絶望の未来へ
「火事だ!」
結婚から一月後、森に大規模な火災が発生した。
「うーむ、どうしたもんかのう。」
爺さんが、唸っていた。
火の手は村の人達が用意していた逃走ルートを尽く潰し、
俺達に死の選択を強制してくる。
「アデル、生きたいか?」
突然、爺さんが聞いてきた。
「生きたい。」
チヅルとまだいたい。
「ガハハハ、よし、じゃあ動きは決定じゃ。」
爺さんは覚悟を決めた瞳で俺の目を見た。
「皆!よく聞け!今から1つの行動を伝える。
アデルとチヅルこの2人をこの村の者全員で森の外に出す!」
みんなに動揺が走った。それもそうだろう。だって、
俺達しか、生き延びることが出来ないと言われているからだ。
「そ、村長、俺の息子はダメですか?」
「私の子は?」
「うちの娘はなんでダメなんだ?」
村の人達が次々に自分の息子も助けてと懇願する。
それを爺さんは
「これは、逃げる者自身の能力で成功率が大きく変わる。
主らの子はこの二人を超える身体能力をもっておるのか?」
一蹴した。
「アデル、お主には最後まで頼りきりじゃったのう。」
突然爺さんがそんなことを言い始めた。
俺は嫌な予感がした。
だから、
「それは、この森をでて、また会ったら聞かせてもらう。」
そう言って集中力を高める作業に入った。
「そうか...。では、また会った時じゃな。」
「アデル。1つ私から言わせろ。死ぬな。絶対に森の外で合流しよう。」
いつにも増して覇気が溢れてる。でも、それは美しくもあって。
「ああ」
俺は恥ずかしくてろくな返事ができなかった。
「皆!よいな!最優先でアデルとチヅルの安全確保じゃぞ!
行くぞ!!」
村の出入口にはまだ火がまわっていなかった。
その後の光景は、見ていられるようなものでは無かった。
火炙りにされた者、魔物に殺された者、木に圧殺された者、
一人、二人と減っていく。
死にたくないと叫び、蹲り、火の手にかかった者もいた。
あたりは焦げた臭いで充満した。
チヅル、チヅルは、あっちの方は大丈夫なのか?
今俺達は別々に行動している。行動人数は少ない方が森では便利だからだ。
この惨状を見る限り、いくら俺より強いチヅルでも、絶対に安全では無い。
そんな考えをしていた時、俺についてきていた人が全員いなくなっていることに気づいた。
「嘘...だろ?」
背後に漂うただただ静かな空気。
さざ波のようにけれど確かに不安と恐怖が押し寄せてくる。
そして、それがピークに達した時、最悪な事態は起こった。
「ガゥ?」
人間が指定した人類危機ランク最上位のSSに位置する化け物、
暴食の名を冠するモーリー。
グリズリーと同様、熊型の魔物だが、総合能力、知能、凶暴性全てにおいて熊型の魔物の中で最高の能力を持つ。
さらに体色が緑なため森でさらっとみてもわかることはない。
まずい...この状況じゃなにも出来ない。
あたりは完全に火に塞がれ、その火の輪の中には俺とモーリーしかいない。
絶対絶命...か。いや、生きてまた会うって約束したもんな。
「俺は、死なねえからな?」
だから...
「おい、待てその口元はなんだ...?」
声が震える。なんとか声を振り絞って問う。
「なんだその爪にあるのは!」
モーリーは答えない。
モーリーの爪にあるのは何者かの肉片。口に付着しているのは大量の血液。
この森で、あの量の血液を取れるのは...チヅル達の方か...。
「チヅルを殺したのか...?」
悲しみより先に、怒りと殺意が湧いてくる。
やはり、モーリーは答えない。
また、奪われた。今度は、俺が、大切にしたいと心から思ったものだ。
ゆっくりとモーリーが近づいてくる。
「チヅル...。」
1ヶ月の生活の記憶が蘇ってくる。
あの顔をもう見れないのか...。
俺も死んだら会えるかな?
殺意も消えた、怒りも消えた。代わりに心を支配したのは諦めだった。
「さあ、殺せよ」
大の字に寝転ぶ。
「こんな世界に、生きている意味なんて「あるでしょ」ない。」
声が割り込んできた。
声の方を向く。
「チ、ヅル...?」
そこにいたのは右腕を肩から抉り取られ、全身を真っ赤にしたチヅルだった。
「アデルは、私だけじゃ生きる理由にならないの?」
「いきてるの...?」
「ええ、なんとか、ね。アデル!!」
「くぅ!」
会話に夢中になりすぎてた。攻撃に反応できてよかった...。
「アデル、逃げて。」
チヅルが寄ってくる。
「嫌だ。」
「なんで!?私でも敵わなかったのよ!?」
「だから、何?」
「俺にだけ生きろってこと?勝ち目がない勝負を捨てて、チヅルを見捨てて、生きろって?」
「そうよ。アデルだけでも逃げて。」
「わかった。もう一度言う嫌だ。」
俺はそう言ってモーリーに向き合う。
「〜〜。頑固過ぎ!」
そう言いながらチヅルもモーリーに向かう。
半死半生のチヅル、戦力としてはほぼ使えない俺。
勝利は絶望的。でも、戦わなければ勝てない。生きていけない!
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