正夢

何故だろう。今、俺の腹は空腹を訴えてこない。


あの言い合いから三日。何も食わなかった。


なのに、俺の腹は今、何も、欲さない。




あれからギルド長とは一言も言葉を交わしていない。


話しかけても、互いに不快になるだけとわかっているから。




「み、ず...。」




体はもうあまり動かない。


喉は乾いて掠れた声しかでない。




その時、外から声が聞こえた。




「で、アデル君はどうですかな?」


どこかで聞き覚えのある声だ。




「ダメだ。あいつはSSランクの魔物を1人で狩る強者だ。


だが、強情だ。頑なに自身の正当性を主張してくる。


あれじゃあ仲間との連携などできるはずがない。


そして、そんなやつは仲間に入れたくない。」




「そうですか。ま、モーリーを倒したというのも、


他の人が倒したのを掻っ攫ってきただけかもしれませんからね。やはり彼には神の裁きが必要ですね。


アデル君を頂戴しますよ。」




「ああ、持ってってくれ。」




なんだ?どいうことだ?仲間との連携?仲間に入れたくない?


神の裁き?俺を頂戴する?


なんの栄養も届かない脳は、一切回転せず、




「おやおや、すっかりみすぼらしい姿になりましたねアデル君。」




その人物、俺に祝福の儀式で才能が無いと告げた神父の接近を


易々と許した。




なんで、こいつがここにいる?




こいつは、教会にいなきゃならない人間だろ?




「さあ、アデル君。行きましょうか。」




「どごに、つれて、ぐきだ。」


声を振り絞る。




「みんなが幸せになれるところです。当然、君も幸せになれますよ。」




幸せ?このクソみたいな仕打ちをしてくる状況を壊せるのか?


俺が、あの村で体験できたことをもう一度味わえるのか?




「どうやら、異論は無いようですね。」


「ギルド長、それでは。」




「あ、ああ。」




俺は神父に担がれ冒険者ギルドを出た。


ぼんやりとした視界が薄っぺらい情報を脳に送ってくる。


それだけでも、頭が痛くなる。


俺は────








「ワアアアアアア」




?なんでこんなに騒がしいんだ?そして、なんでこんなに寒いんだ?なんで、手足を自由に動かせないんだ?




瞼を、少し持ち上げる。


映るのは、カラフルな棒の集合体。




なんだ、あれは?




何も分からない。




「さて、皆様。本日はお忙しい中お越しくださり、感謝します。


本日集まって頂いたのは他でもない、神敵の処罰の瞬間を見ていただくためです。」




「ワアアアアアア」




処罰...?




「彼!アデル君には、神からの祝福、『才能』がありませんでした!この世界では、才能のない人間に価値はありません!


しかし、アデル君には、一つだけ価値があります。


それは、皆さんの娯楽という価値です。


今から行われる行為を、皆さん楽しみましょう。


それが、アデル君の存在価値です。


我々が、アデル君に存在する価値を与えるのです。」




神父の拡声器を使った演説が終わり、神父が俺のもとにくる。




「君が死ぬ事でみんな幸せになる。君は死ぬ事でこの世界から解放される。ね?みんな幸せになれるでしょう?」




狂ってやがる。




「司祭、真槍に魔力を。」




「は。真槍を出せ。」




俺の目の前に黒い何かが浮かんでくる。この黒い何かが真槍なのだろう。




「魔力を注げー。」




次第にそれは金色に輝き、俺の視界全てを光で埋めつくした。




「アデル君。君は不幸な少年だった。


私が今、その不幸を取り払ってあげよう。」




「準備、完了しました。いつでも撃てます。」




「わかりました。アデル君。最後だ、何か言いたい事はあるかい?」




そうか、これ、前の夢の様子にそっくりなんだ。


なら、俺はもう真槍とやらに貫かれて死ぬ。


それなら、どんなこと言ってもいいよな...。




「ギャーギャー騒いでろクズ共。俺がお前らを絶望させるまでな。神父、てめえも同じだ。俺がここで死んでも絶対に生まれ変わってお前を殺す。それまで精々楽しく生きろ。」


獰猛に嗤って言いたいことを吐き出す。




「ふふふ、命乞いをするかと思いきや、暴言、その上殺害宣言ですか。君は本当に可哀想だ。私にそのような言葉を吐かなければ楽に死ねたものを...。


まずは、その手首と足首に穴を穿ちます。


次に体の先からゆっくりと少しづつ穴を開けていきます。


そして最後に額に大穴を開けましょう。


それでどこまで生きていられますかね?


『真槍・レイスター』!」




光は、更に強くなり、俺の体に急接近してきた。


周囲の風を斬る音が、どこを狙っているのか伝えてくる。




狙いは右手首。でも、狙いがわかっても何ができる?


真槍は狙いそのまま俺の手首に風穴を───




「異式・練鎧いしき・れんがい、異剣・空刀いけん・くうとう」




ギィン




「アデル君、無事か!」




開けなかった。

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