頭に渦巻く情報たち

「グアアア!」

「いい気味いい気味。って悪者ならいいそうね」

 電流のような感覚が頭を貫いた。

 一瞬で痛みを感じたわけではなかった。

 しかし、押し寄せてくる言葉の数々が心をえぐった。

 上の方の腹がキューッと冷えてくるような感覚に思わず腹を抱えてその場に座り込んだ。

「でも、この世の全てを受け入れられるなんて大口をたたくからそうなるのよ」

 波のような情報の中で流されてしまい話していたはずの目の前の女性の名前すらも思い出すことができない。こうして思考をまとめようとしている間にも止めどなく体の中に入ってくるデータを止める術を自分は持っていなかった。

「ガアアア!」

 できるのはただの絶叫。

 そんななかでも幸いというべきか不幸というべきか痛みが全く無いことが自分と意識を分離することを許さない。

 どれだけの事を強制的に知らされても不安は消えなかった。自分は不安を取り払うためにこの世の全てを取り込もうとしたのだ。それなのにどれだけ取り込もうとも不安は消えないどころかますます増えていく。分かっていくこれからの可能性、これまでの失敗、すべき対策に自分は無力だということを思い知らされるばかりだった。

「ハハハ。でも、飽きてきたわ。ねえ、帰っても良い?」

「アア、カマワナイ」

「そう。じゃ」

 女性はそう言って去っていった。

 人気の無い場所にある名前も知らなかった施設に一人で自分はあらん限りの精神力で過多なインストールを受け止め続けた。


 時の流れなどとっくに陳腐化し、感情を持てるほどの冷静さを失い。それでも自分は自我を捨てることはできなかった。

 故に目的を果たすことはできず、あるのは過去の公開ばかり。

「終わったみたいだから来てみたけど、どうしたのその見た目」

 見せられたスマホのカメラには特に変わらない自分の姿が写っていた。時間は8:00。もし平日の8:00ならいつも通りの生活を始めるには十分だ。

「何か変わったところがありましたか?」

「うーん。そう聞かれると指摘できるほどの差じゃ無いように思うけど……ごめん。多分気のせいだわ」

「そうですか。では私はこれで失礼させていただきます」

「え? 何か用事が?」

「今日は学校でしょう?」

「まあそうだけど寝てないんじゃない?」

「そんなこと関係ありません。私は情報を得ていただけです。肉体に問題は無いので休む理由はありません」

「そっか、じゃ行きましょ」

 女性は手を後ろで組んで笑うと建物の外へあるき始めた。

 そのスキに自分の手を見る。カメラに写った自分の姿に変化は感じられなかったが直に見ると何かが違うという女性の指摘は間違っていないように思える。しかし、具体的な差異は確かに指摘できない。

 だがそんな些細なことも、手に入れた情報も、変えられない過去を変えるための役には立たなかった。

 自分は目的を果たせなかった。

 残酷にも時は止まってくれない。止めることもできない。

 自分はまた前へ進む。救えなかった事を悔いることを辞め、守れるものを守り、救えるものを救うために。

 自分の得たものはそのためにあると考えれば、変えられない過去もこれからのためにあると思えば、力になる。

 どれだけのものを得てもどうやら人はそうそう変わることはできないらしい。自分は少なくともそういう方の人間だった。

 演じることを辞めて。

「ちょっと走ろうぜ」

「ちょっと」

「速く!」

「フフ」

「なんだよ」

「私、今の君のが好きだな」

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