第11話 四人でデート

 コウと敦也、真由とレイナの四人は、石川町北口で待ち合わせた。横浜球場が近くにあり、コウは小学生のころ父親に連れられて以前野球を見に来たことがあった。そのころのおぼろげな記憶があるだけで、ほとんど土地勘はなかった。敦也は、バイトの友人と何度か来たことがあるようで、道案内をしてくれることになっていた。レイナと真由は、家族で中華料理を食べに来たことがあったらしいが、やはりあまりそのあたりに詳しくはないようだ。

 

 コウは、はやる気持ちが募り、集合時刻より二十分も前に着き、あたりを眺めていた。普段なら通勤客が忙しく乗り降りし混雑している駅だが、日曜日とあって乗降客は少なくゆったりしている。じっとしていると北風に拭き晒され、寒くなってきた。手をポケットに突っ込み、改札口の方に目を凝らしていた。高架線に列車が滑り込んでくる。これに乗っているかな。一人また一人と改札を通過し、その人の波の中に、知っている顔が現れてほっとした。始めに敦也が、次に、レイナ、真由が現れた。


「お待たせ! だいぶ待った?」


 レイナが長めのマフラーを巻きなおしながら言った。コートの下はミニスカートのようだ。すらりと伸びが足が長い。家に来た時のことがよみがえった。真由は、ひざ丈ほどのスカートに、ダウンジャケットを着ている。スカートはゆったりとしたフレアーで、足の動きに合わせてゆらゆらと揺れている。制服のスカート姿とはだいぶ雰囲気が違って、大人の女性のようだ。髪型は普段と同じで上の方を少しだけ束ね、あとの髪は肩まで垂らしている。敦也とコウはジーンズにダウンジャケットで、普段休日に過ごすスタイルだ。特別におしゃれをするための服を持っているわけではないので、仕方がない。もう少しお洒落な服装が出来たらな、と思う。そうすれば、真由に釣り合う素敵なパートナーになれそうな気がする。


「まず中華街へ行ってみようか」


 三人に訊いているわけでもなさそうだ。特に異論はないので、みんな賛成だ。敦也を先頭に三人がついてゆく格好で歩きだした。少し歩くと、中華街西門がありそこをくぐって歩いた。さらに歩いていくと、善隣門が見えそこをくぐって進んだ。そのあたりから中国風の店がぽつりぽつりと見え始め、次第に店構えの大きい中華料理店が軒を連ねるようになってきた。肉まんや、焼き栗などを売る出店も見られるようになり、客引きの声もにぎやかに聞こえてくる。日曜日の昼前ということもあり、人が次第に増えてきた。真由がきょろきょろと出店の湯気に引き付けられるように見ている。


「肉まん美味しそう」

「食べてみる? でもランチ食べるんだったら、我慢した方があとでおいしく食べられる」


 敦也が、アドバイスしている。


「ちょっと我慢する。ランチの方がよさそう」


 中華料理店だけでなく、時折雑貨店などもあり、チャイナドレスや雑貨などが売られている。異国情緒が感じられ、見ているだけで楽しい。声を掛けてくる店員も異国の雰囲気を盛り上げてくれているようだ。店の数も多く、それぞれ売りにしている料理も多種多様で、目移りしてしまう。


「どこがいいか迷うわね」


 レイナが、敦也の方へ目配せして言った。


「もう少し見てから決めよう」


 敦也が先頭になってさらに歩いた。


「ここにする? ランチセットやってるからお手ごろだと思う」


 店の前のメニュー表には、数種類のランチセットが写真付きで表示されている。値段も書かれているのが嬉しい。単品で注文するより、幾分お得感がある。


「いいわね。めっちゃ美味しそう」


レイナが言った。


「うん、美味しそう。ここで食べよう」


 真由も気に入ったようだ。


「賛成。早く入ろう」


 コウも賛成した。

一口食べてみて四人は、やはり本格的な味だ、ここまで来てよかったと口々に言い、料理に舌鼓を打った。真由は、食事をするときにとても幸せそうな顔をしている。コウはそんな真由の顔を見るのが好きだ。昼食の時間は、よくちらちらと真由の方を見ていた。もちろん気づかれないように。コウは、思い切って真由に言った。


「真由は、ものを食べるとき、すごく嬉しそうな顔をしている」


 真由は一瞬驚いたような顔をしたが、嫌な顔はしていなかった。


「家でも兄貴によく言われる。そんなにおいしいのかって。でも、本当においしいものは、作った人の工夫とか手間とかがわかって、伝わってくるのよね」


 それを聞いた敦也が、感心している。


「凄いなあ。作った人に感謝して食べてるなんて感心だ。俺なんか腹が減ったら、何も考えずに夢中で食べるけどな」


 敦也らしい。コウは突っ込みを入れた。


「そうだろうな。俺は、栄養の事を考えながら食べるけど」


 真由のこんな反応を見るだけでも一緒に来たかいがあった。


「ニコニコしている理由が分かった。手間暇かけて料理を作った人に思いをはせるなんてすごいや」


 レイナが三人に行った。


「何三人でぶつぶつ言ってるの。美味しいものは美味しいの! さあどんどん食べよう!」


 物おじしない大胆さが、レイナの最大の長所だ。四人は、美味しい美味しいと感激しなセットのランチを間食した。


「さあ、食事も終わったし、もう少し歩いてみよう」


 敦也が言い、再び三人は敦也について店を後にした。またしばらく歩くと、中華街も終わり、そのまま海の方へ向かい、山下公園へ出た。そこまで出ると、急に視界が広がり、遠くに大海原が広がり、目の前には遊覧船、遠く桜木町の方向には、横浜コスモワールドの観覧車が見えた。水平線の向こうに白い雲が立ち上り、見慣れた空が大きく見えた。気分も開放的になる。


「あっちに見える遊園地、横浜コスモワールドだよね? 行ってみない?」


 レイナが、好奇心いっぱいの眼をして三人に向かって指さして言った。


「行ってみるか。せっかく来たんだから。乗り物に乗るにはちょっとお金がかかるけど、どうする?」


 敦也が言った。


「せっかく来たんだし、面白そうだ。行ってみよう!」 


 コウも賛成した。


「なかなかここまで来る機会がないから、行ってみようよ! それにすごい高いじゃない」


 真由も、興味津々だ。四人は、そこから中華街の方へ引き返し、みなとみらい線の元町・中華街駅からみなとみらい駅へ向かった。コウは、そこで何が起こるのかわくわくして歩いた。足取りはさらに軽くなっていた


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