第21話

ドードンが行方不明になって四年。

この四年間、ユミルはみっちりと王族の妃教育を仕込まれていた。それこそ魔物の肉を狩りに行く暇など無いほどに。

ドードンが戻らないことで一時的と思われた婚約も継続されており、このまま貴族学園を卒業すればユミルはアンバーの元に嫁ぐ事になっている。


ユミルが「いつかお父様は絶対に帰ってくる」と訴えても、今や使用人や家族は哀れむような視線を向けるだけ。

母であるアネッサすらユミルをこのままアンバーの元に嫁がせ、ジェダルを公爵家の後継者にすると指名した。

ドードンが戻らない以上、仕方のない事だ。

ユミルのようにドードンを待ちづつけたい気持ちは皆同じだったが、王家や国はいつ戻るか分からない人間を待ってはくれなかった。


時は流れてユミルが貴族学校に入学する日がやって来た。

ジェダルやミルファは既に入学しており、今日からユミルも同じ学校に通うことになる。


ユミルは真新しい学校の制服を身に纏い、鏡の前で小さくため息をついた。


(お父様はまだ帰ってこない……でも、学校には乙女ゲームのヒロインがいる。ヒロインと殿下をくっつければ私がこのまま殿下と結婚することはない……。そうすれば私は、またお肉を狩りに行く自由を得られる!)


ぐっと拳を握りしめ、気合いをいれる。


この四年間。

ユミルは片時も『美味しい肉を食べる』と言う目的を忘れたことはなかった。

寧ろアンバー王子の婚約者という立場を利用し、『国の食力不足を解決するため』と称して騎士団に魔物肉の調査を頼んでいたほどだ。

騎士団のお陰で食用に出来る魔物と出来ない魔物は、広く周知され平民の間では食用に魔物を飼育出来るようになったとまで聞く。


ただ、今のところその食用魔物がユミルの所に届けられる事はない。

アンバーの婚約者になってしまった為、将来の妃に魔物肉を食べさせるわけにはいかないと簡単には食べられなくなってしまったのだ。


自由に魔物を狩って食べられるようにする為にも、アンバーにはヒロインとくっついてもらわなければ。


まだ見ぬヒロインに会うためユミルは入学式へと向かった。





―――――


ユミルが学校につくと新入生達が講堂に案内されていた。

案内人は上級生が勤めるらしくその中のミルファの姿がある。

彼女はユミルの姿を見付けると微笑みながら近付いてきた。


「ユミルちゃん、入学おめでとう。一緒の学校に通えるの、嬉しい」

「私も!これからよろしくねミルファお姉様」

「もちろん」


今朝家で会ったばかりだが、学校で会うと違って見える。

ユミルよりミルファの方が貴族のご令嬢と呼ぶにふさわしい雰囲気を纏っていた。


(やっぱミルファお姉様は可憐だわ、マジ天使)


ユミルが心の中でミルファのことを褒め称えていると不意に後ろから自分の名前を呼ぶ声がした。


「やぁ、ユミル嬢、入学おめでとう。ミルファ嬢も元気そうで何よりだ」


振り返ってみると学校の最高学年になったアンバーの姿があった。



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