潜入中7
意を決してこんこんとドアを叩いた。
「どうぞ」
の声が帰ってきてから開く。
「失礼します」
中は広く天井は高く革張りの椅子に座って手を組む人物が校長のブロマイドを求める人物だと推測できた。
「あの」
ナメロウが声を出すと女性は手を掲げて制止した。
「分かっています。校長から聞いています。約束の物を置いて出ていってください」
「え、あなたが校長じゃないんですか?」
ナメロウの疑問ももっともだ。
校長室で校長出ない人間がどうして校長の席に座しているのか。
「私は校長ではありません。ただの留守番です。なので話し相手もできませんよ。さあ、用事を終えればあなたたちの緊張も解けます。早く置いて出ていってください」
そう言われればそのとおりだ。そもそも長居する気は最初から無い。
ナメロウに視線で促されポケットから校長のブロマイドを差し出す。
留守番は部屋とは関係なく普通の人のように頷いた。
「それでは失礼しました」
「いいえまだです」
要件は済んだと安心してドアに触れたところで電流のような感覚が指先にはしった。
「痛っ」
「なにするんですか、留守番さん」
「私は何もしていません。そのドアには約束が守られ、果たされるまでは何をしようと開くことはありません」
やはり超技術はここにも存在した。
「一体何が必要なんですか?」
「それは簡単なことです。一人はこの学校に残ること。それがブロマイドともう一つの約束です。さあ、私の手を握りなさい」
校長の留守番の艷やかな手が差し出された。気持ちの上で体が引っ張られた気がするが踏ん張りを効かせてその場に留まる。
どっちかは帰れないなんてことも聞いていない。この約束が現実ならナメロウが居なかったら俺は選択肢の無い状況で強制的にこの場に留まる道を選ばされた訳ではないか。
「どうする?」
ナメロウは不安そうに今までそうしたことは無かったのに声を震わせて問うてきた。
「どうするって、そんなの当たり前だろ?」
俺の気持ちは決まっている。
「早くしてください。校長が帰ってくる前に終わらせないと私も怒られるので」
怒られるかどうかは俺たちの知ったことではない。が、責任を感じさせて選択を早めさせようとしているのかもしれない。
「俺が」
「ちょっと待った!」
約束が完了した記憶は無いが勢い良くドアが開いてピシャリと閉められた。
新たな人物の登場である。
「ルカ、校長から話は聞いてる。この子たちを開放しな」
「なんですか、急に出てきたと思えば要求ですか、アスカさん。校長の許しは得ているのでしょうね?」
「そ、それは……」
アスカと呼ばれた乱入者は語尾を濁らせた。この様子だと許可は得られなかったらしい。
「どちらにしてもアスカさんがドアを締めた時点で外部の者が私の手を握り校長が戻るまでは内側からは開かないのですよ?」
「し、しまった。そっか、開けっ放しにしておけばそのスキに逃せたのか」
状況が勝手に進められてしまう状態に脳がオーバーヒートしそうだがまだ大丈夫そうだ。二人の女性の間を行き来する視線をナメロウへ向ける。
「おい。ついていけてるか?」
「大丈夫だ。ただ、アスカさんは残念って感じがする」
「せっかく助けに来たのにその言い方はひどいんじゃないか?」
「そりゃそうでしょう。彼らだってそう思いますよ。だってドア閉めちゃったじゃないですか」
「それは、そうだけど! ね、フォロー、フォロープリーズ」
そんなものできるか! 突然現れた女性の何を褒めれば? 褒めるので良いのか? そもそもそんなことしてなにかになるのか? 潜入中のコミュニケーションはまだやってない。
「目に見えることと反対の精神性を褒めろ!」
突然の男声。しかし、ドアが開いた様子は無い。再びナメロウと視線をぶつけるとお前が言えと言いたげな目とぶつかったのでここは意を決して口を開く。
「アスカさんって清楚っぽいですよね」
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