第22話

この四年間、ユミルは妃教育を受けながらアンバーとの交流もしていた。

互いに名前で呼ぶ程度にはいい関係が築けているが、ユミルはアンバーにヒロインを宛がうつもりなので嫁ぐつもりなどさらさらない。その為そこそこの距離を保っていた。


「入学式の後、良ければ学校を案内しようか」

「お気遣いありがとうございます、アンバー様。ですが私は……」


「きゃっ!?」

「っ!?」


ユミルがアンバーの申し出を断ろうとした時、短い悲鳴が聞こえ何かが背中にぶつかってきた。

バランスを崩し倒れかけたユミルを咄嗟に支えたのはミルファだ。


「ユミルちゃん、大丈夫?」

「吃驚したぁ……ありがとう、ミルファお姉様。いったい何が……?」


ミルファに支えられながら振り返ると茶髪をボブヘアにした少女が地面に座り込んでいた。

制服を見るに新入生だろう。


「ご、ごめんなさぁいっ!私、特待生で入学してきたんですけど、いろいろ珍しくってよそ見してたらうっかり転んじゃってぇ……!」


眉を下げながら申し訳なさそうに謝る少女だが、ぶつかって謝るべきユミルの方を向きながらもアンバーにチラチラと視線を向けている。


(いやいや明らかにわざとぶつかってきたよね!?特待生とか聞いてもいないのに自分で言ってるし!まさかこの子、ヒロイン……?これは出会いイベントってやつかしら!?)


ユミルが背中に感じた衝撃はうっかり転んでしまったと言う割には強かった。

意図的に突き飛ばされたと思うくらいには。

しかも口調がぶりっ子というか、間延びしている。視線を向けていることからもアンバーに近付く為にわざとユミルにぶつかってきたと考えるのが妥当だろう。


「大丈夫か?ユミル嬢」


ヒロインの標的にされているアンバーは自分に向けられた視線を軽く受け流し、ユミルに声をかける。


(そこは私よりヒロインちゃんに声かけてあげて!?)


せっかくの出会いイベントが台無しになれば、アンバーをヒロインに押し付けることが出来なくなると思いユミルは少女に話を振ることにした。


「えぇ、大丈夫です。えっと……貴女も新入生かしら?怪我はない?」


「はいっ!あ、私の名前はエカテリーナって言いまぁす!お菓子作りが得意なんですぅ、平民だから貴族の学校なんて初めてで、すごく楽しみなんですぅ。よろしくお願いしますねぇ」


怪我の有無を聞いただけなのに自己紹介と女子力をアピールするヒロイン――エカテリーナにユミルは苦笑いを浮かべるしかない。


(この子、肉食系だわ……)


ユミルという婚約者がいることを知りながらもアンバーに自分をアピールしようとする少女はこれまで何人もいたが、その中でも群を抜いて押しが強い。


「貴女、謝るつもり、あるの?」


呆れながらもある意味感心していたユミルの隣から鋭い声が上がる。

意外な事に口を開いたのはミルファだった。


「今、私にはわざとユミルちゃんぶつかったように見えた。ごめんなさいっていいながら、貴女はアンバー殿下しかみてない……ユミルちゃんが邪魔だったからわざとぶつかって、怪我、させるつもりだったの?」


ぽかんと口を開いたのはその言葉を向けられたエカテリーナだけではない。

ユミルやアンバーも同じだった。

普段大人しいミルファが声をあげたのが意外だった。


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悪役令嬢は肉が食べたい! 枝豆@敦騎 @edamamemane

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