第12話
アンバーとの約束から一週間後。
ユミルは自室の机の上に突っ伏していた。
「王家を納得させる方法なんて……なんっにも、これっぽっちも思いつかないわ……どうしようラスー!!」
「自業自得ですね。あんなに自信満々に宣言された割に策がないなど、聞いて呆れます」
冷たく言い放つ従者にユミルは唸る。
「う……その通りなんだけどぉ……私のお肉ライフを守るためにはあれしか無かったんだもの……」
「全く。そんなに肉が大事ですか」
「大事!!お肉食べたい、お肉は正義、お肉は幸せ!」
「肉にとりつかれた令嬢と噂されても知りませんよ。そのうち肉令嬢、だとか不本意な呼ばれ方をされるかもしれません」
「あら、寧ろ噂して欲しいわ!美味しいお肉を求める仲間ができるかもしれないもの!」
ラスは小さくため息をつく。自分が仕えるお嬢様はどうしてこうも規格外なのだろうと。
「で、王家を納得させるだけの方法なんだけど。何か案は無いかしら?」
「ご自分で言い出したことでしょう、ご自分の頭で考えてください」
「……うぐぅ、正論が痛い」
直球の正論にユミルは唸りながら机にぐりぐりと額を擦り付ける。
その時、ノックの音と共にジェダルが顔を出した。
「おい、今いいか」
「ジェダルお兄様?何かあった?」
ユミルを可愛がっているミルファならばほぼ毎日のように部屋に遊びに来るのだが、ジェダルが来るのは珍しい。何か急用だろうかと問い掛けてみればジェダルは一冊のノートを差し出してきた。
「これ」
「これ、だけじゃわからないわよ。ちゃんと言葉で説明してくれなきゃ」
「…………父さんの、レシピノートだ。お前に貸してやる」
「叔父様の?」
ノートを受け取りページを捲ってみると綺麗な字で肉料理のレシピがたくさん書かれていた。メモがわりにもしていたのか余白までびっしりこうしたらこうなる、この味付けなら悪くないだがもうひと味欲しいといった内容が事細かに記されていた。
「……凄い、叔父様凄すぎる!」
「当然だろ、父さんは世界一だ」
父親を誉められて嬉しいのか胸を満足げなジェダルにユミルは思わず抱き付いた。
「ジェダルお兄様の言うとおりだわ叔父様は世界一よ!叔父様のこれがあれば魔物のお肉だって美味しく料理できるかも!そうしたらきっと王家だって納得するわ!」
「は!?王家に魔物の肉を出すつもりかって……ちょっ!?おい、離れろっ!」
レシピノートを手にむぎゅむぎゅとジェダルに抱き付く義妹を剥がそうとするか以外と力が強く、ぐいぐいと押し退けても剥がれない。
それどころがふんわりといい匂いが漂いユミルのさらりとした髪が頬を掠め、ジェダルは困惑した。
「お嬢様、ご兄弟とはいえ異性に軽々しく抱き付いてはなりません」
ジェダルでも引き剥がせなかったユミルをラスは簡単にべりっと引き剥がす。
「あら、私としたことが……ごめんね?お兄様、つい興奮しちゃって」
おほほと笑って誤魔化しながらユミルはレシピノートをそっと抱き締める。
「でもお兄様のお陰で希望が見えたわ、ありがとうっ!」
「あ、あぁ……」
「さっそく料理長……いいえ、お父様と交渉してまずは買い出しね!」
呆然とするジェダルを置き去りにユミルはノートを胸に抱いたまま部屋を飛び出した。
「お嬢様!廊下は走ってはなりません!」
「わかってるー!」
ラスの注意も口だけで返事をするが走り出した足を止めようとはしない。あっという間に廊下の角を曲がり、ユミルの姿は見えなくなった。
「全く……仕方がない。ジェダル様、失礼します」
「あぁ……あんたも大変だな」
「ご理解いただけて何よりです……」
ため息を飲み込みつつユミルの後を追うラスを眺めながら、ジェダルは少しだけ嵐のような義妹に振り回される彼に同情した。
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