これは我が進む王の道
「今年も負け無しのキング。果たして今日の挑戦者はキングを打ち破る事はできるのか!?」
会場は声援で満たされていた。
リングに上がる二人の戦士に対する応援やら何やらでも意識をブレさせるわけにはいかない。
相手は強敵。今年のジョーカーだ。打倒キングのために育てられた彼は全ての試合を勝ち、ここまで来たのだ。
だが、そんな相手でも負ける訳にはいかない。負ける理由にはならないのだ。
なぜならこの会場はキングのために用意され、相手もまたキングのために用意されたのだ。観客はそれでももしかしたらを夢見てここへ足を運んでいる。
「ワアアアア!!!!!」
双方の紹介などもう誰もが知っていることだ。だが皆気持ちを昂ぶらせ出せる限りの声で答えている。
もうここに立つのは何度目かもわからない。相手より後ろは真っ暗でジョーカー以外を見ることを禁じているようだ。
「カン!」
と響く金属音に意識は完全に自分の体と一体化した。
ジョーカーの動きがどうなるのかが手にとるようにわかり自分のしたいように体は動いた。
相手に何もさせずに攻撃を当て続け、優勢を確信したのと同時に今までに感じたことの無い足元から蛇が登ってくるような感覚に体は包まれた。
順調なはずの行動が全て計画済みで今の状態こそが作られたチャンスのように思ったが攻撃の手を緩めることはできなかった。
「ふっ! ふっ!」
何度拳を打ち込もうとジョーカーは不敵な笑みを浮かべたままで劣勢を嘆く瞬間は微塵も無かった。
集中状態からなのか、それとももう決着を確信したからなのか、拳と体がぶつかり合う音しか耳には届かない。
そんな不安感がスキを生んだのだろう。
拳は空中で静止した。
「あんたはナイーブすぎる」
今までの優勢が嘘のように劣勢へと一転した。
今度は為す術もなく拳を浴びせかけられた。
一発も防げず、一発も当たらない。
「どうした? キング。まさかこれで終わりじゃあ無いよなぁ?」
口を開く余裕も無いほどの一方的な戦況だった。防戦一方というやつだ。頭では切り替えなければいけないと分かっていても、やはり誘われていた? 何故? どうして? と思考は渦のように同じところをグルグルと回転してしまっている。
「歳衰えるというのは悲しいなぁ!」
キングのために育てられたジョーカーはその役割を果たす者として適切だったのだろう。現にキングは劣勢に立たされた。しかし、ジョーカーはキングを諦めさせられるほどの実力には達していなかった。
かっと目を見開いた。
見えるじゃないか。何ということはない。ただの拳だ。
左から襲いかかってくる肉を回避する。身を少し後ろへ引きスレスレで躱した事で空気が体をなでた。
驚いたように目だけでなく口まで大きく開いた。
「ぁ!」
その一瞬のスキを見逃すことなくキングは拳をジョーカーへと乱打した。
一発一発確実に必殺の思いでそれでいて最速の突きを繰り返した。
結果はあっという間に目の前に現れた。
「今回もまたキングの逆転勝利。一度は追い込まれたものの見事に勝ちました。さすがキング魅せてくれます」
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