第42話 エピローグ

――それから一か月後


「さあ、行きましょう。新しい生活に向けて」

「よ~し」


「どうしたの早く行こうよ」

「先を歩いて」


「変なの」


 真由が俺の前を歩いて行く。そんな姿を、後ろから見つめるのが好きだった。彼女の歩き方は変わらない。前をまっすぐに見つめ、しっかりした足取りで進む。真由が立ち止まり、後ろを振り返る。一年前は睨まれたその瞳が、今では柔らかく俺を見つめている。


「どうしたの、いつまでも……」

「うん」


「何を見てるの、コウ?」

「変わったなあ、と思って」


「私が?」

「俺の方が、かな」


 追いついた俺は、真由の隣に並んで歩く。こんな生活が来るとは、思ってもいなかった。だけど、これが現実なんだ。明日も、明後日も、こんな日々続くと信じられる。


 桜の季節は終わってしまったが、木々の緑が目に眩しい季節に変わっていた。吹く風が肌に心地よい。空の青さや、日の光が眩しい。


「何かが始まる時って、素敵だね。景色も、香りも、風も、柔らかい」

「本当だわ。光も、違って見える」


「どうしてだろう?」

「思いきり感じようとしているから?」


「そうなんだね、今わかった」

「よかったね、今わかって」


 コウと真由は、大学のキャンパスを歩いていた。三年前と同じように、ここから再び新しい生活が始まる。一緒に同じ場所で過ごせると思うと、期待で胸がいっぱいになる。三年前は不安の方が大きかったのに、不思議だ。これからは、どんなことが起きても逃げないで進んでいけそうな気がする。目立ってしまうことを恐れないで、立ち向かっていく勇気が湧いてきそうな気がする。逃げてばかりいた自分に別れを告げることができた、そんな自分の変化が誇らしい。


「髪型……変えたんだね」

「少しだけ髪の毛を切って、ちょっと大人っぽくしたつもり。どうかな?」


「それも素敵だね。だけど、髪の毛を下ろすと、ドキドキする」

「あら、どうして?」


「だって、凄く大人っぽいし……それに、色っぽい」

「あら、あら、コウったら。赤くなってる」


「でも、それもよく似合う」


 見慣れた髪型が変わっただけで、はっとしてしまった。今までの真由じゃないような気がした。いつまでも、同じではないんだ。月日が経ち、真由も俺も変わって行く。当たり前のことなのに、少しだけ怖い。真由だけがどんどん大人になってしまい、自分だけが取り残されてしまうのが怖い。そんな自分は、可笑しいのだろうか。


「コウも私服姿、サマになってるよ。かっこいいよ」

「そうかな。いつもの普段着だよ」


「それでいいのよ。かっこつけないところがいいところ」

「よかった。だけど、これからもう少しおしゃれしようかな」


「まあ、期待してるわ」


くるりと一回転して、ポーズをとる。


「今日は、これでばっちりよ。背伸びしなくても、大丈夫よ」

「安心した……」


 ワンピースを着てお洒落をした真由の隣で、ジーンズにチェックのシャツを着た俺が歩く。その時、春の嵐が吹いた。


「わ~ん! 凄い風! 吹き飛ばされそう!」


 二人とも髪の毛を押さえ、持っていたバッグをしっかりと抱えた。真由のふわふわしたワンピースが……風に揺られて舞い上がり……。腰のあたりまで持ちあがる。


「きゃっ!」

「これで大丈夫」


「あ~~っ、スカートが持ち上がる。誰かに見られる!」

「押さえてるから、心配しないで」


 コウは、真由の体に両手を回し、必死でスカートを押さえる。風なんかに吹き飛ばされてたまるか! ぎゅっと、抑えてスカートが舞い上がらないようにする。


 しばし強風が吹き、そのあとぴたりと風が止んだ。


「やっと、風邪が止んだようね」


 二人は顔を見合わせて笑った。これから何が待ち受けているかわからないが、真由と一緒なら頑張れそうな気がする。ありがとう、真由。そして、これからもよろしく。少し大人になった真由の姿を見ていると、勇気が湧いてくる。


 見えない力が自分をここへ導いてくれたように、背中を押してくれるものは、必要な人のところに降りてくるのだろうか。占いの言葉を信じて、真由に告白した時みたいに……。


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学校一の美少女と付き合う方法 東雲まいか @anzu-ice

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