潜入中8
「やっぱり? みんな違うって言うんだけどそうだよね。私は間違ってなかったよね」
「いいぞ! その調子だ!」
いやいや、それは違うだろ。といった細められた目による視線を二方向から感じ取りこれ以上乗せられてアスカさんを褒めることは控えておこうと思った。
「間違ってません。なので話を進めてもいいですか?」
「いいですとも」
アスカさんは笑顔で頷くと手を留守番へと向けた。
「邪魔は入りましたが決まりましたか?」
「もちろんだとも。校長がやってくるまで粘って逃走だ」
「ちょっと待って下さい」
「いいでしょう」
さっきから担任とは違う声が耳に届いている。
「……誰ですか?……」
ルカとアスカに背を向けヒソヒソと声に出す。
「お、おい。忘れたのか? 俺はフユロウ。お前たちの体育教師だろうが」
思い出した。そう言えばこんなバカでかい声で常々話していた。体育という名のただの体の酷使の仕方を実践するだけの時間で教師を名乗っているあのフユロウだ。
しかし何故?
「……なんでですか? 担任は? ……」
ナメロウの疑問も当然だ。
「ああ、任せたと言ったっきり戻ってきていないぞ」
校長室に入ってからそんなに時間は経っていないはずなのに一体何がしたいのだ俺たちの担任は。
「で、今の状況どうすればって同じですよね」
「ああ、分かってるじゃないか」
もうこれ以上の助けも望めそうもないと判断したのかナメロウは隠れるような姿勢を辞めてすでにルカを見ていた。
慌ててナメロウにならうがまだ何も結論は出ていない。
こうなったら巻き込んでしまった俺の責任である。大元の責任は担任に求めたいが今この場に居ない人間に責任を追求したところで問題は前進しない。
早まる心臓の鼓動を少しでも遅らせるために呼吸をゆっくりにすることに意識を向けた。
「決まりましたか」
「はい」
思っていたとおりナメロウは返事をした。それに合わせて俺も返事をしたため高い女性声がハモって一瞬だがナメロウはビクリと肩を上げた。そのままこっちを睨むようにしている。そのスキに俺は話出し、歩き出した。
「俺がここに残ります」
「覚悟はいいのですね」
「もちろんです」
一歩、一歩が重く足に鉛が詰まってしまったような気分だ。
覚悟はできているつもりだった。しかし、抵抗がある以上はそれも生半可なものだと言わざるを得ない。
それでも俺は確実に自分の手をルカの前へ伸ばされた同年代の少女の手へと伸ばす。
「はっ」
とアスカさんが声のような息のようなものを吐き出した気配がした。なんだろうとは思ったが振り向くことはしないでそのまま腕を前へ出す。どうせくしゃみだろうと決めつけ興味をそこから引き剥がす。
「……!」
突然腰の辺りを後ろへ引く力が捉えた。
体制を崩して視界は少しずつ上向いていった。
「痛っ」
状況がわからず自分が尻もちを着いた現実に目を白黒させてしまう。
そのまま何事も無かったようにナメロウが右側を歩いてルカの手をとった。
「いいでしょう。約束は果たされました。ドアは解錠されていることでしょう。せっかくです。アスカさん。その子を入口まで案内してあげてください」
「……わ、わかった」
俺は呆然とした意識の中で手を引かれるままで校長室の出口へと少しずつ近づいていく、ルカへ近づく時とは違い軽い足取りで自分は進んでしまっている。
ガラガラと自分の意志とは無関係で開くドアの音でふと現実へ引き戻されまどろむ浮遊感からの落下による驚きのような感覚を利用し勢いよく回れ右の容量でナメロウへと振り向いた。
「どうして?」
「当たり前だろ? お前が友だちだからだよ」
ドアは閉まった。
隔絶されてしまった。
非情にもあれだけ固く出ることを拒んでいたドアはあっけなく開きそしてあっという間に口を閉じてしまった。
それからどれだけ歩いたことか、記憶を失ったわけではない。が来る時のような緊張は全く無く気づくと自分のベッドの上で横になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます