第28話 冬はこたつでぬくぬくと
いつしか風は冷たくなり、手足がかじかむような季節になっていた。
もうあと数日で冬休みとなった。進学に向けて勉強をする者もいれば、アルバイトにいそしむ者、片や二週間をのんびり過ごす者もいる。試験の結果はそれほど悪くはなかったのでほっとしていた。コウは差し当たって予定はなくのんびり過ごすことにしていた。
敦也が休み時間にいった。
「コウ、冬休みの予定は?」
「特にないよ。敦也は」
「俺も、特にないな。じゃあ、お前の家に遊びに行っていい?」
敦也は、何度か家に遊びに来たことがある。軽い気持ちで誘ってきたのだろう。
「いいよ」
「じゃあ、日程がわかったら連絡するよ。そうだ、レイナも誘ってみるよ。いいだろ。それから真由も一緒に。久しぶりに四人で集まろう」
「楽しみだな」
敦也はレイナに話をして、日程を決めた。四人で集まるのは、横浜へ行った時以来だ。
冬休みがやって来て、四人が集まる日になった。コウの家のリビングには、冬になると炬燵が置かれ、そこで家族で夕食を取ったりしている。脚をこたつに入れてみかんを食べながらおしゃべりをしたり、テレビを見たりゲームをしたりする。時々足が触れ合うのもこたつならではの楽しさだ。敦也も冬に炬燵がデーンとリビングの真ん中に現れることを知っている。
三人が来る日は平日だったので、父親は仕事に行っていた。母親は皆に挨拶をすると、買い物に行ってくると言い残して外出した。どうやら気を聞かせてくれたようだ。姉は、部活動で学校へ行ってしまっている。
この日の昼食は皆で持ち寄って行う、ポットラックパーティーだった。敦也とレイナ、真由はキッチンで何を持ってきたかを広げて披露してくれた。敦也は、店で購入したフライドチキンとポテトだ。
「俺は、料理苦手で。買ってきちゃったんだ」
「あら、揚げたてでおいしそうじゃない。いいわよ」
レイナが喜んでいた。レイナが紙袋から取り出したのは、パウンドケーキだった。外側がこんがりと焼きあがり、切ってみると卵やバター砂糖などの香りが混じり合った良い香りがした。オレンジピールやレーズンなども混ぜ込まれていて、彩を添えていた。
「昨日家で焼いたのよ」
真由が歓声を上げた。
「わあ、凄―い! いい匂いがする。手作りのケーキなのね。美味しそう!」
「えへん、結構家で作ってるんだ。美味しいのよ! 食べてみて!」
と答えた。真由が紙袋の中から取り出したのは、サンドウィッチだった。ハムや卵、キュウリなどをはさんだオーソドックスなものと、イチゴやキウイフルーツなどと生クリームをサンドしたものだった。綺麗にスライスしてあり、中身が美味しそうに盛り付けられていた。コウは感激していた。
「これもおいしそうだなあ。真由、レイナ、敦也有難う」
「ところで、コウは何を用意してくれたの?」
「俺はだな……何だと思う?」
レイナが叫んだ。
「もったいぶってないで早く言いなさい!」
すると真由がいった。
「あのね。来た時から美味しそうな匂いがしてるんだけど、シチューじゃない?」
コウは片手を上げた。
「ピンポン。当たり!」
「凄いじゃない、コウも頑張ったね」
「美味しくできてるといいんだけど、食べてからのお楽しみ」
レイナが、三人に号令をかけた。
「さあ、じゃあ綺麗に盛り付けてこたつに運びましょ。コウ、お皿とスプーンとフォークを用意して。真由、一緒に盛り付けよう」
「いいわよ。盛り付けたら、二人で運んでよ」
サンドウィッチやチキンなどはは大皿に盛り付け真ん中に置き、シチューは中皿に見た目よく盛り付けられた。パウンドケーキも食べやすい大きさに切り分けられ一つに皿に盛られた。
「さて、今日は何のパーティー?」
コウが訊いた。敦也がいった。
「冬休みになったお祝と、真由とコウの交際宣言パーティー。後皆のお疲れさんさん会」
レイナがいった。
「じゃあ、そういうことでいいわね、真由」
「何でもいいけど、四人で集まれてよかったわ」
敦也がグラスにお茶を注いだ。
「それじゃあ、乾杯! 二人に、それからみんなお疲れさまでした!」
「お疲れさーん! これからもよろしく!」
コウは照れ臭い気持ちを隠さずに真由と、それから敦也レイナの目をしっかり見て乾杯した。レイナが家に来た時に、ドキドキしていたっけ。あの時レイナは自分の事をどう思っているのかと、気になって仕方がなかった。
人の出会いというのは不思議なものだ。歯車のように誰とどう絡まっていくのか、出会った時には分らない。コウがしみじみと今までの思い出に浸っていると、敦也にどやされた。
「コウ、なに一人で黄昏てんだよ。色男だな……。どんどん食べようぜ。俺の持ってきたチキン食ってみろよ! さあさあ」
「よし、食べるぞ!」
まず最初に、真由が持ってきたサンドウィッチにぱくついた。
「美味しい! 最高の味!」
レイナが言った。
「ハイハイ、それが一番おいしいでしょうよ」
次にチキン、パウンドケーキを平らげた。
「みんな美味しいぞ。料理うまいな。ケーキなんかプロ並みの味だ!」
レイナが苦笑いしていった。
「みんなが喜んでくれてよかった。作った甲斐があったわ」
敦也と真由も感心している。
「これが自分で作れるなんて、凄い。今度作り方教えて」
「レシピを書いておいてあげるから、やってみてね」
レイナはご機嫌だった。
四人は時折足をこたつの中でぶつけ合いながらぬくぬく温まり、美味しいご馳走をぱくついていた。😋
―― 🍗 🍰 ――
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