第38話 映画のストーリ―

「ねえ、真由。タイムスリップして過去と未来どちらかに行けることになったら、どっちに行きたい?」


「私は未来へ行ってみたい。数年後の未来へ。自分がどうなっているのか見てみたい。あまり遠い未来だと自分がお婆さんになっているか、いなくなってしまっているから寂しいじゃない。でも本当はタイムスリップなんてするの怖い。だって数年後事故に合っていなくなっちゃったら、って考えると恐ろしい」


「見られるなら未来に行ってみたいのか。俺はどちらかというと過去へ行ってみたい。戦国時代は戦いばかりだっただろうから、江戸時代がいいかな。ただし絶対帰って来られるってことが前提だけどね。未来の俺たちってどうなっているんだろうな。何をして暮らしてるんだろう。数年先でも科学技術は今より進歩しているだろう。想像もつかないような世の中になっているのかもしれない。だってほんの三十前と今だってかなり違う。携帯電話や、ましてスマホなど誰もが持てるようになるとは思わなかった。それが今では当たり前のようになっている」


「だけど、タイムスリップできたらどっちに行きたいなんて、どうして聞くの?」


「映画のストーリーを考えていたんだ。タイムスリップ物が面白そうだな、と思っていたところ。今の話参考にしようかな」


「あら、あら、そんな。映画のストーリーだったなんて……もっとまじめに考えればよかった」


「真面目に答えたんじゃないの?」


「そうだけど、映画にするんだったらどうかなあ」


 ストーリーを考えるのに早すぎることはない。


「学園物にすれば学校の中で撮影ができるわよ」


「学園物で、タイムスリップを入れようかなと思ったんだ。校内のどこかに未来につながる扉があると考えて物語を作るとすると……」


「そんな場所があるかな?」


「あくまでも話の中の世界だけど、でも設定としては面白そうだろ」


「うん。ストーリーにもよるわよ」


「それはそうだ」



 学年末試験が終わり、敦也はバイトにいそしんでいる。レイナは、何人かの男友達と会っているのだろう。皆それぞれ自分の様で忙しい。コウも時間を見つけては勉強することにした。


 コウはある日真由を誘って校内を歩いてみた。タイムスリップできそうな不思議な場所なんてあるだろうか。現実には不可能なことだが、不思議な現象が起こりそうな雰囲気のある所。


 まずは一階のエントランスを眺める。コウの学校は土足のまま入れるようになっているので、下駄箱はない。入ったところはホールがあり、ベンチがいくつか置かれすぐ前には受付と事務室、職員室がある。一階からは武道場や体育館への渡り廊下がある。渡り廊下は屋根があり外側はグラウンドになっている。


「渡り廊下が未来につながっていた、なんてどうだろう……」


「面白いかもしれないが……」


 今度は上の階へ行ってみた。二階には図書館、調理室、化学室、生物室などの特別教室が並んでいる。生徒がいつもいるわけではないので静かな時間が多い。化学室などもどこか謎めいていて独特の雰囲気があるし、図書室も多くの書籍に囲まれて、異空間に行けるような雰囲気を持っている。図書室も面白いかもしれない。


「図書室も、意識の中では時間と空間を移動する旅をするにはちょうどいい場所だ」


「そうね。本の中の世界に入れば、簡単に移動できるものね」


「さて、他の場所も探ってみよう」


 二人は三階に上った。三階は普通教室が並んでいる。同じような造りの教室ばかりなので、あまり死角になるような場所もない。四階へ上がっていくとパソコン室と講義室などの特別教室がある。ここも比較的静かな空間だ。


 パソコンも、未来がのぞけるという設定なら使えるかもしれない。


「学校にあるものって、過去とつながってたり未来と繋がってたりしそうなものが色々あるな」


「昔の生徒の思いと、これから来る生徒の思いが混じり合っているのかも。ちょとホラーみたいで怖いけど、そんな場所なんでしょうね、学校って」


 二人は人気のない校舎内をしみじみと歩いていた。大勢で通る時には全く見えなかったものが見えてきそうだ。


 真由は、あたりをきょろきょろと眺めながら、校舎にできた傷や窓から見える景色をしみじみと見ていた。


「これは、やんちゃな男子がボールをぶつけた跡ね。これは箒の柄が当たってできた傷。あーあ、ガムがこびりついてるところもある」


「ロッカーがへこんでるのは、苛ついて閉めたからだろう」


「現実的にみるとどうしようもない生徒の姿も見えてきちゃうけど、ちょっと神秘的なストーリーを作って」

「えへへ、頑張るよ……」


 コウは、好奇心に輝く瞳に心ときめかせながら校舎を後にした。何かまた新しいことが出来そうな予感がしていた。

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