二.最弱最強のプレイヤー (一)
「──ふざけないでください」
いつの間にか仁成はシルヴィに詰め寄っていた。
掴みかかりたい衝動を、拳をかたく握りしめることで何とか抑え、彼女を睨みつける。
「答えてください、もしあの暗闇に飲まれていたら衆徒さんはどうなっていましたか」
「キャラクターとして、立派な商品になっていましたよ。見た目も可愛いですし、きっと人気も出たでしょう」
悪びれもせずサラッと話すシルヴィに、再び衝動が込み上げてくる。
「そういうことじゃない! 衆徒さんの意思はどうなるんですか。キャラに成り代わって、それで終わりですか」
「あら、察しがいいじゃないですか」
──ガッと、堪えきれず仁成はシルヴィの胸ぐらを掴んで引っ張った。彼女は少しだけ苦しそうに、そしてなぜか悲しそうにも見える笑みを浮かべている。
「そんなのは──死ぬのと一緒だ! ヘラヘラ笑ってんじゃねえ!」
シルヴィの死に対する感情の希薄さに、怒りが沸き上がるのを抑えきれない。
「はは、すみません。元々こんな顔ですから……」
一粒だけ、シルヴィの目から涙がこぼれ落ちるのが見えた。
その意味を理解しようと考えるより先に「それよりも……」と、シルヴィの浮かべていた悲しげな笑みがスッと消える。
「口の利き方には気をつけたほうがいいですよ」
突き放すような冷たく暗い声を発したかと思うと、突然シルヴィが白く発光し、轟音と共に突風のような衝撃が仁成を襲った。瞬間的に視界が揺らぎ、彼女の胸ぐらから手を離す形で、勢いよく尻もちをつく。
「神納くん!」
理子が悲痛な声を上げる。近づいてこようとする理子に、仁成は片手を開いて大丈夫だとサインを送った。
今のシルヴィには理子を近づけさせたくない。
実際に、先ほどの衝撃波は、音と見た目の割に強い痛みを伴うほどの威力ではなかった。地面に打ち付けた尻のほうがよほどジンジンと痛みを訴えてきている。
シルヴィは乱れた襟を整えながら、仁成を見下す形で話を続けた。
「理子さんだけじゃありません。Regameで戦っている全てのキャラクターは、どこか他の世界から攫ってきた生物ばかりです。もちろん、そのままでは混乱されるだけなので、操作キャラクターに相応しい精神を宿してもらっています。プレイアブル化、とでも言いましょうか」
「なんだよ、それ……」
あの不気味な部屋で、目隠しをされ横たわっていた彼らは、それぞれの世界で生きていた。
そしてこのふざけた世界に連れてこられて、目の前の── シルヴィのような奴らの道楽に付き合うために、都合の良い精神を植え付けられている。
──殺されている。
「……お前はもう、俺のファンじゃない。ただの人殺しだ」
立ち上がり、再び彼女を問い詰めることなく、拒絶する。
言い返すこともせず、ただ俯いているシルヴィの表情は想像もつかない。
「……そんなことより」
少し間を置いてシルヴィは顔をあげると、ナビスケに似た端末を仁成に向かって投げた。
端末は仁成の目の前で静止すると、その画面をパッと光らせる。
「それは……神納さんの大会用の端末です。各項目部分を押せば詳細が確認できます。大会に必要な情報はすべてそこに載っていますので見ておいてください。もし文字が読めなかったら言ってください」
「…………読めない」
「……え?」
「いや、読めないって」
仁成から見た画面には見たことのない文字列が並んでいた。
「……失礼いたしました。少々お待ちください」
軽く動揺した様子で、シルヴィは慌ててナビスケを操作し始めた。
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