第14話
十数分後、ユミルは騎士団の厨房に立っていた。厨房の料理長にレシピノートの内容を話し、三角牛の乾燥肉を使って作ってみてほしいと頼んだのだ。
料理長は少し迷惑そうな顔をしたものの、ユミルが公爵家のお嬢様と聞いて渋々付き合ってくれた。
ユミルの話すままに材料を取りだし調理を行う。
指示された内容や材料からするに作っているのはスープのようだ。
しばらくしてライアン達が見守る中、スープが完成した。琥珀色のスープにキャベツと玉ねぎ、そして乾燥肉の入ったシンプルなものだ。
完成したそれをまずは料理長が味見する。
包丁すらもった事がなさそうなお嬢様の指示で作った料理なんて食べられたものではないだろうと内心でため息をつく。
見た目は悪くないけれど三角牛の味はよくないと聞いた、こういうお遊びは自分の家でやってくれ、文句を押し止めながら一口分を器に移して飲んでみる。
結果、料理長の予想は大きく外れていた。
不思議な事にスープには肉の旨味がしっかりと出ている。キャベツと玉ねぎをいれたことであっさりと食べられるものになっていた。試しにと、煮込んだ肉の欠片を口に入れてみる。スープを吸ってふやけたそれはほどよく口のなかで解れていくそれは、控えめにいってもか美味だ。
「ど、どうかしら……?」
試食した料理長がなにも言わないのをみたユミルは思わず声をかけた。
その声に料理長はびくりと方を震わせたかと思うと大急ぎで新しい器にスープを注ぎ、スプーンと共にユミルに差し出す。
「お待たせしました、こちらをどうぞ。私の味覚が間違っていないともいいきれませんので。団長達も食べてみてください!」
料理長はノルマンにライアン、ラスにもスープを入れをた器とスプーンと差し出す。
その慌ただしい様子を他所にユミルは躊躇いなくスープを口に運んだ。そして目を数回瞬かせたかと思うと、器に直接口をつけて一気に飲み干し、スプーンで具材を掻き込む。
「お、お嬢様……?」
貴族令嬢とは思えない食べっぷりに唖然とするラスが声をかけると、ユミルは心底嬉しそうに振り返った。
「これよ、これ!私が求めてた牛肉の味だわ!!さすが叔父様のレシピ!!ラスも食べて、絶対美味しいから!!」
ぐいぐいと迫られ少し躊躇いながらラスはスープを口にする。興奮するユミルを見てノルマンとライアンも恐る恐るスープを口にした。
「……うま!」
「これは、美味い!」
「……おいしい」
「ですよね!?ですよね!!」
三人の口から出た感想にユミルは満足そうに頷く。
その時だった、厨房の入り口がガタンッと大きな音と共に開かれ一人の青年が入ってきた。刈り上げとベリーショートを組み合わせた髪は黒く目はキリッとつり上がっている。歳は十七、八くらいだろうか。
「三角牛を一人で倒したヤツってのはお前か!?」
青年は挨拶も無しにぐんぐん近付いてくる。
ラスがサッとユミルを背に庇うと同時にノルマンが青年の肩を掴み進行を止めた。
「何をしに来た、今は訓練中のはずだ」
「はっ、あんな地味な訓練チマチマやってられるかよ!強いやつと戦って強くなるのが一番手っ取り早いんだ、邪魔するな!」
言い合いを始めた二人を横目に、ユミルはこっそりライアンに青年の事を尋ねてみる。
「あの……あの方はどなたで?」
「団長のご子息で、アシュトンといいます。数日前騎士候補として入団したのですが、強い者を前にするとすぐに勝負を挑むという癖がありまして……」
「なるほど……」
その名前にユミルは何か引っ掛かりを覚える。
騎士団長の息子で、強さを求めるキャラクターがたしか攻略対象にいた。肉に浮かれまくったせいでうろ覚えだがそんな名前だった気がする。
ぼんやりとしか思い出せない記憶を手繰り寄せていると、ノルマンと言い合いをしていたアシュトンが不意にこちらを向いた。
「おい、そこのお前!オレと勝負しろ!」
「…………………………え、私ですか?」
彼がビシッと指を突きつけたのはユミル、ではなく彼女を庇う様に立っていたラスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます