第41話 出会った場所からもう一度

        🌸 


 それから更に数か月が過ぎ……。学校の前の桜並木道が、ピンク色に染まる季節になった。コウが真由の方に手をかざし、その手を真由がしっかりと掴んだ。


「真由に会ったのはこの場所だった。その日のことを今でも、しっかりと覚えている」

「私は、新しい世界には、どんな人がいるんだろうって、うきうきしてた」


「そうだったんだね。僕の目には、真由はいつも自信に満ちていて、まっすぐに歩いているように見えた」

「そんなことはない。前を向いていると、チョットだけ不安な気持ちを置いてくることができるのよ」


「これからどんな生活が始まるんだろうって、不安が九割、期待が一割ぐらいだった。だから、できるだけ目立たないようにしようって思ってたんだ。真由の姿を見てからは、期待が九割で、不安が一割になった」

「へえ、そうだったの」


 真由は、少し得意げなポーズをとった。


「私は、コウの事全く気がつかなかったわ」

「ずっと同じクラスにいたけど、俺は目立たなかったからな」


「そうね。大人しくて何を考えているんだかわからない人、位に思ってた」

「俺はずっと真由の姿を追いかけてた」


「だからストーカーと勘違いされるのよ」

「そうだった」


  彼女に突然告白してから、真由の生活圏内に俺が無理やり入って行ったんだ。でもうまくいった今だから、それも楽しい思い出になった。あの時手ひどく振られて,

それっきりになっていたかもしれない。


「こんな俺と付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして。私も刺激的で楽しい高校生活を送れた」


「まんざらでもなかったんだね」

「まあ、そう言うこと……かな」


 桜の花びらは風に吹かれてハラハラと舞っている。こんなに美しいと思ったのは初めてだ。もうすぐここを離れなければならないと思うと、たまらなく寂しい。


「コウ、チョット感傷的になってる?」

「うん。高校で一緒に居られて楽しかったから」


「また新しい生活が始まる。一緒にいろいろなことができる。今度は四年間」

「そうだね」


「だから、コウは私と同じ大学に行くって決めたんでしょ」

「まあ、そんなところ。その先のことは分からないけど、同じ場所でまた同じ時間を過ごしたいから」


 桜の花びらが、真由の髪の毛の上にはらはらと舞い落ちた。髪飾りのように、薄いピンク色の花びらが止まった。


「綺麗だなあ」

「まあ、そんなに見とれないで。照れるじゃない」


「桜の花びら……」

「……あ、そっち……」


 真由は焦って、花びらを掃おうとした。


「そのままでいい」


 髪の毛をきゅっと上の方で結び、さらりと横に流したこのヘアスタイル。ずっと見続けた三年間。コウのお気に入りのスタイルだ。まっすぐすっと立って歩く、颯爽とした立ち姿も変わらない。よかった。ここからまた新しい真由を見ていられる。また始めることができる。


「さて、行こうかな」

「そうだね。これからもよろしく」


 コウは二人が出会った場所からもう一度始められることが、たまらなく嬉しかった。真由の髪の毛から小さな花びらを一片摘み、ポケットにしまった。

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