第23話 ライバルはイケメン

――翔馬のやつ! 

 

 クソっ、真由といるとなんてお似合いなんだ。二人でいたら美女と美男で釣り合いが取れてしまう。ああ……あんな奴に最愛の人を取られたくない。


 コウの瞳は嫉妬でめらめらと燃えていた。交代時間が来て、真由はそのままの服装で、翔馬のクラスへ向かった。言い訳が出来ないのが悔しい。だって付き合っていることがばれてしまうから。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 という軽い言葉を残して、真由は行ってしまった。翔馬のクラスは、外でたこ焼きを焼いていた。その時間は、翔馬の担当ではなかったらしく、真由はチケットを渡してたこ焼きをもらった。翔馬のおごりということだ。すぐそばに翔馬が待っていた。手を挙げて合図している。


 屋台の前にもテーブル席が用意されていて、そこに座っていた。


「こっちこっち、座って食べて」

「あら、ありがとう」

「食べてもらおうと思って、チケットを買っておいたんだ。混雑してると待たされることもあるからね」

「悪かったわ」

「真由と友達になりたくて。クラスは違うけど……いいだろ」

「友達、に?」

「本当は、付き合ってほしいんだけど。真由は彼氏がいるの?」

「え、ええと、……」

「答えられない? いるのかな」

「いないけど……」

「俺じゃあ、相手に不足? まずは友達になってくれればいいんだぜ」


 真由は返答に困って、考え込んでいた。いるともいないとも言えない。だっていないと言ったら、期待するだろうから。


「友達かあ……あくまで友達ね」


 翔馬は、その答えを聞き真由の顔をじろじろ見ている。俺が付き合ってくれと言って、今まで迷った女の子は珍しい。それだけ、やる気が湧いてくるというものだ。絶対こちらを振り向かせてやると、決意を固めた。


「時々、会いに行くけどいいよな。友達なんだから」

「まあ、友達だからねえ」

「コウとは、なんでもなかったんだろ?」

「えっ?」

「ほら、あいつに告白されたらしいけど」

「まっ、まあね」

「じゃあいいよな」


 翔馬は結構強引だ。真由の髪型や、服装を頭のてっぺんから、足の先まで観察していった。


「今日のスタイル最高だね。髪型もいつもと違って可愛い。まあ、いつもの髪型も似合ってていいけど」

イケメンの口からは、そんな台詞がすらすらと出て来て、真由を慌てさせた。

「そうだ、写真撮らせて?」

「えっ、それはちょっと……」

「いいじゃないか」


 そう言うが早いか、ポケットからスマホを取り出して、真由の方へ向けた。真由は恥ずかしそうに見ていた。


「よく撮れてる! ありがと」


 何でも単刀直入に言うし、動作が早い。真由は、戻るきっかけを早く作ろうとしたのだが、すぐにまたうまく引き止められてしまった。


「文化祭が終わったら、一緒に帰らない?」

「ああ、でもクラスの友達と打ち上げやると思う……私実行委員なのよ」

「今日じゃなくてもいいから。また別の日に誘うよ」


 なかなか話は終わらない。真由の方から切り上げようとした。


「じゃあ、もう私戻らないと。次のシフトが入ってるから」

「ああ、もう行っちゃうの。じゃあまたね」


 ようやくイケメンは真由を解放してくれた。


 大急ぎで戻ると、コウが心配そうな顔をして待っていた。


「お待たせ!」

「ああ……」

「怒ってる?」

「いいや……」

「なら妬いてる?」

「まあ、ちょっと……」


 かなりだし、怒ったような表情をしている。


「友達になって、って言われた」

「……で?」

「友達ならいいって、返事した」

「……そうか。友達なら、いいか……あいつには気を付けた方がいい。今まで何人もの女子と付き合ってる」

「流石イケメン。分かるような気がする」

「あ、そろそろ次のシフトの時間だ」

「うん。休憩してる暇もないね。まあ、私たち実行委員だから」

「さて、準備しなきゃ」


 二人は、先ほどと同じように注文の品を作ったり、運んだりを繰り返し、二回目のシフトが終わった。もう昼食時間になっていた。二人は、初めは一緒に他のクラスの出店で焼きそばを食べ、そこから別行動することにした。


 午後もう一度シフトが入っていたが、それまでは他のクラスのお化け屋敷や、クイズショウ、バンドなどを一通り見て回った。ああ、そうだ。真由は着替えをしないでメイド服のまま回っているんだ。あれではあちこちで声を掛けられてしまう。着替えるように言えばよかった。コウは、別行動している真由の事が気が気でなかった。


 午後のシフトは、皆だいぶ慣れてきて動きがスムーズになってきた。皆が自分の持ち場での仕事を終え、今日の活動は終了という放送が入り文化祭一日目が終わった。


 

 二日目は、皆手順がわかってきたので、初めからてきぱきと動くことができた。シフト表に従って喫茶店で働き、空き時間になると思い思いの場所で過ごしていた。目まぐるしく二日間が過ぎようとしていた。


 終了の放送とともに、名残惜しい気持ちで文化祭が終了した。


「これが終わると、もう秋が終わっちゃうよな……」


 コウがしみじみと言った。真由はメイド服のままここまでの思い出に浸っている。


「大変だったけど、やってみてよかったでしょ。実行委員」

「俺にもできたし、無事に終わった」


 しみじみと感慨に浸っていると、明美や敦也たちがやって来ていった。


「片付けが終わったら、打ち上げやろうぜ」

「いいわね。勿論行くでしょ二人とも」


 真由とコウは答えた。


「行くよ」 「参加させて!」


 敦也は嬉しそうにいった。


「そう来なくちゃ。主役が来なきゃ始まらないよ」


 ホームルームでは、理科の岡本が皆の労をねぎらった。


「今日はみなお疲れさん。大変だったけどよく頑張った。明日は代休だ、ゆっくり休んで疲れを取れよ! それから最後になるが、コウと真由、よく頑張ったな。ありがとう」


 岡本は皆の前で二人の事をほめちぎった。コウはくすぐったい気持ちだったが、苦労が報われてよかったとしみじみ思った。それから真由と堂々と一緒にいられたことにも感謝していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る