危機回避
その重装備で固められた集団は何の迷いもなくこちらへ向かってくる。周囲の統一されていない人達はあたりをじっくり観察しているのか進む足は遅かった。
「これは、早く爺さんに知らせねえと。」
俺は全力で爺さんのもとへ向かった。木からは飛び降り、
骨かなりの衝撃がくるもそれを無視し、疲労困憊の体を駆使して、最速で爺さんのもとへたどり着く。
「爺さん!大変だ!」
「お、早かったの。で、どうした?アデル」
「森の入口みたいな所に騎士と冒険者が来てる。」
「それは本当か?」
「木の上から確認した。少なくともやつらが森に入ってくるのは確実だ。」
そう報告すると爺さんは思案顔になり、
「一旦村に戻るとするか。」
そういった。
「な、師匠!攻めなくていいのですか!?」
チヅルはその決定に異議があるみたいだ。自分の強さに自信を持っているのだろう。闘志がこちらまで伝わってくる。
「儂ら3人で何ができる。返り討ちにあって終いじゃ。」
が、それを爺さんは現実を突きつけることで収める。
「もう一度言う。戻るぞ。」
「「はい。」」
「皆、聞け!」
爺さんが吠えた。おそらく村の中全てに届くような声だ。
「今!この森に騎士や冒険者が迫ってきておる!万一の場合に備えて逃走の準備をしておけ!以上だ!」
近くで聞いた俺の耳が痛い...。
ポン
肩に手が乗せられる。その手の主は
「では、見張りの方頼んだぞ」
そう言って風の様に去っていった。
残されたのはチヅルと俺。
「チヅル、お前の家は大丈夫なのか?」
「私の家か家族が全てやってくれるだろう。」
人任せかよ...。
「ふーん。じゃ、見張りするぞ。」
「おう」
「下ろせ!下ろしてくれ!頼むー!」
チヅルがさっきから叫びっぱなしだ。ここは、まだ木の中間くらいの高さだというのに。
俺は今、チヅルを背負って木登り中だ。どうやら木登りが苦手のうえ、高いところがダメらしい。普段の敬語はどこ行ったと言いたいくらい恐怖で口調が崩れている。
そんな声を無視し続け、木の頂上に登りきる。
そして、監視対象を見つける。
「あいつら、なにやってんだ?」
騎士達は川沿いの道で抜剣し方円の陣を作り、ゆっくりと進んでいる。冒険者達は草むらの中を歩き、常に周囲を警戒している。
「あ、アデル...。」
なんだあいつら、なんであそこで警戒体制を敷いてるんだ?
しかもあそこって何か見覚えあると思ったら俺が2日過ごした場所じゃねえか。
「もしかしてあいつら、俺の後を追っているのか?」
「アデル...」
ん?そう言えばあそこにグリズリーがいたっけ。
頭に1つの仮説が閃く。限りなく現実に近い仮説が。
「あ、アデルー!」
「うるさいなぁ。静かにしてくれないか、今この状況をってチヅル!?」
チヅルは、枝になんとか指がかかった状態だった。
でも、その指は今にも離れそうで...。
それを見た瞬間、手を伸ばす。直後、チヅルの指が枝を離れる。
「チヅル!」
体を乗り出し!遠ざかって行くチヅルの手をしっかりと掴む。
良かったと思ったのも束の間。俺の体を浮遊感が襲い始める。
そんな状況の中、俺の頭は正確にこれから起こることの原因を分析していた。
つい最近筋トレをし始めた俺とそれよりはるか前に筋トレを開始していたチヅル。どちらが重いかはっきりわかるだろう。
「え?」
どちらの口から漏れた声だっただろうか。
風にその声はさらわれていった。
「いててて。チヅル、大、丈...夫?」
俺はあの後空中でチヅルとの場所を入れ替え、俺が下敷きになる形で地面に衝突した。
だから当然チヅルの位置は俺の真上になるわけで...。
眼前、お互いの吐息がかかる距離にチヅルの顔があった。
少し潤んだパッチリと開かれた目、薄らと紅潮した頬。
それ以降は見れず目を逸らした。
「あ、あ、あ、あで、アデルー!!」
パアン!
俺の頬とビンタが快音をならした。
「なるほど。つまり、そいつらは私達の村を襲うためではなくそのグリズリーを倒したやつを倒しに来たと。」
「ああ、多分そうだと思う。」
現状、それしか思いつかない。
「ただ、まだ警戒だけはしておこう。」
「...わかった。」
その日、やつらからの攻撃はなかった。
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