第15話 スター誕生
僕はあの黒猫が頭から離れなかった。
ビロードのような光沢ある毛並みに緑色した宝石のような目。
上品で高貴で気高い雰囲気を持ちつつ、船に乗り、漁師さん達に可愛がられている。なんとも魅力的な猫だ。
「おい、マーブル。何をさっきから考えておるんじゃ?」
「え?!」
「恋でもしたかの?」
「恋?!」
「あの娘の事、考えてたじゃろ?」
「あ、あの娘って誰ですか?」
「あの、黒猫に決まっとるわい!何をとぼけとる?」
「イカのお礼でもしなきゃいけないな~って考えてただけですよ!」
「ほ~う。確かに、お礼はしなきゃいけないな」
「何がいいですかね~?食べ物ですかね?でも、食べ物には困ってなさそうですもんね。なんだろう?じゃあ、何か遊べるものがいいですかね?どんなのが好きなんだろう?う~ん、わからないな~」
「わからないのなら、聞けばいい」
「え?」
「素直に聞いてみたらどうかね?その方が確実じゃろ?」
「ま、そう言われてみればそうですね~」
「じゃあ、会いに行って来なさい」
「でも、どこにいるかわかりませんし」
「お前さん、足ついてるじゃろ?」
「はい」
「歩いて探しに行かんかい!」
「あ、はい」
「ほれ、行ってこい」
「はい!」
僕は彼女が乗っていた船に一先ず、向かってみることにした。
漁師たちは家に帰り、波止場は静まり返っていた。
磯の風が優しく鼻をくすぐる。
船からのロープをつないでおく、ビットの上にあの娘は優雅に丸くなっていた。
僕のシッポはピクピクッと小さく速く動いていた。
緊張はしているけど、それより彼女への興味が強くて足が一歩一歩と動いていった。
「あ、あの~。先ほどは新鮮なイカをありがとうございました。何かお礼がしたいのですが、食べ物には困ってなさそうですので、何がいかな~と思いまして、直接聞きに来ました」
「・・・・・・」
彼女はこちらを振り向き、僕を睨みつけた
「何が・・・・・・欲しいですか?」
「んなこと、自分で考えろ!」
「?!」
彼女は海を見ながらまた丸くなった。
確かに、僕は簡単に答えを得ようとしていた。
彼女の事を知らなければ何が欲しいかなんてわからない。
僕はしばらく彼女の背中を眺めていた。
「カシャッ」
僕は驚き俊敏に体ごと振り返った。
そこには中年の男性が僕と同じ目線でカメラを構えていた。
「カシャッ」
また撮られた。
カメラの横からひょっこり顔が出ると、それはどこかで見たことのある顔。
「岩合光昭さんではないか?!」
元ご主人さんが岩合さんのファンで写真集を買ったりサイン会に行っていた。
猫界では有名な写真家である。
僕も岩合さんの写真集に載るのか?
なんと光栄な!
是非もっと撮ってもらいたい!
僕は昔に戻って、甘い声を出して岩合さんの足に絡まり始めた。
「よ~しよし」
岩合さんの掌からは温もりが伝わり、なんとも気持ちがいい。
自然とゴロゴロが出てくると、薄目から猫たちが数匹見えた。
目を開けてみるとそこには数匹どころか、数十匹の猫達がよ~しよし待ちをしていた。
岩合さんは数十匹の猫に構わず、まっすぐと彼女の元へ行き、写真を撮り始めた。
岩合さんも彼女の魅力に気付いたか~。
あ~その写真、僕にに頂けないだろうか。
丸まっていた彼女はビットの上でいろんな態勢をして、気持ちよさそうな顔をしている。岩合さんを完全独占し、もはや単独撮影会となっていた。
さすが彼女。なんてカリスマ性!
彼女の堂々とした姿にまた惚れ惚れとしてしまう僕であった。
猫島 井上 流想 @inoue-rousseau
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。猫島の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます