切実な食料問題

出たのは、また森の中だった。


ただ、圧倒的に違うのは、明るいという点だった。


バルカス邸のような魔法で創り出された光ではい。


自然の、ソールの光だ。




「逃げきれた...か。」


それにしても、寝れないとこんなに体がだるくなるのか。


体が重い。頭が回らない。




「水...探そう。」




幸い、近くには綺麗な川があった。


そこで顔を洗い、水分補給をした。




「ふう。さて、ここからどうするか。」


川辺に座り、考え込む。




まずバルカス領には現状近ずかないほうがいい。


メルク教徒との接触もできる限り避けた方がいいだろう。


できるかどうかは別として。




次に、すぐ側にあるラルク領に入るかどうか。


あまり入るべきではないだろう。


あの神父が伝えてないとも限らないし。




じゃあ、衣食住はどうする?


しまった。何も考えていなかった。




「飲み水はこれでいいとしても」


服はボロボロで泥だらけ。雨をしのぐようなものもない。


その上食料は行商人から買うにしても金がなく、


狩りをしようにも才能がないからちゃんと戦えない。




「これは、詰みってことか...?」


折角あの悪意に満ちた領地を抜けてきたのに、


生きるための物資がなくてここで死ぬのか?




嫌だ。俺は生きたい。どんな手を使ってでも。




その後、俺は血眼になって食料を探した。






夜。食料探しのついでに集めていた枝で焚き火をつくる。


火は、可燃石という発火作用のある石を使って起こす。




今日の食料はどうしても火が必要だったから。




今日は、何故か心臓部分だけをくり抜かれて死んでいた


熊型の魔獣グリズリーだ。




流石に何日放置されたかわからないものを口に入れるのは気が進まないが生きる為だと強引に納得する。


肉をとり、火にかける。これだけでも生で食べるよりは


マシになるはずだ。




「まずい。」


でも、食べる。血抜きされてない為、グリズリーの血液が


流れてくる。これも、飲む。


食えるものは食い、飲めるものは飲む。




生きるために、必死に食らう。






「もう、食べたくない。」


胃の限界だ。これ以上は吐き戻してしまう。




残ったグリズリーの体を草むらの中へ隠し、俺は木の上に登る。


小さい頃から木登りが好きでよく登っていたから木登りは得意だった。




木から出ている枝の最も太い枝の根に腰を下ろす。


遠くの空ではルーナが光り、その周囲にも無数の小さな光が溢れている。




その少し離れた場所に、1つ弱々しい光を放つものがあるのを見て、俺は目を逸らした。






翌朝、下が騒がしくなっているのに気づいた。


即座に目を覚まし、できるだけ気配を消す。




下にいたのは赤鎧に身を包んだ男と黒いマントに体を包んだ小柄な女、白いローブを纏った女、大盾を持った男だった。




「あんたたち、どう思う?」




「報告するべきだろう。」


「右に同じ」


「...(こくん)」




ん?なんだ、何を報告する気なんだ?まさか、俺に気づいたのか!?


だとしたらまずい。


見たところあの4人は冒険者だ。


領騎士のような数で押してくる敵ではなく、


個々の飛び抜けた能力と圧倒的な連携で追い詰めてくる敵。




それに、冒険者は常に命懸けだ。どんな雑魚にも手を抜かず、全力で叩き潰しにくる。


領騎士のようにゆっくり俺を追い詰めるなんてことはしてこないはずだ。


逃げれるとは到底思えない。




「じゃあ、持って帰るわよ。」


「おう。」




くっここまでだ、一か八かで逃げてや...る?


おかしい、この木に来ない。


どころか、草むらをかき分けてる?




そいつらが運んできたものに俺は目を剥いた。


それは、俺の大切な食料、グリズリーだったのだ。


「お、....」


俺の食料をとるなといいかけて口を閉じる。


いや、あの4人は俺に気づいてないんだ、わざわざ俺の場所を教える必要は無い。


それに、今あいつらの前に出ていったら簡単に八つ裂きにされちまう。




俺は、連れ去られていく食料グリズリーを眺めることしかできなかった。




「俺はこれから何を食えばいいんだよ...」

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