目的
食料を奪われた。
でも、取り返すだけの力がない。
だからといって新しい食料を手に入れる力もない。
「なんで、俺のものを何もかもとっていくんだ?」
バルカス領では領主の息子という立場と誇りを
今ここでは食料。
どれも、俺にとって大切なものを奪われた。
力がないと、何もできない。
この世界は、才能が全ての力の指標だ。
だから、才能が貰えなかった俺は、この世界で最弱。
俺は、ただ奪われるだけの存在。
世界に存在する意味がひとつもない存在。
いや、違う。
執事のメイビスが言っていた。
人はみんな平等だと。
死んでいいものなど存在しないのだと。
ならば俺は生きていてもいい存在。
奪われる存在ではなく、他のみんなと対等な存在。
世界に存在する理由は他者から与えられる。
これが、本来の世界の在り方だ。
弱肉強食。そんな世界は不平等だ。
才能が貰えなかったから殺される。そんな世界は理不尽だ。
貰った才能で未来まで決められる。そんな世界は自由の欠片もない。
この世界は間違ってる。
誰かがこの世界を変えなきゃいけない。正しい世界へと。
「やるのは、俺だ。」
世界に、神に見放された。だから、それらを全部壊して、
俺が新しい世界と神を作り上げる。
だからまずは力をつけなきゃいけない。
俺が考えた方法は筋トレだ。
才能がないなら体を鍛えることがもっともいいと考えた。
「ぜぇぜぇぜぇ」
始めてからかれこれ3,4時間。
全身の筋肉を破壊し尽くした俺はうつ伏せの状態から動けなくなっていた。
「お腹空いた...。」
エネルギーを消費した体がエネルギーを補給しようとするが、そこで俺は気付く。
食料、用意してたっけ?
その日、俺は水以外何も胃に入らなかった。
「痛い...。」
昨日の筋トレでバッキバキになった体を強引に動かし、
昨日と同じ筋トレを始める。
肉類を何も食っていないせいで筋肉の回復も遅い。
結果、昨日と同じメニューをこなすのに倍の時間がかかった。
「流石にこれ以上は、限...界...。」
ドサッ
空腹も、疲労も限界に達し力尽きて倒れた。
ガヤガヤガヤ
周りがうるさい...?目を開けた時、強烈な光が目を貫いた。
徐々に視界が戻り、辺りを見る。
「どこだ、ここ。」
周囲には観客席に座った無数の人。すぐ横にはあの神父。
「あなたの死に場所ですよ。」
神父がそう言う。
「どういうことだ!なんで俺はこんな所にこんな状態でいる!」
俺は今磔の状態だった。
「何故ってそれはもう1つしか無いでしょう。」
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。
只今より、才能を貰えなかった少年アデル君の公開虐殺を始めます。」
「なっ!」
虐殺?なんで?才能がないから。それだけで?
「ご存知の通り、アデル君には神の寵愛がありませんでした。つまりそれは我々の神、メルク様の敵ということです。
メルク様の敵は、我らが敵。」
ふざけるな、神に何も与えられなかったからといって殺して言い訳がない。
「お前ら!1人の人間を殺そうとしてるんだぞ!!心が痛まないのか!」
全力で叫ぶ。生きるために。
「何を言っているのですか。才能がないということは即ち人間ではないということなのですよ。」
何を、こいつは言っている?
「人間以外の存在を殺して何故心を痛めなければならないのですか?」
「俺は、」
「あなたはラビーや、アントルを殺して、心が痛みますか?
痛みませんよね?それと同じですよ。弱いから、殺される。
弱いから、殺されても仕方ない。弱いから、生きている価値がないから、殺しても誰も心を痛めない。」
「それは!」
「うるさいですね、アーメルデ司祭、始めてください。」
「分かりました。」
俺の手足の拘束がきつく締まる。
そして、眼前の神父の頭上に、光の巨大な槍が出来上がる。
「これが、神の裁きです。」
その神父の声でそれは高速回転し、俺の胸を食い破っていった。
「ああああああああ!!」
叫ぶ。
「生き、てる?」
そこはさっきまで俺がいた森だった。
「夢か...。」
未だに息は荒い。
やっぱり、この世界は狂ってる。
あれが俺の創り出した幻想の可能性もあるが、
捕まったらあれは現実になる気がする。
俺は、世界を変えなきゃ、生きられない。
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