もしかして、俺のことしらない?

力。それを得るために何をすべきか。


やはりそこが一番重要だろう。


今、筋トレを日課としているが、何も食えない状態では


ただのエネルギー消費と体の破壊でしかない。


現に、俺は今全身が筋肉痛を超える痛みに侵され、立つこともままならない状態だ。




やっぱり、才能がないとダメなのか?


強くなれないのか?


どんなに頑張っても、才能に努力は勝てないのか?




じゃあ、どんなに頑張って必死に生きても、意味無いんじゃ...。




そんな結論に至った時、声が聞こえてきた。




その声に釣られるように声の発生場所へと向かう。




いた。草むらに隠れて様子を見る。




「ほれほれ、そんなもんか?」




「く、たあああ!はぁ!」


そこにいたのは道衣と呼ばれる服を着た80代くらいの老爺と、


俺と同じくらいの歳の女の子だった。




戦闘訓練なのか、女の子が果敢に攻め、それを老爺が躱し、反撃、それを女の子がまた返すといった状態だった。




どちらの動きも、かなり洗練されていて、体術の才能を得ているように見えた。




「よし、チヅル。休憩じゃ。」




「分かりました。」




互いに礼をし、離れていく。




なんだったんだ?と疑問に思っていると


「お前さん、そこで何してる?」


背後から、さっきの老爺の声が飛んできた。


感じた覚えのある異様な空気を纏って。




「俺はあなた達を見ていただけで、何もしていません。」


我ながらよく言えたなと思えるほど綺麗な返答がこの状況下で言えた。




「ほう、儂らを見ておった、か。」


後ろで気配が緩む。


「お前さん、名は?」




「アデルです。」


ここも正直に答える。




「貴族か?」




「一応そうです。」


そう答えた直後、緩まりかけていた気配が殺気に変わり、


一陣の風と共に俺の体を覆った。




「チヅル!バレた!場所を変える!村の皆にも伝えろ!」




「ふがっ、ふがふが」


口元を手で覆われ声が出せない。




「貴族。儂らを見ていた。偵察じゃな?」




「ふがふが?(なに?)」


何を言っているんだ?




「まだ儂の年の半分も生きていないものを殺すのは心が痛むが、これも儂らの一族の為じゃ。」




「ふざけるな!」


必死に動き回り、手をどける。


「俺が何をした!」


こいつは俺が才能なしだということを知らない。


殺すのは一族の為と言っているからな。


でも、その理由は知っておきたい。


もしかしたら全然どうでもいいことで殺されるかもしれないのだから。




「お主、貴族側の偵察じゃろ?」


至って真面目に老爺は聞いてくる。


「偵察?貴族側?」




「とぼけても無駄じゃ。」




「待て、俺とお前の話は絶対に噛み合ってない。まず言わせてくれ。俺は貴族だが貴族ではない。」




「貴族であって貴族でない?」




「そうだ。俺は貴族の家に生まれたがその家から勘当された。」




「つまり貴族側との繋がりはないのか?」




「ああ、というかまずその貴族側ってのが気になるんだが。」




「ふむ。どうやら本当らしいのう。すまんな。」




どうやらわかってくれたみたいだ。


意外と頭は柔らかいのかもしれない。




「ああ、で、貴族側ってのを説明してくれないか?」


俺がさっきの会話で1番気になった言葉だ。




「まあ焦るな。まずはそのボロボロの体と服を綺麗にするがいい。ついてこい。」


そういって老爺は森の奥?へと歩いていく。


俺は多少怪しがりながらも歩いていこうとするが、倒れる。


しまった。筋肉痛なんだった...。




俺が倒れた音に老爺が振り返り、「ほう」といいながら戻ってきた。




「なんだよ...。」


戻ってきた老爺に言葉を投げる。




「ほほほほ、助けが必要なら言えばいいものを。」


老爺はそう言って俺の体を背負った。


そしてそのまま、俺を連れていこうとしていた場所へと歩いていく。




規則性のなかった木々が、次第に並列に並ぶようになり、


1つの光への道を作り出す。


老爺はその光の中へ、なんの迷いもなく踏み込んで行った。

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