一.くそったれで素晴らしいゲームの幕開け (十)
──結局、誤解を解くのと情報の相互確認で、おそらく十五分ほどの時間を仁成は要した。
理子に共有されている情報は、どうやら仁成が異世界に来てから直接見聞きしたものに限られるらしい。つまり仁成の内心や思考までは共有されていないようだった。
「事情は大体分かりましたけど、だからといって私が大会に出る筋合いはないですよね」
当然のように、理子は断固拒否の姿勢である。
「シルヴィさんが助けてくれたことには感謝はしています。でも、こんな意味わからない世界に連れてこられて、お金のためにゲームのキャラクターになって神納くんに操作されるなんて、正直嫌です」
はっきりと拒絶され、言い分は納得はできるのになぜだか無性に仁成はへこんだ。
「えっと、別に神納くんが嫌とか、そういうのじゃなくて、もっと単純に怖いというか。私ゲームのこともよく知らないし……」
様子が顔に出ていたのか、理子が申し訳なさそうにフォローを入れてくれる。
賞金に目が眩んでいた部分は大いにあっただろう。その点、理子のほうがよほど冷静な判断を下せていると思う。
今回のことは忘れて、おとなしくシルヴィに元の世界に戻してもらうほうが、やはりいいのかもしれない。
要もきっと怒っているだろうからフォローもしておこう。
「シルヴィさん。衆徒さんもこう言ってるし、申し訳ないですけど僕も──」
「それはできません」
ピシャリと仁成の言葉を切るように、冷たい声をシルヴィは放った。
「でも、他にキャラクターを買う資金はないんですよね? だったらまた今度、お金貯めて出ましょうよ。その時でしたら僕も協力しますから──」
「それはできません」
またも仁成の言葉を無駄とばかりに遮るよう、反論を許さない口調で告げる。
「……いいえ、ジンさんは絶対に、理子さんと共に今大会に出場する、と言ったほうが正しいでしょうか」
「……どういうことですか?」
「わたし言ったじゃないですか、ジンさんからサインを貰ったときに、契約成立ですね、って」
シルヴィが人差し指を立てると、そのすぐ上にナビスケが舞い降りた。
明るくなったナビスケの画面には、コントローラーに書いたはずのサインが映し出されている。
「これは、Regame公式大会へ参加する際に必要となる契約書です。ジンさんの場合は参加時に、全ての所持キャラクターを使用キャラとして登録するよう申請してあります」
所持キャラが使用キャラとして登録──つまりは理子が自動的に使用キャラになるということだろう。
でも参加する前に辞退してしまえば、
「Regameの大会に辞退というシステムはありません」
思考を先読みするかのようにシルヴィが解説を続ける。
「ですので、もし辞退される場合は不戦敗扱いになり、ジンさんの登録キャラの所有権が全て対戦相手に譲渡されます」
淡々と、恐ろしいルールが告げられる。
「キャラを譲渡されたプレイヤーがとる行動は主に三つです。キャラクターとしてRegameで使用するか、奴隷として別の用途で使用するか、不要と判断し処分するか──そう言えば、わたしたちがこちらに来て見てた死合後も、スライムのグリードが処分されていましたね」
緑の怪物がボンッと爆発し消滅する映像が、脳裏に復元される。
演出かと見紛うほどの、あまりにも軽い、死。
情報を共有した理子は、自分を庇うように両手で体をきつく抱きしめ、恐怖で震えていた。
「Regameに参加するプレイヤーは、キャラクターを物としか見ていない方がほとんどです。もしジンさんが辞退されれば、理子さんもどうなるか分かりません」
嘲笑するように説明するシルヴィが仁成にとっては不快だった。
「ああ、そうそう──」
そんな仁成にとどめを刺すかのように、銀髪の女が口を軽く開く。
「──この世界に理子さんを連れてきたのは、私です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます