤレオタードにぶかぶかな上着という普通でない格好。そこから察して想像を膨らませると、二パターンが思い浮かぶ。

ㅤ一つは彼女を追いかける何者かにとって、彼女は欠かす事のできないなにかの役割を担っている場合。例えば悪魔でも降臨させる儀式を完遂させるための生贄か、それを執り行うための巫女。それが逃げ出してしまっては、追って捕まえざるを得ない。儀式が出来ないのだから。

ㅤもう一つは、彼女は秘密裏に行われている何かの研究の実験体で、不慮の事故か何かで逃げ出した。秘密裏だったとなると、草の根を分けてでも探し出して、連れ戻さなければならない。情報が漏れてはまずいからだ。

ㅤただこちらの場合となると、命に関わるというからには相当やばい実験をしている事になる。

ㅤどちらもこういった展開にありがちだ。ここはファンタジーの世界。家庭内暴力や虐待から逃げてきた、というわけでもないと思う。いや、そうだったらそれはそれでなかなか面倒だけれど。そもそも法律とかあるのかな、この世界。

ㅤしかしどのような事情があったのだとしても、彼女が美少女であったのが運の尽きだ。いや、なんか聞こえがよくない。美少女じゃないと助けなかったみたいに聞こえる。そうじゃない。

ㅤ私よりよっぽど若い少女が命を狙われているのを、放っておく事などできないという話だ。年上のおせっかいである。


「でも、迷惑をかけるわけにはいかないわ」


ㅤまたもうっかり考えていることが漏れたらしい。さっさとこの癖を直さないとやばい気がする。


「迷惑だなんて……」

「そもそもあんた、作れるのはあんなしょぼいナイフくらいで、武器だって持っていなかったじゃない」

「ぐ………………あ、そうだ。さっきシカから採った角!」


ㅤ私はがばっと起き上がる。所持枠インベントリからテツノジカの角を一本取り出し、手のひらに乗せた。立派な長さと太さを持っている。重量感もある。こんな角に突かれたら、たまったもんじゃない。

ㅤクロが言っていた通り、これをなんとか武器に加工する方法はないだろうか。言い出しっぺの彼女なら、何か知っているかもしれない。


「こういう角ってどういう風に加工するの?」

「うん?ああ……そうね、テツノジカの角は全部鉄じゃなくって、付け根や角の腹なんかに、骨の部分があるの。だから、まずはそこを研ぎ落とす必要がある」

「ふむふむ」


ㅤそれくらいなら、なんとかイメージできる、かな。研ぎ落とすってのは砥石とかそういうもので、削るって事でしょ。いけるいける。


「それでもまだ不純物が混ざってるから、一旦溶かしてそれを取り除いたら、作るものの型に流して鋳造しないと」


ㅤ溶かす。この想像は合っているんだろうか。わからないけれど、何かの図で見たイメージを何度も繰り返し思い浮かべ、脳内で立体的に出力する。ハンマーで鉄を打つ映像。ズブの素人が知識もなしに想像したところで、たかが知れている。しかし。

ㅤここからは、かみさまに与えられた瞬間作成インスタントクラフトの能力を信じるのみだ。シカを素材に加工する便利能力はあるならば、レシピを閃くのも便利であってほしい。

ㅤひたすらにそう願う私に応えるかのように、またもピントが合うような感覚があった。


ㅤ必要:【鉄類】【木材】【蔦類】

ㅤ必要素材だこれ。自分が作りたいもののレシピ、それに用いる素材の必要量が、頭の中に浮かんでくる。

ㅤナイフを作るときは、なんとなしに作っていた。石と枝と蔦があれば出来ると。

ㅤ鉄類、木材、蔦類。これらはつまり、系統名だ。これに属するものならば、品種は問わない。多分、そういうことだと思う。

ㅤ枝は木材にあたるのだろうか。ちょっと心もとない。しかし、鉄類はこの角が、蔦類はガデン樹の蔦がまだある。あとは木材さえなんとかなれば。

ㅤテツノジカの角、拾った枝、ガデン樹の蔦を取り出し、手に乗せる。


「……ダメかぁ」


ㅤなにも起こらない。やはり枝では木材扱いにならないみたいだ。どこかで木材を……そういえば、この小屋の入り口に、使われていない薪があった。

ㅤ私はあまり音を立てないようにドアを開いて、外にあった薪を一本ひっ掴み中に戻った。

ㅤこちらの様子を伺っていたクロに薪を見せる。


「これって、木だよね?」

「どう見ても木だと思うけど……ここで作られた薪なら、ガデン樹じゃない?」

「よしきた」


ㅤ今度こそ、と私は手のひらに乗せた物のうち枝だけを収納し、代わりに薪を乗せた。そして腕にぐっと力を込める。すると。


「わお……!」


ㅤ【ガデン樹の鉄剣】耐久度:C

ㅤ柄の部分にガデン樹が用いられた、軽めだが扱いやすい鉄製の長剣。ガデン樹は表面が滑らかで握りやすいため、様々な道具の部品に広く用いられている。


ㅤ私の手のひらの上に、鉄製の剣が一本出来上がった。



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