第29話 冬にブランコもいいものだ
冬休みは、その後真由とは数回だけ会うことができた。
真由の家では単身赴任している父親が戻って来ていて、久しぶりに会えたのでできるだけ家にいたいということで、あまり外出はできなかった。コウは別に用はなく毎日でも会っていたかったのだが、そうもいかなかった。正月の三が日が終わり、父親が仕事に戻っていってから、真由から連絡があった。
お互い初詣には家族で出かけていたので、学校帰りによく立ち寄った駅周辺で、買い物でもしようか、ということになった。特に買いたいものはなかったのだが、それはあくまで口実だ。待ち合わせ場所は、分かりやすい改札口だ。
三が日が過ぎたとはいえまだ休みの人も、多く人通りは多い。改札口には電車が到着するたび、大勢の人が電車の中からは出されるように、どっと押し流されてくる。
その中から、真由の姿を見つけた。
「おお、元気だった?」
「元気だったよ」
二週間ぶりぐらいだったが、かなりの時間会っていなかったような気がする。コウは、真由の首元に目が言った。プレゼントしたペンギンのペンダントはしてくれているだろうか。
……ああ、良かった。胸元で揺れていた。
「あ、ペンダント」
コウはさりげなく気がついたようにいった。
「これね。似合うでしょ」
「似合う!」
「久々に家族で過ごせたでしょ?」
「まあね、父親も戻ってきて、家族水入らずで過ごしてたよ。コウも元気そうだね」
「家はあまり変わったことはなかった」
お互い毎日メールを送り合っていたので、確認し合うような会話だった。
「それが一番ね」
真由からしてみれば、そんなものなのだろうなと思う。
「さて、買い物に行ってくるとは言ったけど、特に目的はないんだ」
「あたしも特に買いたいものはないんだ」
「もうセールをやってるけど、いいの?」
「コウと一緒じゃ、服を見て歩くのは悪いよ。女子は服を選ぶのには、時間がかかるんだから」
「じゃあ、またカフェに行くか、無料で座れるテーブル席でも行く?」
「そんなところだね。では、せっかく来たからカフェにしよう」
二人は前回来たカフェに入り飲み物を買い前回とは違いビル内を歩く通路に面した席を取った。買い物客が近くを通り過ぎていくので、少し落ち着かなかったが見られても気にしないことにしたので通路側でもいいと思ったのだ。
「随分大勢の人がいるわね」
「この時期、特に目的がなくても出歩いている人が多いんだ」
「私たちも人の事は言えないけどね」
「年が明けたら、高校生活も後一年ちょっとになるんだな」
「そうね。残りの方が少なくなっちゃった。それを考えると寂しい」
「しかも卒業後は毎日会えなくなる……とても考えられないし、気持ちがついて行かない」
「そんな悲しそうな顔しないで。今はやれることをやっておくしかないから」
「そうだよな。進学するなら猛勉強しなきゃならない」
そんな話をしていると、コウは真由に会えなくなってしまうことばかりが頭の中に巡ってきて、押し黙ってしまった。
二人は、黙々と飲み物をすすった。カフェを出て外へ出た。
「近くに公園があるから行ってみよう」
「気分転換にいいね」
公園は、店を出て五分程のところにあった。
外へ出ると空気は冷たく手がかじかむようだったが、日差しがあったので歩いているうちに体が温まってきた。
公園には親子連れや、友人同士で散歩している人たちがまばらに見えた。二人は手をつないで散歩した。花が植えられた花壇があり数種類の花が咲いていた。まだこれから咲くものも多く、葉をつけているだけの木々も多かった。広葉樹は、葉を落としてしまっているので、日差しは思いのほか強く降り注いでいた。
花壇を通り過ぎると、遊具などが備え付けられている子供のための遊び場があった。そこを歩いていると、真由が言った。
「ブランコでも乗ってみよう」
「そうだね」
二人は、丁度開いているブランコに並んで座り漕いでみた。懐かしい感覚がよみがえってきた。コウはいった。
「子供の頃よく遊んだ」
「童心に帰って……風が冷たいけど」
「ブランコに乗っていると、頬に当たる風が気持ちがいいんだ」
ゆらゆらと体が揺れる感覚が、心地よい。あまり漕ぎすぎないで、適度に揺れているのがいい。だんだん無心になってくる。からだを揺らすことだけに集中する。揺らすことにも疲れてくると、二人は静止した。
「ここにいると別世界にいるみたい」
真由はしみじみと言った。
「別世界ねえ。都会の喧騒が嘘のようだ。だいぶリラックスできた」
「元気が出たね」
再び手をつないで歩きだした。
今日の真由の服装をしみじみと見た。膝より少し上のスカートに、セーターを着ている。上着はダウンジャケットだ。室内では上着を脱いでいたんだ。髪型は、いつもの上の方の髪の毛を編み込みにして後ろで留めているスタイルだ。この髪型は今の真由に似合うヘアスタイルだ。だんだん変えてしまうかもしれない。そう思と切なくなり、じっと見つめてしまっていた。だんだん苦しくなってきた。
コウは立ち止まって真由にいった。
「ありがとう。俺を選んでくれて」
「あら、何を言い出すのかと思ったら……」
真由の方へ向き、そのまま髪の毛を撫でながら抱きしめていた。
――もう時間が止まってしまえばいいのに!
――時は何て無常なんだ!
と無茶苦茶なことを考えていたら、涙がこぼれてきた。
――何で、涙が出てくるんだ!
――涙の奴なんで出てくるんだ。止まれよ!
そう念じても、後から後から、こぼれてきて真由の頬まで濡らしてしまった。
真由も、ふわふわとした気持ちになって、コウの背中をしっかりと抱きしめてあげていた。
「泣かないでね」と語りかけながら。
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