森の中の逃走劇
「はぁはぁはぁ。まいた...か?」
未だ夜の更けない森の中だ息をつく。
「ソウの言ったことは本当だったのか...。」
それよりも、
「なんだったんだ、父さんが言っていたあの様々な出来事は。」
俺の身に覚えはない。でも、父さんは俺がやったと決めつける。
「誰かに騙されてるはずだ。でも、あの父さんが?」
バルカス家は元々傭兵の家系だ。
当然、傭兵になるにも戦闘系の才能がなければいけない。
バルカス家は、今の父の代まで全員拳の才能を貰っていたらしい。
そんな傭兵の一族だったバルカス家の人間がそんな簡単に
騙されるわけが無い。
じゃあ、父さんは...
「俺を、陥れる為に誰かの話にのったのか?」
「見つけたぞ!」
いつの間にかすぐそこまで領騎士達が来ていた。
「諦めてなかったのか!」
また全力で走る。が、10歳の子供と大人。
どちらが速いかなどわかりきっている。
「へへへ、どこ行くのかな?アデルく〜ん」
すぐ後ろから全身に鳥肌を立たせるほど嫌悪を抱く声が聞こえる。
「クソッ」
倒木を乗り越え、木々の合間を縫うように走破する。
が、
撒けない!
「待ってよアデルく〜ん?」
距離が詰まってる。領騎士の吐息が首筋にかかる。
嫌悪感に顔を歪ませながらも走る。
「あーもういいや。」
突然、後ろの雰囲気が変わった。追い詰めるような、
強者が弱者を嘲笑うような感じがなくなった。
代わりにでてきたのは、この歳でもはっきりとわかる程の殺気。
それを感じ取った直後、銀閃が弧を描く。
反射的にそれを回避するも、受け身もとれず地に落ちる。
「くっお前もか、お前も俺を殺そうとするのか。」
「当たり前だろ?『才能』を貰えなかった人間は神の敵。
そしてその神を信仰する俺らの敵だ。」
誰もが、俺に死を強制してくる。
「大人しく死んどけ。お前はこの世界じゃ生きられない。」
その理由は全て同じ。『才能』がないから。
何故、才能がないと死ななければならないのか。
何故、才能がないからといって濡れ衣を着せるのか。
何故、才能がないからといって虐げられなければならないのか。
そして、何故神は俺に、何の才能もくれなかったのか!
「この世界じゃ生きられないなら。死ぬしかないのか?」
「そうだ。」
嘘だ。もうひとつ方法がある。
「もうひとつあるだろ。」
「?いや、ない。」
「この世界を、変えればいい。」
「な、貴様、その言葉が何を示すか知っているのか!
国家転覆罪などでは済まされないぞ!
世界中を敵に回すんだぞ!?正気の沙汰か!」
「おいおい、メルク教は世界中で広まっている。
メルク教を相手にするのも世界を相手にするのも大して変わんないだろ。」
領主の息子の話し方から、傭兵の話し方へ変わっていく。
考えを正すのではなく挑発するように変わっていく。
「才能を貰えなかったお前が、世界を相手にして戦える訳がないだろう!」
「確かに、才能を貰ったやつらに俺は手も足も出ないだろう。だがな、結局最後は殺されるんだ!この憎い世界を潰すように動いたって構わないだろ!」
領騎士を睨みつける。
「そうか!ならばここで死ね!」
領騎士が踏み込んでくる。
「どちらにせよ、殺すつもりだっただろうが!」
思いっきり横に跳び、また森の中での鬼ごっこを開始する。
が、それは上手くいかないみたいだった。
光が、俺のいる地点を囲むように円をつくる。
他の領騎士が着いたようだ。
あと、もう少し早ければ。いや、そんなことは関係ない。
今はこの状況を打開する策を。
と思考を回す中、俺はあることに気づいた。
ここ、見覚えがある。確か...
ズボッ
突然地面の感覚がなくなり、俺は落下する。
声がでないように手を口で押さえ、穴の底に足をつく。
上を見上げて、ここがどこか理解する。
「ここは、避難路かな?」
バルカス領の家の敷地内に人数分必ず設置するよう義務付けられている他の領地への避難経路だ。
その道はいつも穴で塞がれ、誰かが避難経路を使ったとしても
穴が開きっぱなしになることはない。
「もしここが避難路なら...あった。」
近くの領地付近への脱出ルートが。
上では足音がドタバタと聞こえる。見つかるのも時間の問題だろう。
早く行こう。俺はまだ、死にたくない。
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