第25話 美少女の家へ

 代休が終わり学校へ行くと、まだ皆疲れが取れないのかいやに静かだった。大きな出来事が終わり、力が抜けてしまったようだ。


 イケメンの翔馬が、放課後しょっちゅう真由のところへ来て声を掛けている。普段の制服姿にもどっても真由の可愛いさが変わらないのは、コウが一番よく知っている。


「一緒に帰らない?」

「ええ、一緒に? デートはしないわよ」


 真由はきっぱり言った。ところがそんなことでひるむようなイケメンではない。


「駅までは一緒でしょ。一緒にバスに乗るだけだよ」

「それなら、まあ、同じ方向だけど……」


 あんなに困ってるんだから、嫌がっているのを察してほしい。図々しいにもほどがある。相当鈍感な奴なんじゃないのか。


「じゃあ、行こう」


 これでは秘密のデートは難しい。この日はあきらめることにして、せめて同じバスに乗り二人の様子を窺がうことにした。翔馬は目ざとく二人がけの座席を見つけ、隣に座らせた。

 

 俺が堂々と座れないのをいいことに、平然と仲良くしているつもりになっている。コウは後ろの座席で、二人の会話を聞くことにした。これではまるで探偵だ。殆ど翔馬の方から質問をしている。当たり前だが。


「家はどこなの?」とか「休みの日は何してるの?」だとか「今度二人でどこかへ行かない?」だの質問攻めだ。こんな手で今まで女子を口説いていたのか。


 十五分間はあっという間だ。真由は必要最小限の答えをしたが、それでも個人情報がかなりやつに流出してしまった。かなりの情報を聞き出しやつはその日は満足していたようだ。

 バスを降りたら、ようやく真由を解放した。

 俺たちもその日は、帰りのデートは取りやめにして家に帰ることにした。



 思いがけなく二人きりになるチャンスがやってきた。真由は、ちょっとはにかんだような顔をしてコウに言った。文化祭の収益を計算しなければならず、二人だけで教室に残って収支決算書を書いていた時の事だ。


「あのね。今度の土曜日、家に来ない?」


 勿論答えは決まっている。


「真由の家へ、行くよ」


 声が上ずっていた。母親と兄がいたはずだが、嬉しいことには変わりはない。


「実は、その日、誰もいないんだ」

「えっ……それって真由一人ってこと?」


 コウは焦り、当たり前のことを質問してしまった。


――ほんと俺ってバカだな。どういうことかよく考えるんだ!


「……まあ。寂しいから、来て」

「もちろん行くよ」


 と答えた声はかすれていた。


――寂しいなんて言う言葉を聞かせるなんて、罪だ!


 しかも真由の頬は、そう言ってしまってから、赤くなっている……。


 コウは土曜日が来るのが待ちきれなくなり、その日まで学校では何をしても上の空、翔馬が真由に声を掛けても気にならなくなった。そう、俺の方が優位に立っているんだ翔馬、と心の中であざ笑っていた。


 前日の夜、コウは勇気を振り絞ってできるだけ大人っぽく見える私服を着てキャップをかぶりコンビニへ行った。そこで急いで買い物をすると、部屋で誰も入ってこないことを確認すると、小さなそれをお守りのように財布に忍ばせた。


 

 土曜日のデートの日がやってきた。駅で待っていた真由と一緒に、途中でコンビニによりお菓子や飲み物を買い込み真由の家へ行った。


 家には……誰もいなかった……。


 いきなり迫ったら引いてしまうだろうな。と思い、テレビを見ながらお菓子を食べたり、飲み物を飲んだりした。コウは勇気を出していった。


「真由の部屋は……どこ?」


 言ってしまってから、自分で焦りまくっている。


「片付けておいたから、来てね。こっちよ……」


 後をついてしずしずと歩く。


 部屋は六畳ぐらいの洋間で、綺麗に整頓されている。きっとかたずけてくれたんだろうなあ。そこにはベッドと机があり、コウの部屋と似たり寄ったりだった。違うのは可愛い猫やクマのぬいぐるみが置いてあり、その子たちに見つめられていることだ。


「ぬいぐるみが、色々あるねえ」

「えへへ、そうなのよ」


 持ち物の色使いもカラフルなので、コウの部屋よりは明るい印象を受ける。ピンクの枕カバーが目に入った。ちょっと目のやり場に困る。


 二人はベッドに腰かけた。窓の位置はベッドよりは高いので座っているところからは、外が見えない。ということは、外からもこちらが見えないということ……。

この間のパソコン室でのことが頭の中にフラッシュバックしてきて、頭の中ではじけてしまった。


 まずい。ここでやるべきことは、一つしかない。


 コウはベッドに深く腰掛けていった。


「ここに座って」


 コウが足を開くと真由が座れるぐらいのスペースが出来た。


「あっ、そこに?」

「ほら、座って!」


 少し強引なぐらいの口調でいってしまった。

 真由は立ち上がり、コウの目の前に来てから、座った。


「真由、いいの?」


 何という質問だ! この場合のいいとは、やっぱりそっちの方の質問だよな。


「ええと、どうしようかな」


――迷ってるよ。俺の訊きたいことは通じたのだろうか。質問の仕方が悪かったかな。こういう場合何と訊けばいいのだろうか。


「膝の上に座ったら?」


 またまた、思い切ったことを言ってしまった。真由の反応は。


「うん。ちょっと座りにくいな」


 ごつごつした足の上に乗ったら、座りにくいだろう。でもこれでイチャイチャする準備は整った。と、コウは後ろから、真由の体を抱きしめたり、触ったりし始めた。


「あら、くすぐったい」


 くすぐってるわけじゃないのに。手を止めて次は、お腹に手を回した。ピタッと体がくっついた。その手を上の方へ持って行った。当然そこには、胸があった。


「うふ、うふ、うふ……」


 喜んでるのか、笑ってるのかわからない。


 ダメだ。くすぐってるんじゃない。


 柔らかく弾力のある胸が、手の中にすっぽり入って揺れている。


「寂しかったらいつでも俺が相手になる」

「うん、ウフ」


 真由は体重を掛けて寄りかかってきた。もう感激で、頭の中がくらくらする。


「……うん、はあ……はああ…………」


 そんな声を出されたら、ああ、変になる。頭の中がはじけてしまった。目の前には首筋が見える。そこへ唇をつけキューっと吸った。肌が柔らかくてすべすべしている。


「……可愛い……好き」


 思わずいった。


「………あたしも、好き……」


――あ、あ、この言葉聞きたかったなあ!


 もう駄目だ! コウは真由をそのままベッドに押し倒した。体中をくっつけながら、甘甘な時間が過ぎていく。真由はかなり焦っている。


「……そんなに……まだ早いよ……」


 そんなことを言われても、くっついてしまった体はなかなか離れない。コウは真由と布団にもぐってぬくぬくしていた。


――寂しい気持ちに着け込んだわけじゃない!


 勝手に言い訳をしている。布団の中はいつまでもふわふわして暖かかった。

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