第37話 コウの提案
旅行から戻ってきたコウは、百均で小さなガラスのボトルを二つ購入した。そこに海岸で拾った桜貝を真由と二人で選別して入れている。
「これが綺麗かな」
「これも入れよう」
二つのボトルに蓋をした。
「じゃあ、これは真由に。一つずつね……」
テーブルに乗せた二つの瓶の中で、色調の違う桜色の貝殻が光っていた。振ってみると、貝は透明な瓶の中でザーッと潮騒が聞こえてくるようだ。コウは、一つを真由の手のひらに乗せた。
「楽しかったわね……」
「また、行きたい」
「いつかきっとね」
二人はコウの家のテーブルに二人で座っていた。学校帰りに真由が寄ってくれた。
数か月前には、何事にも逃げ腰だったコウがこんなにも変わるとはだれも思わなかっただろう。きっかけがあり、あれよあれよという間にいろいろなことに対処しなければならなくなった。人格までが変わってしまったような気がする。不思議な縁で友達もできた。この四人の絆を何か形にしたい。
コウは、帰ってから数日間ずっと考え続けた。それを思い切って口にしてみた。笑われてしまうかもしれない。簡単に却下されてしまうかもしれない。でも提案しなければ、始まらない。
「ねえ、真由。俺映画が好きだったんだ」
突然何を言い出したのかと、真由は目を丸くしている。
「そうだったわねえ。あたしも映画好きよ。見に行きたいのでもあるの?」
映画に誘われたのかと思っているようだ。
「それでさあ。自分でビデオ作品を作ってみようかと思ってるんだ」
「へえ! 映画を自分で作るってこと!」
「まあ、そういうこと」
「凄いじゃない。それで、いつ思いついたの?」
真由にとっては初耳だ。
「ここ数日で考えた」
「きゃあ! 急に思いついたの。それで、できそうなの!」
「俺、見るだけじゃなくて物語のストーリーを考えるのも好きなんだ、実は……」
「ひょー! 凄い凄い!」
真由の驚き様はすごい。知らない人を見るような眼で、コウを見ている。
「で、同好会か愛好会のような有志の会を立ち上げようと思うんだけど……不可能な望みかなあ?」
「ううん。そんなことはないでしょう。同好会は有志が集まればできるみたいだし……ああ、その有志の一人として私を誘ってるの?」
「一緒にやってみない? 俺たち部活動どこにも入ってなかっただろ。敦也とレイナにも仲間に加わってもらえたらいいな」
「じゃあ、早速話してみたら? でも、脚本は誰が考えるの。コウがストーリーを作る?」
「ああ、俺が考えるよ。皆でアイデアを出し合ってもいいけど」
「四月になると三年、文化祭までの活動になるけど……」
「それでも、どうにかできるだろう。ビデオの編集は、俺と敦也がやってみる。実はあまり詳しくはないんだが、敦也に訊きながらやってみるよ。主演女優は二人がいるから心強い」
「気が早いわね。まずは話してみなきゃわからないわよ」
コウは早速敦也とレイナに電話した。彼らは、都合の良い日なら撮影に参加できるということでメンバーの一員になってくれるということだった。ビデオ編集は敦也の方が詳しく、力を貸してくれることになった。
しかし、そんなことを考えていたとは二人は意外だったらしく驚きを隠せなかった。元々目立つことの好きな二人だから俳優としても技術者としても動いてくれることだろう。来年の文化祭までという期限付きだ。
学校で会った時に再びその話をすると、レイナは興味深げに身を乗り出して話を聞いた。
「脚本を作って、役を決めて、練習して、撮影。手際よくやればできそうじゃない」
敦也は腕組みをしていった。
「構想を練ったら、撮影からは短期決戦でやるのも手だな。まとまった時間に続けて取る方がいいと思う」
やはり二人に話してよかった。それ以外にも配役が必要だったら、四人の伝手で声を掛けて人集めをしよう。
担任の岡本にも話をしに行くと、コウが発起人だというと驚きながらも、喜んでいた。
「お前がそんなことを始めるとは、驚きだ。俺も応援してるから、頑張れよ」
などと言ってくれた。
「そうだ、ビデオレコーダーは放送委員会のを使えばいい。貸出ししてるから」
「いいことを聞きました。ありがとうございます」
コウはそのまま、放送委員に撮影の時には借りたい旨を伝えに行った。ビデオ映画を撮りたいのだというと、食いついてきた。何なら、撮影に立ち会ってもいいとまで言ってくれたのだ。しかも編集方法も教えてもらえることになった。
だんだん大変になってきたが、わくわくする。
しかし、言い出したものとしては後へは引けなくなる。気持ちを引き締めてやらなきゃな。動き出せたのは真由と二人の仲間が出来たおかげだ。
そんな構想を練っているうちに学年末がやってきた。試験を終え、皆そろって進級が認められた。
「来年あと一年間真由と一緒にいられる」
「三年でクラス替えがなくてよかったわ。コウとは結局三年間一緒のクラス」
「運命を感じる」
「まあ、オーバーな。でも二年になる時に同じクラスになったのは六分の一の確率だったわね。やっぱり私たちの間には何かあったのかもしれない。超自然な何かが…」
「そうに違いない。やっぱり何かに引き寄せられていたんだ」
「コウの念力かなんかじゃない」
「そうかもしれない。最後の一年またよろしく」
「うん。こちらこそ」
二人はにっこりと頷き合った。
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