第17話 付き合っていることを 悟られずに一緒にいる方法
真由が帰った後、コウは部屋で真由の温もりに浸っていた。ずっとでもこうしていたい。真由の座っていたベッド、真由の食べ残したお菓子と手に触れた器、そして極めつけは先ほどまで履いていたスウェットパンツだった。洗って来ると言われたが、そのままでいいからと置いて行ってもらった。それを一人の部屋でそっと抱きしめていた。こんなことをする俺ってやっぱり変態なんだろうか、と思いながらも。しかし、この気持ちは抑えられない。その日コウはジャージを抱きしめながら眠りについた。まるで同じベッドの中に真由がいるような気分だった。
目が覚めて学校へ行く支度をしていると、たまらなく恥ずかしい気持ちになった。朝会った時取り乱してはいけない、と心を落ち着けた。
バス停で会った時も、さりげなく手を振った。
「ああ、おはよう」
「おはよう、元気?」
「うん、まあ」
何事もなかったかのように離れた席に座り、学校へ向かった。教室に入ると、五~六人の生徒たちがに三か所に集まって相談をしている。普段よりもその数が多いような気がする。コウは、近くにいる女子になぜなのかを明美に訊いてみた。
「今日はホームルームの時間に後期委員会と係決めがあるのよ。何をやろうか相談してたの。コウは、もう何やるか決めたの?」
「いや、決めてない」
「必ず何かしらやらなきゃいけないの知ってるよね」
「ああ、今日だったんだ」
聞いておいてよかった。どうしようか。そうだ、真由と同じ委員をやるのはどうだろうか。少しでも校内で一緒にいられるし、同じ委員会に入れば怪しまれることがない。定期的に一緒にいる時間が最も多い委員は……そうだ! 図書の貸出業務をしなければならない、図書委員だ!
コウは、スマホを手にすぐさまトイレに駆け込んだ。ホームルームは六時間目、最後の時間だった。それまでに秘密裏に連絡を取らねば。コウは、急いでメールを送った。返事がすぐさま帰ってきた。了解! と書かれていた。ただし、三人以上立候補者がいた時は、じゃんけんまたは話し合いになってしまう。その場合は、二人とも辞退することにして、文化祭実行委員をやらないかという返事だった。文化祭実行委員だって! コウは焦った。そんな係はいまだかつてやったことがない。クラスでは何かしら出し物をやらなければならず、そのまとめ役にならなければならないのだ。そのための司会、代表委員会への出席、クラス内の準備、何を取っても他の委員会とは比べ物にならないほどの労力がいる。自分にできるのか全く自信がない。ああ、他の連中が図書委員に立候補しませんように、と祈るような気持になった。真由との打ち合わせは完了した。後は、ホームルームの時間が来るのを待つのみだ。
六時間目になり、学級委員が前へ出て各委員や係名を黒板に書いていった。立候補者がいれば、順番に名前を書いていく。前期と同じ生徒が留任してもいいことになっている。担任の理科教師岡本が決める前に注意事項を言った。この教師は授業以外の時も常に白衣を着用していて、白衣の下がどんな服装なのかは謎だった。年齢をはっきり聞いたことはなかったが、多分四十代なのではないかと思う。
「いいか、初めに学級委員と文化祭の実行委員を決めよう。それから委員会、係の順に行く」
矢張り、重要なポストから先に埋めていった方がいいという考えのようだが、これではまずい。第一希望日図書委員、第二希望文化祭実行委員という目論見は外れてしまった。学級委員の中条美紀が教壇の前に立った。
「では学級委員に立候補する人いますか?」
すぐには、手を上げる者はいなかった。ほんの少しの間があって、美樹は元気よくいった。
「いなければ、私が立候補します」
周囲から、オオッ、という声が上がった。書記をやっていた林隆太が名前を書いた。
「もう一人、いませんか?」
それでも誰も立候補する人が出てこない。そこで美樹がいつも声が大きく威勢のいい明美に声を掛けた。
「明美、やってみない?」
すると明美は、嫌がってこう言った。
「あたし、今回は図書委員やろうと思ってるんだ、ねっ」
と近くの女子に向かって目配せをした。二人でやろうという相談をしていたらしい。コウはそれを見て絶望的な気持ちになった。これじゃあ、一緒にやりたかったら、文化祭実行委員にするしかないじゃないか。今から相談する時間もない。コウは焦って、真由の方をちらりと見た。何人か席を隔てて、横に座っている真由は、平然としている。真由は、結構目立つ役もやってきたし、実力は十分あるからだ。担任の岡本が一言言った。
「いないようだな。林どうだ。留任しないか?」
「……う~ん、いいですよ。後期もやります」
次は、いよいよ文化祭実行委員だった。打ち合わせ通りすぐに真由が立候補した。ああ、もう後には引けない。コウは勇気を振り絞ってその後に手を挙げた。すると、数人からへーッ、という声が上がった。コウが立候補するとは予想外で、皆驚きを隠せない。
「では、三ツ矢コウ君と、浅香真由さんでいいですね?」
クラスメイトのハーイ、という声と共に決定した。
――ああ、前途多難だ。少なくとも俺にとっては。
真由と一緒にいるのは、こんなにも大変なことなのだと思い知らされた。ホームルームが終わった後で、数人から声を掛けられた。
「コウが実行委員に立候補するなんて、意外だった」
「最近やるじゃない。勇気ある!」
励ましてくれているつもりなんだろうが、自分にはかなり荷が重いことは分かっていた。しかし、内心喜んでいる真由の様子を見ると、後には引けないことが分かった。美少女と付き合うためには、それなりの覚悟がいるのだ。
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