潜入中5

「それでは二つ目を発表する」

 とうとう本題だろう。

 俺はすでに聞かされているが果たしてナメロウはどんな反応を示すか。

「男の子が入れない場所への潜入と物の交換です」

「え、え!?」

 ナメロウより早く俺は声を出してしまった。

 聞いていた話と違うじゃないか。

「ただの潜入じゃないんですか?」

「あ、言ってなかった?」

 テヘと担任は舌を出して頭を下げた。

 違うそうじゃないだろう。誤って済む問題ではない。

「俺もナメロウも男ですよ。そもそも入れるわけがないじゃないですか」

「そうだね~」

 なんだ。わかっているんじゃないか。

 なら話は早い。

「無理ですよ。こんなの、帰ります。いくぞ、ナメ」

 ナメロウを見ると小声でそうかそうかと繰り返しつぶやいていた。不気味だ。

「どうしたんだよ」

「ナメロウ君はわかったんじゃない?」

「何にですか」

 担任とナメロウの視線がぶつかるとナメロウは頷き俺に向き直った。

 ナメロウの見た目もえらく可愛くなってしまっている。

「この見た目だよ」

「は?」

「この見た目さえあれば、自分自身すら欺くこの変装さえあれば僕たちでも可能だ」

 確かにそうかもしれない。ナメロウの言うとおりで見た目だけで言えばどこからどう見たって女の子だ。

 担任と同じように制服まで変わってしまっているのだからむしろそう見せるための変装だろう。

 だが、あくまでも変装であり言い換えれば女装である。

 外見の変化声質の変化で欺けるものなんてたかが知れている。

「ナメロウ。今までで思い知ってこなかったのか。ここじゃあ細かな動き、癖から誰なのかを見抜く教師がうじゃうじゃと居るんだ。それなのに自分でできない変装に頼ってなんとかなると思うか?」

「なんだよ。わかってないのはスケロウの方だ」

「何で?」

「それはここの教師がおかしいんだよ。潜入先が同じような人間がうじゃうじゃしてるなら最初から教師自ら向かってるだろ」

「そのとおりなんだな~」

 担任もナメロウに同意らしい。

 グッ、と声を漏らすことしかできず、また、変装を自分で解けないのであれば頼みを断るわけにもいかないだろう。断ったら一生このままでは不便だ。

「行きたくないのか、スケロウは」

「行きたくないならいいんだよ?」

 あの担任の試すような、笑みを隠すような表情は全く普段と変わっていない。

「行きます。行きますよ!」

 そもそも《上位者絶対の法則》によって最初から拒否権などないのだ。

「よろしい。なら概要を説明しよう」

 それは簡単なものだった。

 場所が場所なだけでただのお使いだ。

 内容は校長のブロマイドを届けることだった。

 これならわざわざ学校の女子生徒に任せてしまえばいい話ではないか。そっちのほうが無駄な緊張も減るだろうに、しかし、担任曰く、

「それじゃあ訓練としてぬるいじゃないか、それぐらいぬるいのは日常的にやってるだろう」

 とのことだった。

 学校内が外からの侵入者対策と訓練を兼ねてセキュリティに関しては抜け目なしのここスパイ学校では事故での怪我は笑い話にできるほどのものではない。痛みだけで済めばいい方である。

「はあ」

 まさか学外の任務が最初からこんなに不安要素にまみれているなんて。

「不安の無い任務なんてないよ」

「え?」

「さあ、君たち準備はいいかい? 良くても悪くても関係ない。レッツゴー!」

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