俺まだ十歳なのに...

翌日、翌々日、騎士や冒険者が来ることは無かった。


あの事から3日後、俺はまだ村で生活している。


なんでも、村には戦力になる人が全然いないらしく、


俺の様に初日から爺さんの訓練に耐えれた運動神経のいい戦力になれそうな人材は貴重なのだとか。




俺の報告でみんなを不安にしたのにそれを許してくれる。


俺はいい村を見つけたのかもしれない。




そんな風に思っていた矢先、爺さんからとんでもない質問がとんでくる。




「アデル、チヅルのこと、どう思っとる?」




「ぶふっ」


口に含んでいた水を盛大に吹き出す。


「じ、爺さん急に何言ってんだ?」




「いやのう。今この村は子供が結構いるからいいんじゃが


将来のことを考えるとまだまだ子供が欲しいわけなんじゃよ。」




「まさか俺にチヅルと結婚しろと...?」




「そうじゃ」


満面の笑みでこちらを見てくる。


「嫌かのう。」




「いや、嫌とかじゃないけどほら、結婚ってこの歳じゃできないだろ?それにチヅルも嫌がるだろうし。」


思いつく限りできない理由をあげていく。




「ん?貴族とかならその歳で結婚なんてざらじゃぞ?


それに、チヅルにはもう許可をとっておる。」




「へ?」


顔が熱くなるのを感じた。




「じゃからアデルが良ければすぐに結婚できるぞ?」


ニタニタと笑ってくる。




チヅルと...。あんな可愛い娘が、俺の...。




俺の顔を見て何かを察したのか、爺さんは急に立ち上がり


「先方さんにつたえてくるわ」


そう言い残し去っていった。




残された俺の頬は自分では気づかない程朱く染まっていたらしい。






そして、翌日。村の広場で、盛大に式が開かれた。




「俺は、チヅルの事を何があっても手放さないと誓う。


何があっても俺の命が続く限り、愛し続けるから。


その代わり、俺の事を守ってくれないか?」


男がそんなこといってんじゃねえと言われるような言葉を相手、チヅルにかける。




「当然。私の方が強いのだからな。守るのは当然だ。


そして、その...あの...あ、あい、愛し続けるのも...」




「では、キスでもしてみようかの。」


式をとりしきっている爺さんが余計なことをねじ込んできやがった。




「お「私じゃ、嫌?」い...」




あの男勝りなチヅルが頬を軽く上気させ、上目遣いで言ってくる。




その表情に俺の理性は一時的に吹っ飛んだ。


やわらかそうな薄い桜色の唇に吸い寄せられるように自分のをつける。左腕を腰に回し、右腕は肩を抱き、その姿勢をずっと保つ。




「んんんん」


チヅルが体を動かす。


キュ


さらに強く抱きしめる。




「ん、はっ!」


理性が戻ってくる。


「俺、今、何してた?」


蕩けた顔で唇に手を当てるチヅルに、問いかける。


俺の理性が吹き飛びそうなのを必死に堪えている。




「お、おう。わ、わかったから。お前さんらの愛は深いってことがわかったから!ああもう閉式じゃ!さあ帰った帰った!」




爺さんが閉式を宣言し、去っていく。周りで大勢の気配が動いている気がするが気にならない。




未だ返答のないチヅルに、俺の全意識は奪われている。


ゆっくりとチヅルが近づいてくる。




「アデル...愛してる」


そう言ってチヅルはもう一度キスをして、広場を去った。






そのあと俺は、爺さんの家に帰った。




そこまでは良いものの、爺さんの家にはチヅルがいて。


顔を合わせた瞬間、俺は外へ猛ダッシュした。




「はぁ、はぁ、なんでいるんだ?」


心臓の鼓動がうるさい。走った影響なのかチヅルの顔を見たからなのか分からないがとにかくうるさい。




「アデル。」


ふと、後ろから名前を呼ばれる。


聞き覚えのある、好きな声。背後に、チヅルがたっていた。




「こっち見ないで!」


頬を叩かれ背後を向かされる。


そして背中に、声がかけられる。


「私ね不安なんだ。」


いつもの、チヅルの声じゃ、ない?


「いつも男勝りな態度とって、偉そうにしてる。そんな私なんかを好きになってくれる人なんているわけないから、一生1人なんだって。でも、今日アデルが好きって言ってくれた。すごく嬉しかった。でも、こころのどこかで本当はただ言わされただけなんじゃないかって思っちゃってるの。やっぱり私を好きになってくれる人なんていないんじゃないかって。」




「チヅル。」


「──ッ!」


優しく体を包み込むように抱きしめる。


いつものチヅルなら腹パンかまして顔を刈られる位覚悟しなきゃだが今は大人しく、何もされない。


「俺は、お前のことを出会った時から可愛いなと思ってた。


いつも訓練であって話す度に、会話が楽しくなって、一緒にいると幸せで2人きりなんてなったら心臓が爆発しそうなくらい幸せだ。この気持ちに名前をつけるとしたら、好き以外ないんだ。


俺は、チヅル、お前のことが好きなんだ。」




「...バカ...。」




「うん、やっぱり可愛いよチヅルは。ぐぇ」


最後に首締められました。


でも、収穫だ。チヅルには恋愛系の話をすると急に汐らしくなり、可愛さが天元突破する。






次の日から、俺の日常に、チヅルが増えた。訓練の時も、休憩の時も食事の時も寝る時も。




幸せな時間が増えた。


家族は増えてない。というかまだそんな歳じゃない。




そうして、ひと月がたった時、幸せな時間は、崩壊した。

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