第39話 もう一つの物語
ようやく脚本が出来た。コウは真由とレイナ、敦也に放課後の図書館に集まってもらい概要を披露することにした。
何日も温めていたストーリーをいよいよ披露するとなると緊張した。三人のゴーサインが出たら台詞を起こし、台本にする。そのための案を聞いてもらうことにした。学園物というよりはコウと真由の物語と言った方がいいかもしれない。ちょっと甘い話になってしまったかな。照れくささもかなりある。
「じゃあみんな聞いてくれ。本当はものすごく恥ずかしいんだけど、勇気を出して読むよ。
『僕は入学した時から、ずっとある女性が好きでした。憧れの人でもありました。彼女が笑ったり、怒ったり、悩んだり、時にはつらい思いをしていたりする時の表情を見る度に、楽しい時は一緒に笑い、辛いときはその苦しみを分かち合いたいと思っていました。
でも、僕はそんな彼女を近くで見ているだけで幸せなんだと自己満足していました。臆病さゆえに気持ちを伝えることが出来ませんでした。
一年間が過ぎ、気がつくと二年の秋になっていました。ほんの些細なきっかけで、そんな日常から抜け出して、本気で彼女と関わることになりました。
好きだと告白したのです。
自分でもその先何が起こるか分からず、慌てふためくばかりでした。彼女変なタイミングで告白した僕の事を、変な奴だと最初は気味悪がっていました。
しかし、次第に僕の心に近づいてきてくれて、気に掛けるようになってくれたのです。憧れのアイドルが自分の生活圏内に入って来たようでした。そんな毎日は楽しくて仕方ありませんでした。
きっかけがあり始まりがあったから今の僕がいます。今まで到底自分には無理だと思っていたことが、やってみるとできることがわかったりしました。ほんの少しのきっかけがが未来を変えると思ったんです。では、そんなきっかけが無かったら今の自分は何をしていたのだろうと考えました。
そして物語は、数年後の未来にタイムスリップした僕がいます。僕は、彼女に会っても知らん顔をしています。彼女の方も、ああ同級生にこんな奴がいたっけなあと思うだけです。心の片隅にも残らなかったかもしれません。
片や僕の方は、ずっと好きだったけど今はどうしているのだろうと思いながら挨拶を交わして反対の方向へ歩いて行きます。そんな未来の僕たちには通じ合うものがありません。
ああ、あの時行動を起こしていれば、と思った未来の僕は、過去へ行くことを決心します。僕は校舎のある場所から過去へ行きます。そして過去の僕に告白せよ、行動せよ、と真剣に迫るのです。
僕はそんな見知らぬ男から脅されてなぜ告白しなければならないのかと疑問に思うのですが、その人の切羽詰まったような言い方に押されて告白します。そして歯車が回り始めます。その男は、満足そうに微笑むと過去へと帰って行きます。
過去へ戻った僕と真由は、同じ道を微笑みながら歩いて行きます。そしてもう一度未来へ帰って行った僕は、真由に会うと手をつなぎながら同じ道を歩いて行きます』
「ラストシーンは、こんな感じなんだけど、どうだろう?」
そこまで神妙に聞いていた真由の目から涙がこぼれている。
「そんな素敵な話になるの。コウってすごいロマンチストなんだね。でも二人のなれそめがばれちゃって恥ずかしい」
腕組みをして訊いていた敦也が言った。
「コウと真由の名前を出さないで、芸名を付ければいい。現在の高校生が二人と、数年後の役が二人で四人で演じればちょうどいいよ。実話だと言わなければいい。ほらよく『この話はフィクションであり実在の人物とは関係がありません』ってのが書いてあるじゃないか。それを出せばいいんだ」
レイナは、苦笑いしている。
「明らかに二人のことだってわかるけど、分かりすぎちゃってるから別にいいんじゃない。思い出になるからその話、いいと思うよ。ねえ真由」
「……あ、ああ。なんか言葉に出してはっきり言われちゃって感動したっていうか、面食らっちゃったっていうか……」
真由の瞳は真っ赤になっている。
「分かる、分かる。愛の言葉を聞いて、胸がいっぱいになっちゃったんでしょう。じゃあ、真由もいいわね」
「うん」
「それじゃあ、台本は私にやらせて。自然な会話文だったら得意だから」
「おっと、頼もしい。じゃあお願いしようかな」
コウはこの話でゴーサインが出たので、笑みを浮かべた。
「ビデオ撮りや編集は俺とコウがやろう。放送委員も手伝ってくれるらしいし。今度の秋の文化祭の公開を目指して少しづつ準備しよう」
「みんな、ありがとう」
コウは胸がジンとしていた。
「じゃあ、今度は私が台本作ったら集まろうね。出来たら召集かけるから、ここで集合にしよう」
「オッケー」
四人の集まりは終了したが、皆帰りがたくなり図書室でソファにもたれてのんびり本を読んだり、転寝をしたりしていた。コウはうとうとと眠ってしまった。すると目隠しをされた。
「だ~れだ?」
「う~ん。分からないよ」
小さな柔らかい手だ。女子のどちらか、由かレイナだろう。
「目を開けていいよ」
そこには、レイナがいたずらっぽく立っていた。
「未来の真由でした」
「全く、悪戯なんかして……」
まだしばしまどろんでいよう。放課後の時間が終わるまで……。コウはまたうとうとし始めた。三人の話声が遠くの方で聞こえていた。
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