潜入中6
やってきたのは名前も知らされていない女学校とのことらしい。
お嬢様といった雰囲気で決して関係のない男が理由なく入るような所でないことは入り口から察することが可能だ。
「なあ、本当に行くのか?」
不安になってしまう。
そもそも女子ならアポイントメントさえとっていればいつでも入ることが可能らしいが男はいくらお金を積んでも入れない。そんな余計なことを言われてしまえば頑丈だと思っていた胃がキリキリしても仕方ないだろう。
過去興味で一億まで出した男(定かではない)の話なんて想像もつかないほどだった。
「当たり前だろ? ここに来て何もしないで帰れるわかないじゃないか」
ナメロウは気にしていない様子だ。
俺は学校を出るまでに自分の見た目が先輩であることが原因で間違われたことであたふたしてしまったのにそんなこと我関せずと涼しげな表情を保っていた。
ナメロウが話しかけられていなかったのは学校関係者以外を想像していたからか。
「じっとしてても仕方ないだろう。行くぞ」
そのまま背中を押されてしまってはあらがわずに前へ進むほかあるまい。
もとの日常に帰れなくなっても学校生活が続き、別の学校の存在まで出てきてしまってはここは本当にどこなのか考えてしまいたくなるがそこには意味は無い。
世界地図の形はまるっきり違っていたのだ。
測量技術の問題かもしれないが技術で言えば今過ごす日常の中で出てくるもののほうが優れていることは多い。
今の変装のようなものだ。
守衛と思われる人に軽く会釈し中に入る。
一番の関門と思われた強そうな番人を超えてしまえば不安は多少軽くなった。
「ほっ」
と思わず声まで出てしまう。
「そんなにあの人怖かった?」
「怖いよ。まだまだ格闘術は初歩も初歩なんだ。それこそ知れば知るほど自分の肉体的弱さが明るみに出るじゃないか」
「弱気になる必要は無いと思うけどな」
「何で?」
「だって、実力自体は変わってないじゃない。上がよく見えるようになったなら自分の実力もよく分かったってことじゃない? なら、ステップアップは確実になったって考えられるんじゃない?」
「そうか」
俺は実力差ばかりに目を向けてしまっていたがそんな考え方もありか。
なるほどと頷き、
「ありがとう」
と感謝を伝える。
「お、おう」
良いこと言われたつもりが感謝しただけでナメロウが動揺を示した。身を引き目線をそらしている。
「どうした?」
「いや、どうしてもまだ慣れないなって」
「何が?」
「……この見た目にこの声……」
ヒソヒソとナメロウが答えたため、周囲の様子を伺ってから、
「……わかる……」
と答えた。
俺も自分で聞こえる自分の声が普段と違うだけじゃなく、目に映る自分の姿が違う。特に髪の毛が触れる感覚は特別短くしていたと思ったことは無いが気になって仕方ない。
「まあ、帰ったら戻してもらえるだろうし、それに、いずれ教えてもらえるだろうしこらえようぜ」
「そうだな、もらった情報によるとここが目的地らしいし」
「校長室?」
「そうだよ~」
突然答えるようなナメロウで無い者の声が耳元で鳴った。
二人して警戒して背中を合わせて周囲の様子を伺うも特別怪しい行動をしている者は居なかった。
むしろ何しているんだろう? といった怪訝そうな目で廊下を歩く少女たちに見られてしまったほどだ。
程なくして自分の耳に付けていた道具を思い出す。
「脅かさないでください」
「と言っても事前に連絡するよとは言えないだろう? まあ、練習と思って」
担任は耳元の端末をとおして話しかけてくる。念の為と言っていたため本当に使われるとは思っていなかった。
「練習なら学校でやればいいじゃないですか」
「そうだね」
「そうだねって」
「まあこれは交渉だから気をつけてねってことを言っておこうと、これ以上話してると怒られるかもだから、じゃ、頑張ってね~」
「あ、ちょっ」
交渉って聞いてないぞ!
それに何で喋り方戻ってないんだ!
心のなかで叫びながら同じことを思っただろうナメロウと視線を交わし先程よりも大きく見える校長室の扉に向き直った。
耳まで響く音でつばを飲む音がした。
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