潜入中

 スケロウは訳あってスパイ養成学校へ通う中学生だ。


「はあ、今日も終わった」

「相変わらず独り言が大きいですなあ」

「げ!」

「げ! ってなにさひどいなあ」

 彼はナメロウ。

 この学校へ来てからできた友達の一人だ。

「そんなんじゃまた先生に注意されるぜ?」

「分かってるけどどうも終わりには気が緩んじゃうんだよ」

「そうかい? 僕には君は未だ何かに集中しているように見えるけど?」

「え?」

 隠し事が無いではなかった。人に知られないようにすることは思っているより体力を消費する。それがもうすでにバレている?

「なーんて、冗談だよ。帰ろうぜ」

 ナメロウは笑って立ち上がった。

 スケロウはナメロウには見えないようにほっと息を漏らすとナメロウに続いた。


「確かに今日の授業はいつもよりハードだったけどさ」

 とナメロウ。

「それでも音を上げるようなキツさは日常茶飯事だろ?」

「それもそうなんだけどさ、その少しを跨ぐ時ってのは用心しないといけない訳だよ」

「お前、用心してて疲れたのか?」

「そういうことになるかな」

「じゃあやっぱり良くないぜ。備えて力尽きるならリラックスしたほうが身は持つってやつだろ」

 なるほど。と思いつつ、スケロウは下駄箱で足を止めた。

「どうした?」

「いや、今日は用心がそもそも足りなかったらしい。忘れ物した。先行ってて」

「そうか、ま、気張るのもほどほどにな」

「うん。そうする」

 スケロウはナメロウに背を向けると教室へ戻った。

 理由は、

「約束通りに来てくれましてね」

「もちろんだ。俺に拒否権は無いんだろ?」

「当たり前じゃないですか。あなたはこの学校の生徒ですよ。いずれ社会の歯車となる。いえ、あなたの素質はすでに組み込まれているものです」

「褒めてるんだか、褒めてないんだか」

「褒めてますとも、私も心の底から怯えて日々を過ごしていますよ」

「で、話ってなんだ」

「なに、いきなり話されても困るでしょう。目を瞑っていてください」

「こうか?」

 スケロウは言われたとおりにめを閉じた。

 無理も無い。ここでもまた《上位者絶対の法則》が働いているのだ。

「おい。さすがに遅いぞ〜」

 呑気な声が響いたのはそれから少ししてからのことだった。

「君、友は帰らせるんじゃなかったんですか?」

「俺は帰らせたつもりだったんだが、そううまくはいかないらしいよ」

「そうですか、まあ、君は強くもあり弱くもある。このことは許容しましょう。一度目を開けなさい」

 ガラガラガラと音を立てて教室に戻ってきたのは案の定ナメロウだった。

「さて、ナメロウ君。スケロウ君。お話をしましょう」

「なんだって担任の話をHR終わってからまた聞かなきゃならないんだよ」

 怒りを隠そうともしないようすでナメロウら口にした。

 彼にも《上位者絶対の法則》は働いているが法則は結果に対して効果を及ぼすものだから最終的に言われたとおりにすればいいのだ。言葉でどれだけ反論しようと構わない。

 ナメロウは下校前と同じく席へ着く。

 こうしているとあの時のことを思い出す。

 俺がこの学校へ来る原因となったあの出来事を。

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